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リオ五輪代表、サガン鳥栖に7点圧勝。アジア最終予選へ光は見えたか?

川端暁彦サッカーライター/編集者
スピード豊かにGKを抜き去り、ダメ押しのゴールを突き刺すFW浅野拓磨(広島)

セットプレーから先行して圧倒

10月25日から始まったU-22日本代表(リオ五輪代表)の佐賀強化合宿。「いつもより1日長く時間をもらえた」と手倉森誠監督が言うように、週末にJ1リーグの試合がないこともあって確保した日程を使って福岡大学およびサガン鳥栖とのトレーニングマッチを消化することとなった。狙いは明瞭で、言うなれば「仮想アジア」。肉体的な強さに特色を持つ両チームとの対戦を通じてチームのブラッシュアップを図ることとなった。

最終日となった29日には、合宿の締めくくりとしてJ1鳥栖と対戦。「8月の京都戦、9月の(J3)町田戦、そして福岡大と結果が出ていないことに対して、一人ひとりが危機感を持って臨んだ」(DF奈良竜樹=FC東京)この試合は、思わぬ大差がつくこととなる。

2得点のDF奈良竜樹(FC東京)をMF大島僚太(川崎F)がハイタッチで祝福
2得点のDF奈良竜樹(FC東京)をMF大島僚太(川崎F)がハイタッチで祝福

日本の先発はGKに櫛引政敏(清水)、DFが右から室屋成(明治大)、岩波拓也(神戸)、奈良、亀川諒史(福岡)、中盤が右から関根貴大(浦和)、大島僚太(川崎F)、原川力(京都)、矢島慎也(岡山)、2トップを金森健志(福岡)と荒野拓馬(札幌)が組んだ。常連組の中に初招集の関根が混ざる形となり、この合宿を通じてその評価が大きく高まったことをうかがわせるチョイスと言える。また2トップは「鳥栖を格上と考えて、一番チェイシングができる守備能力の高いセット」(手倉森監督)としての選択。まずは守備からというコンセプトを徹底して、慎重にゲームに入った。

対する鳥栖は東アジアカップ日本代表のMF藤田直之を含む主力数名も先発したが、控え中心のメンバー構成。鳥栖をしっかりリスペクトして試合に入ってきた相手に対し、終始攻めあぐねることとなる。日本の守備陣が警戒していたロングボールはほとんど使うことなく、後方からビルドアップの意識を高く持ってゲームを運ぶ。だがこれは守備力に秀でる2トップを配した日本にとって格好のターゲット。「前線からの連動したプレスが機能した」と奈良が振り返ったように、鳥栖に攻撃の形を作らせなかった。

満を持しての招集となったMF関根貴大(浦和)は一気にレギュラー候補へ浮上した
満を持しての招集となったMF関根貴大(浦和)は一気にレギュラー候補へ浮上した

15分と24分に原川力のCKから奈良が頭で決めるというリプレーのような連続得点で試合の主導権は完全に日本の掌中に。基本コンセプトであるサイド攻撃を繰り返す流れの中で生まれたCKからの加点は、「流れの中からの得点ではないが、流れの先にあった得点」(手倉森監督)である。そして45分に交代出場のMF中島翔哉(FC東京)がPKを決めると、直後に同じく交代出場のFW浅野拓磨(広島)が相手の不用意なパスをカットし、飛び出したGKの上をチップキックで破る技巧的なゴールを決めて、4-0。完全に勝負が決まった状態で迎えた後半は、足の止まった相手を面白いようにカウンターのワナにハメ込んで完勝。特に徹底して相手DFの裏を狙って動く浅野と足元でボールを持ててスルーパスを出せる鎌田大地(鳥栖)が組んだ後半10分過ぎからのコンビは強烈。この二人とMF野津田岳人(広島)が自慢の左足ミドルシュートをぶち込んだ形とで3得点を上乗せし、7-0での圧勝となった。

しかし、「アジアでの戦いはまったく別のモノ」

練習試合を前に言葉を交わすA代表・ハリルホジッチ監督と手倉森監督
練習試合を前に言葉を交わすA代表・ハリルホジッチ監督と手倉森監督

鳥栖が全体に覇気を欠いたことを差し引いても、小さからぬ意味を持つ勝利だ。これは手倉森監督が「われわれのやっている方向が間違っていないということについて自信を深められた」と振り返ったとおり。逆に言えば、ここでも結果が出ないようであれば、チームが求心力を失っていく可能性もあったわけで、来年1月のAFC U-23選手権(リオ五輪アジア最終予選)に向けてポジティブなゲームだったと言える。

また、どうしても7得点に目を奪われがちだが、この試合のポイントは相手の攻撃をほぼ完璧に封じ込んで無失点で乗り切ったこと。後半から出場したGK中村航輔(福岡)が「僕の仕事はほとんどなかったので」と言ったのは謙遜ではなく、紛れもない事実。京都戦から脆さを見せてきたクロス対応の部分を含めてチームが攻守で高い強度を発揮し、相手を上回れた意義は小さくない。目まぐるしく選手が入れ替わる中で、CBの岩波と奈良だけがフル出場を果たしていることにも、指揮官が「守備から入った」この試合に求めていたものが何かをうかがうことはできる。「最終予選で大事なのは技術よりも気持ちや戦う姿勢だと思っている」と奈良が言うように、そうした姿勢の出た試合だったとも言えるだろう。

もっとも、これでアジア予選突破は安泰などと言うことはない。MF原川力(京都)は「アジアでの戦いはまったく別のモノなので」と楽観論を一蹴。「今日の鳥栖みたいに前からボールを奪いに来てくれる相手であれば僕らはやりやすいけれど、(アジア予選は)そうでもないと思うので」と続けた。確かに、プレッシングからの速攻という狙いが噛み合った試合展開がアジアで再演できるかというと怪しいところで(逆に言えば、五輪本大会はそれをやりやすいはずだが……)、この日のように日本が相手をリスペクトして試合に入るのではなく、相手が日本をリスペクトして試合に入ってきたときにどうするかは依然として大きな課題だろう。事実、2日前に行われた福岡大との練習試合は0-0のドローに終わっている。

異端のFW鎌田大地(鳥栖)の使い方も、まだ定まっていない
異端のFW鎌田大地(鳥栖)の使い方も、まだ定まっていない

指揮官は「(アジア予選では)われわれのやりたいサッカーを壊しに来るチームが絶対にある。嫌なことをされたときにどうするか」と言うが、これはまさにそのとおり。アジアでの決戦まで3カ月足らずという段階で、チームは「あとは俺が23人をどう選ぶかだけ」(手倉森監督)というところに来ているわけで、ストレスのかかる戦況になったときにやれるのは果たして誰で、どういった戦い方のバリエーションを用意すべきなのか。その上で、「若い選手のパフォーマンスの波をしっかり察知して良い(波の)選手を呼ばないといけない」(同監督)。俗に代表監督は「セレクター」と言われるが、いよいよ手倉森監督の、単なる指導者ではない「代表監督としての」手腕と眼力が問われる段階に至ったとも言えそうだ。

サッカーライター/編集者

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。2002年から育成年代を中心とした取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月をもって野に下り、フリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』を始め、『スポーツナビ』『サッカーキング』『サッカークリニック』『Footballista』『サッカー批評』『サッカーマガジン』『ゲキサカ』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。著書『2050年W杯日本代表優勝プラン』(ソルメディア)ほか。

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