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ドーハの決戦。リオ五輪アジア最終予選準々決勝イラン戦、「1点勝負」への戦術的ポイント

川端暁彦サッカーライター/編集者
試合前々日のシュート練習で驚異的な決定率の高さを見せていたFW久保裕也(写真:FAR EAST PRESS/アフロ)

イランの“個”

1月22日から、AFC・U-23選手権(リオ五輪アジア最終予選)の決勝トーナメントが幕を開ける。日本、韓国、カタール、UAE、イラクなどの8強から五輪切符を手にすることができるのは上位3カ国のみ。手倉森誠監督率いるU-23日本代表はまず、難敵イランと対峙することとなった。

イランはA代表を含めてアジアの各大会で火花を散らしてきたライバル国。今回、U-23イラン代表を率いるハクプール監督は、1997年のフランスW杯アジア最終予選の3位決定戦で日本と死闘を演じたとき(いわゆる『ジョホールバルの歓喜』)のメンバー。「縁」を感じる相手ではある。チームカラーも当時から続く伝統そのままに、攻撃重視。他のアジア諸国については日本を相手にすると守備を固めてくるところが多いのだが、イランに関してその手はないだろう。「今まで戦ってきた相手よりも前線の“個”がある」(DF遠藤航)という特長を前面に押し出して、「殴り勝つ」ことを目指してくるはずだ。

前線の“個”で注目なのは[4-1-4-1]のワイドハーフに位置するメフディ・トラビ。A代表の一員として昨年10月の日本戦でゴールも記録している、ハイレベルなタレントだ。左右両方で起用されていることから、まず彼がどの位置で出てくるかが問題だが、いずれにしても質の高いボールタッチで起点になりながらダイナミックにゴールへ向かって進出してくるプレーは脅威。直接FKによる“一発”があるのも厄介だ。同じくA代表に名を連ねた経験を持ち、欧州進出間近のミラド・モハマディもボールを持ったときの怖さは十分にある。10番を背負うアルサラン・モタハリも勇敢かつ抜け目のないストライカーで、十分な警戒が必要だ。

もっとも、今回のイランはA代表メンバーで、本来ならエースであろうFWアズムンが病欠となり、欧州組も所属クラブに拒否されて招集できないなど、個の力という意味では確実に戦力ダウンしているチーム。日本が粘り強い折衝でFW久保裕也とMF南野拓実の招集に成功しているのとは対照的な状況だ。イラクやオーストラリアも欧州組の招集ができずに戦力が低下しており、準備段階で「風」が日本に吹いている面もある。

布陣、切り札、セットプレー

そんなイランに対して日本がどう戦うか。前日練習は冒頭15分を除いて非公開となったためにメンバーの予測は困難だが、手倉森監督は「柔軟性と割り切り」を掲げて、相手に合わせて形を変えるサッカーを若い選手たちに浸透させてきたことを思えば、この決戦でフォーメーションを変えてくる可能性はあると見る。イランの[4-1-4-1]システムに対応する形で、相手のアンカー(中盤の底)に対してプレッシャーをかけやすい[4-2-3-1]への布陣変更があるのではないか。

基本布陣の2トップから1トップに変更する理由は戦術的な理由に加えて、戦力的な事情もある。FW鈴木武蔵がタイ戦で負傷し、依然として別メニュー調整を続けている状況のため、先発で久保と2トップを形成することが難しいからだ。代わってFW浅野拓磨を先発させる手もある。ただ、「90分もしくは120分を戦い抜きたい」(手倉森監督)と、すでにロースコアのゲームを想定している慎重な指揮官が、チーム最強のジョーカーをいきなり場に出すとは考えにくい。ここは久保の1トップでスタートして、流れの中で浅野を投入してから切り替える形になるのではないか。ディフェンスラインを高く保ってくるイランに対して、スピードで勝負する浅野はまさに切り札となれる存在。それだけに、勝負どころまで温存すると見る。

そして1点勝負となれば、大きなポイントとなるのは、セットプレー。グループリーグでは手の内を隠してきたが、ここまで来れば手札をオープンにしていくのみ。「いい位置でもらえれば、(トリックプレーを)チャレンジしてみたい」(DF山中亮輔)と、選手側も準備は万端。前日練習でもセットプレーの確認は入念に行われたようで、その成果が出ることを期待したい。もちろんセットプレーを防ぐというのも重要な要素で、グループリーグで目立った手を使った不用意なファウルは厳に慎みたいところだ。

「ミスをしたほうが負けるゲームになる」とシンプルに決戦を展望した指揮官は、「(点を)取れないなら取らせないという手堅い戦いを心がけたい」とも語っている。相手の得意な殴り合いの展開ではなく、「1点勝負」の流れに持ち込んで勝ち切れるかどうか。負ければ終わりの緊張感の中、じりじりと焦れるような展開になることも予想される「しびれるゲーム」(同監督)は日本時間の1月22日、22時30分から幕を開ける。

サッカーライター/編集者

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。2002年から育成年代を中心とした取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月をもって野に下り、フリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』を始め、『スポーツナビ』『サッカーキング』『サッカークリニック』『Footballista』『サッカー批評』『サッカーマガジン』『ゲキサカ』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。著書『2050年W杯日本代表優勝プラン』(ソルメディア)ほか。

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