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U-23日韓決勝。「柔らかい韓国」と「堅い日本」。伝統の一戦は非伝統的なチームカラーの対決に

川端暁彦サッカーライター/編集者
試合前日の公式会見にて、日本の手倉森誠監督(左)と韓国のシン・テヨン監督(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

「勝つか負けるかで一変する」試合

1月30日、AFC・U-23選手権(リオ五輪男子サッカーアジア最終予選)の決勝戦が行われる。この最終舞台に勝ち残ったのはアジアのライバル、日本と韓国。準決勝での勝利で両雄ともにリオ五輪出場権が決めた直後だけに気の抜けた「最終舞台」になる懸念もあった。だが、日韓両国が残ったことで、その心配は完全に杞憂。U-23日本代表を率いる手倉森監督は「日本国内では祝賀ムードもありますけれど、勝つか負けるかでその祝賀イベントも一変する、そういう重要なゲームになる」と語ったが、それは韓国も同じだろう。純粋にサッカー的な意味に限定しても因縁深い両国だけに、この一戦へ向けて並々ならぬ闘志を燃やしている。伝統的なライバル関係は(シン監督に言わせれば、「地球滅亡のその日まで」)不変。ただし、チームとしてのスタイルは、それぞれ伝統的なそれとは異なる戦いぶりとなっている。

新時代の「日本らしさ」

韓国のシン・テヨン(申台龍)監督が日本のことを「最も優れた守備組織を持つチーム」と評したとおり、今大会の日本を特徴付けているのは「守備力」にある。5試合を戦って2失点で、それもPKとCKによるもの。「日本は今回、耐えて勝つスタイル」と手倉森監督が明言するとおり。主将のMF遠藤航は「もっとボールを回したい気持ちはみんなありますよ」と語りつつも、「この大会はまず結果だと思っている」と徹底して守備を重視する戦いをチームとして納得した上で貫徹してきた。一般的に流布している、短くパスを回すことを身上とする「日本らしさ」から離れたスタイルだが、苦境に対しても団結して我慢強く戦う様は、これはこれで「日本らしさ」だろう。

韓国に対しても基本的な形は変わらない。手倉森監督は負傷を抱えるFW鈴木武蔵(新潟)の欠場を明言したが、一方でここまで唯一出場機会のないGK牲川歩見(鳥栖)を起用する“温情采配”の可能性も「ない」と断言。決勝をご褒美、おまけのステージとして捉えるのではなく、あくまで戦いの場、そして五輪本大会への準備の場とする考えだ。「全部勝って優勝することで、これまでの彼らの経歴より、これからの可能性のほうに希望の光が差せばということ。それを考えれば、絶対に勝たせてあげたい」と必勝の構えで臨む。

鈴木に代わって高さで勝負できるオナイウ阿道(千葉)の先発は確実で、今大会3得点のFW久保裕也(ヤングボーイズ)との2トップが有力。浅野拓磨(広島)は引き続き、スーパーサブとしての役割を担うこととなる。中盤の両翼は右の南野拓実(ザルツブルク)が帰国したため、万能型MF矢島慎也(岡山)の右サイドでの先発が有力。左は豊川雄太(岡山)が負傷を抱えていることもあり、引き続き10番の中島翔哉(FC東京)が先発しそうだ。ボランチは技巧派MF大島僚太(川崎F)と遠藤のコンビか。遠藤も負傷を抱えていたが、順調に回復してきており、先発に支障はないと見る。何より、「勝つ」ことを考えるなら、知性と闘争心を兼ね備える主将は外せない。

GKは櫛引政敏(鹿島)で不動。バックラインは左にプレースキックの名手・山中亮輔(柏)、右に今大会抜群の働きを見せる室屋成(明治大学)が並び、中央に準決勝の先発落ちで奮起している岩波拓也(神戸)の先発も確実。問題は岩波の相方で、ローテーションの順番で言えば奈良竜樹(川崎F)となるが、後述する高さ勝負の展開もあり得るだけに、続けてヘディング王・植田直通(鹿島)が先発を張る可能性も残る。亀川諒史(福岡)と松原健(新潟)の両サイドバックはコンディションの問題があり、今回も先発は見送りか。

ストライカー不在、パス勝負の韓国

対する韓国は五つのフォーメーションを使い分けるとシン監督が豪語し、実際に多彩なシステムで勝ち抜いてきたチームだ。直近の準決勝カタール戦は[3-4-3]と呼称しているが、実質的には5バック・1トップの守備的な布陣を採用して試合に入りつつ、選手交代なしに4バックに切り替えて戦うなど、柔軟性を見せた。戦いぶりも一貫してスマートで、単純に蹴り込みまくっていたかつての韓国らしさは余り感じられない。

もっとも、これはロングボールやクロスボールの連続から個人能力でゴールを奪ってくれるような絶対的ストライカーを欠いていることと裏表。「弱い」と評されることが多かったのもそれが理由と聞くが(ストライカーの能力でチームの力を推し量るのは「韓国らしい」発想だが)、日本が出場できなかったこのリオ五輪世代のU-20W杯でベスト8まで勝ち残っている世代であり、言うほど「弱い」代であるはずもない。今回のチームで軸となっているのも、当時の「世界八強戦士」たちである。ちなみに、2014年のアジア競技大会の準々決勝で日本を破ったのはその上の世代であり、日本側の心理面にこそ影響が残るものの、直接的な参考材料にはなり得ない。

布陣はカタール相手のような5バックは考えにくく、恐らく日本の[4-4-2]に対応する形の[4-3-3](4-1-4-1)を採用し、日本の両ボランチに激しくプレッシャーをかけてくるのではないか。一方、選手起用の予想は悩ましい。欧州組のFWファン・フィチャン(ザルツブルク)が帰国している南野と同じく所属クラブの要請で帰国を余儀なくされており、もともと手薄だった前線の陣容はさらに薄くなった。1トップを張るのは、190cmのFWキム・ヒョン(済州)が有力。不調も伝えられていたが、徐々に調子は戻してきているようで、純粋な高さ勝負ができるFWとして脅威なのは間違いない。ただ、最も怖いのは右サイドで起用されそうなクォン・チャンフン(水原)だろう。A代表ですでに3ゴールを記録している未来のスター候補で、単独突破でも連携に絡んでも強さを見せる。地味にヘディングも強いので厄介な選手だ。逆サイド、あるいはトップ下に入るリュ・スンウ(レバークーゼン)も確かな技術で起点になる、要警戒の選手である。

彼以外にも、韓国の中盤にはイ・チャンミン(全南)、ムン・チャンジン(浦項)といった技術のある選手がそろう。またアンカーに入るパク・ヨンウ(ソウル)はポジティブな意味でもネガティブな意味でもポイントになり得る存在だ。186cmの高さがあり、ソウルでは主にCBとしてACLなどでも活躍を見せてきたタフガイだが、中盤の選手としてはスキもある。うまくプレッシャーをかけていきたい。

バックライン中央は190cmの偉容を誇るJリーガーのソン・ジュフン(水戸)を含めて高さで勝負できる選手が並ぶ。オナイウがどこまで彼らを背負ってボールを持つ、あるいはハイボールに競り勝てるかは試合を分ける要素にもなり得る。また最後尾を預かるGKキム・ドンジュン(延世大)も大柄ながら俊敏で、大学生ながらA代表メンバーにも名を連ねている期待の逸材だ。近年はJリーグへの韓国人GK進出が加速しており、そのうち彼も日本で観られるかもしれない。

未来のために勝利を求む

手倉森監督は日韓決戦を前に「俺の直感、勝つ直感でやる」と断言。普通の流れならむしろ心配になってしまうコメントだが、普通ではない神懸かった用兵を見せてきただけに、その言葉にも確かな説得力がある。

もちろん、まず勝つことを目指すのは、それが五輪本大会につながるという確信があるから。この試合を終えれば、五輪本大会まで親善試合をこなすのみで真剣勝負の機会はない。どんなシチュエーションでも日韓戦となれば必ず真剣にやってくれる韓国相手の試合は、本大会を見据えても格好の場だ。「何が起こるか分からないようなゲームになるのが、またいい経験になる」と指揮官も言う。

大会前から掲げた目標は、五輪切符ではなく「6戦勝って、アジアのてっぺんを獲る」ことだった。それを懸けて戦う相手が韓国になったことも想定通り。1月30日、ドーハでの日韓戦。五輪本大会に向けても、より先のステージに向けても、若い選手たちが勝利によって「自信」という財産をつかむことは、日本サッカーの未来にとって確かな意義を持つことになるはずだ。

サッカーライター/編集者

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。2002年から育成年代を中心とした取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月をもって野に下り、フリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』を始め、『スポーツナビ』『サッカーキング』『サッカークリニック』『Footballista』『サッカー批評』『サッカーマガジン』『ゲキサカ』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。著書『2050年W杯日本代表優勝プラン』(ソルメディア)ほか。

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