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五輪代表・選考直前ラストマッチ。『託す人』と『託される人』に分かれる試合に

川端暁彦サッカーライター/編集者
アジア最終予選決勝の先発11名。ここからも「託す人」は出ることだろう(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

6月29日、U-23日本代表はリオ五輪前、長野県松本市にて国内最後の強化試合を実施する。U-23南アフリカ代表と戦うこのゲームは、7月1日に予定されているメンバー発表前最後の選考試合でもある。手倉森誠監督はその試合に臨むにあたり、選手たちにこんなメッセージを送った。

「いよいよ五輪のメンバーが決まる。どうしても『選ばれる』『落とされる』という表現になると思うけれど、自分は選手たちに『託す人』と『託される人』に分かれるんだという話をしました。託された人がそういった仲間の思いを十分に汲んで、より覚悟と責任感を強めて戦わないといけない」

18人という枠がある以上、『選ばれる』選手と『落とされる』選手に分かれるのはどうしようもないことである。そして五輪代表は、五輪という大会の終了と同時に解散となるのだから、予選などの過程で『落とされる』のとは重さが違う。選手としてのレベルアップを考えても、キャリアを考えても、「五輪に出るかどうか」は決して軽くはない。人間なのだから、感情的になってしまう部分も出てくるだろう。それに対して手倉森監督は冒頭の言葉を選んで、特に『落とされる』選手へのメッセージを続けた。

「このチームが育んできたものとして、世代としてのまとまりがある。五輪が終着駅ではないし、すべてではないという話もした。彼らが将来日本のサッカー界を担えるところに向かってやり続けていってほしい。そういう集団であってほしい」

選考前最後のアピール機会である。このラストチャンスで久々の復帰となった選手も多い。試合となれば気合いが空回りする部分もあるかもしれないが、練習を観て話を聞いている限り、チーム内にギスギスした雰囲気が生まれている様子はない。当落線にある選手でさえ、追い詰められたような様子はなかった。「『アピールは明日だけじゃない』というふうにも話しました」と釘をさした手倉森監督は南アフリカ戦に臨むチームマインドを次のように表現した。

「日本に自分がいるんだということを思う存分ピッチに出たときは表現してほしい。全員でね」

泣いても笑っても、29日の南アフリカ戦が選考前のラストマッチである。ここでのパフォーマンスで指揮官の指名を勝ち取る選手が出るかもしれないし、逆もあるかもしれない。ただ、サッカーの世界において五輪は決して終着駅ではあり得ない。手倉森監督が記者会見の最後に漏らした「何よりU-23だけで戦う試合で、彼らのこれまでの成長とこれからの可能性というのを存分に示してもらいたい」という言葉は、2年半に及ぶ活動の中で大きな成長を見せた選手の様子に目を細めてきた指揮官にとって掛け値なしの本音だろう。

『託す人』と『託される人』に分かれる最後の一戦。それはオーバーエイジが加わる前、『U-23』として戦うラストマッチでもある。松本の地で『リオ五輪世代』としての力を、未来への可能性を、大いに見せてもらいたい。

サッカーライター/編集者

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。2002年から育成年代を中心とした取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月をもって野に下り、フリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』を始め、『スポーツナビ』『サッカーキング』『サッカークリニック』『Footballista』『サッカー批評』『サッカーマガジン』『ゲキサカ』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。著書『2050年W杯日本代表優勝プラン』(ソルメディア)ほか。

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