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Jリーグは「2ステージ」どころか「ドラフト」もやった方がいい?

川端康生フリーライター

2ステージどころかドラフトもやった方がいい

実は「2ステージ」制の話題がJリーグから聞こえ始めるより前から、僕の周囲では「改革」の必要性は語られていた。

たとえば僕自身がしばしば口にしていたのは

「……Jリーグの状況を考えれば何かやらないと。このままではJリーグの存在感はどんどん薄れていってしまうよ。だいたいいまのJリーグの順位を知ってる人がどれだけいる? それどころかチーム名だって全部言える人なんてほとんどいないよ。

……プロ野球のクライマックスシリーズはペナントレースの価値を損ねていると思う。シーズンで3位のチーム、それも6チーム中3位のチームが日本一になる可能性があるなんてシンジラレナイ……でも、それで関心を持ってもらえるのならJリーグも考えてみてもいい。とにかく『チャンピオンシップ』の復活、これはやるべきだよ。日本シリーズ(チャンピオンシップ)をやれば多くの人が関心持つし、メディアにも取り上げてもらえるんだから」

だから、僕は「2ステージ」制に反対でではなかった。

それどころか、こんなことも言っていた。

「とにかく地上波放送のないいま、Jリーグに触れる機会を作ることが先決。何なら『ドラフト』だってやればいいんだ!」

かなり乱暴な意見に聞こえるかもしれない。

もちろん「チャンピオンシップ」はともかく、「ドラフト」は半ば冗談だ。「野球」と違って、アマチュアからプロまで(子供から大人まで)すべての選手が「サッカー協会」に登録されている「サッカー」においては、「ドラフト」はそもそも必要ない。

競技団体の構造が根本的に違うから、野球のようなアマとプロの垣根はサッカーには存在しないし、だから高校生や大学生がプロ(Jリーグ)の試合に出場することもできるのだ。

プロ野球とJリーグの違い

競技団体の構造――について以前書いたコラムがあるので抜粋して説明しておこう。(以下、湘南ベルマーレ公式サイト内http://www.bellmare.co.jp/12111より)

野球界は「プロ」と「アマ」が分離しています。ぶっちゃけて言えば、仲が悪い(最近は雪解け気味なので「仲が悪かった」と言った方が正確かもしれませんが)。とにかく、まったくの別団体です。

だから選手たちは、高校や大学時代は日本学生野球協会、社会人になると日本野球連盟(1985年に日本社会人野球協会から改称)に所属し、その後、日本野球機構と契約してプロになります。野球少年がプロ野球選手になるまでにはそういう流れを経なければならない。

要するに日本学生野球協会にしても、日本野球連盟にしても、日本野球機構にしても、それぞれに一部のカテゴリーだけを統括しているだけで、日本で行なわれている野球すべてを統括しているわけではありません。だから、もちろん重複して所属することもできません。退部届けを提出した後でなければ、プロと交渉することができないのはそのためです。

しかも、アマとプロの関係が良好ではないので両者の連携もスムーズではありません。スムーズでないばかりか、いがみ合っていたこともありました。父と息子がキャッチボールさえできないなんて時代もあった。お父さんがプロ野球選手だったからです。プロがアマに接触することさえ許されていなかった。

もちろん両者をまたいだ活動を行なうことなどとてもできませんでした。だから日本野球(全体)のレベルアップのためにアマとプロが協力し合うなんてこともできなかった。プロが持つ高い技術やノウハウをアマチュアに提供することもできませんでした。

そんな構造の野球界は、極端に言えば「何でもあり」の世界とも言えます。戦後の闇市みたい部分をまだ残している感じ。

だって全体をオーガナイズしている組織がないばかりか、日本野球機構がプロの野球すべてを統括する唯一の団体と定められているわけでもないのです。だから日本野球機構が行なっている「現在のプロ野球」以外のプロ野球ができたっていい。事実、「現在のプロ野球」の内部から「新リーグ構想」が浮上したこともありました。

少し時代を遡れば現実に独立リーグが存在していたこともあった。「国民リーグ」です。結城ブレーブス、大塚アスレチックス、宇高レッドソックス、唐崎クラウンズの4チームが当時のプロ野球に対抗する形で戦後の復興期に新リーグを旗揚げしています。結果的にはごく短命で終わりましたが、野球界では(興行として成り立てば)こうしたことも可能だということです。

翻ってサッカーでは子供も大人も、アマチュアもプロも、サッカー協会が統括しています。早い話、プロ団体の「Jリーグ」はサッカー協会の中にあります。だからプロが子供を指導することもできれば、日本全体のレベルアップのために共通の強化レシピを作成して少年時代から一貫した指導を行なうこともできる。

それどころかサッカーではプロとアマが公式戦で対戦したりもします。そう、いま行なわれている天皇杯です。

無論、野球界ではこんなことは起こりえません。僕らの世代は桑田、清原がいた頃のPL学園を見ながら、「プロのチームと対戦しても、いい勝負をするのでは」なんて空想をしたものですが、そんなことは公式戦は言うに及ばず練習試合でも決して実現しない。もしそんな試合が行なわれればルール違反ということで処分されてしまいます。

その意味で野球界はどこかいびつだし、サッカー界はとても風通しがいいです。

でも、だからこそ、サッカー界では野球のように新リーグを結成するなんてことはできません。プロもアマも、子供も大人も、とにかく日本におけるサッカーのすべてを統括する唯一の団体=サッカー協会があるからです。

なかには「日本のすべてのサッカーをサッカー協会が統括するなんて、そんなこと誰が決めたんだ?」と訝しがる人がいるかもしれません。

これに答えるのはちょっと難しいですが、例えばこんなふうに返答することができます。

「それはFIFAです」

1国1協会。それがFIFAの原則なのです(「原則」というのは御存知の通り、英国の例があるからです)。つまりFIFAに加盟している以上、日本においてサッカーを統括する団体は「日本サッカー協会」ただひとつしか存在し得ないということです。

「それじゃあ、FIFAに加盟しなければいいじゃないか」と乱暴なことを言う人もいるかもしれない。

でもFIFAに加盟していないとワールドカップ(予選)に出場することができません。それだけじゃなくFIFAに加盟している国(の協会)と関係を持てないので、どんなにすごい選手がいたとしても海外移籍もできません。

ちなみにFIFA加盟国は205。世界中のほとんどの国が加盟しています。地球上にいる限り、抜け道はありません(それぞれの国で行なわれているサッカーはその国のサッカー協会がすべて統括し、各国のサッカー協会はすべてFIFAの傘下にあるということです。言い換えれば地球上で行なわれているすべてのサッカーは間接的にせよFIFAの管理下にあるということ。FIFAのもつ権力の絶大さがよくわかりますね)。

もちろん、海外だとかFIFAだとかいう以前に、日本サッカー協会に相手にされません。「相手にされない」というのは随分曖昧な表現ですが、サッカー協会に相手にされないと、サッカー協会と付き合いのある団体、企業、個人も相手にしてくれない可能性が高くなります。

そうなれば試合を行なおうにも競技場の確保さえ難しい。サッカー協会がNOと言っている団体に自治体といえども競技場をすんなり貸してはくれないからです。

その他、スポーツメーカーにユニホームを発注しようとしてもやはり断られるだろうし(主なメーカーはサッカー協会、あるいは日本体育協会と関係があります)、スポンサーはサッカー協会と取引のない企業を選べば少しは集められるかもしれないけど、何より肝心の選手や監督が誰も契約してくれません(それはそうです。だってサッカー協会が主催する試合に出られなくなってしまうのですから)。

つまりルール上も、あらゆる現実的な面からも、事実上サッカー界において独立リーグは存在できないということです。

Jリーグ以前からのサッカーファンは覚えているかもしれませんが、実はJリーグができる少し前、1980年代の終わりにある団体がプロサッカーリーグを作ろうとしたことがありました。その際には「例えば」以下で並べたようなことが現実に起きました(「月刊宝石」の1992年12月号にそのあたりのことは詳しく書いてあります。いまとなっては入手困難でしょうが)。

当時まだ社会人になりたてだった僕は「サッカー協会は随分理不尽なことをするなぁ」なんて憤ったものですが、いまにして思えばそれは僕が社会の成り立ちを理解していなかったから。それぞれの業界には、明文化されているか否かはともかくルールがあり、理不尽であろうとなかろうとパワーバランスが存在します。世の中というのはその上に成り立っている。当時の僕はまだそんな社会の構造を理解できていない青二才だったというわけです(「風の先の終わり、海の波の続き」2004年11月8日)。

蛇足部分も含めて掲載したが、とにかくサッカーと野球では業界構造がまったく違うということはわかっていただけたのではないかと思う。

だから(と、まとめてしまうのはやっぱり乱暴かもしれないが)サッカーには「ドラフト」はないのである。

そもそもサッカー協会が子供から大人まで(アマからプロまで)を統括しているのと同様に、それぞれのJクラブもプロチームだけでなくマチュアチーム(ユースやスクール)も運営しているのだからドラフトは必要ない。

また切り口を変えてみれば、サッカーにはトレセン制度があり、世代別代表チームもあることで、優秀な選手の情報が共有されているというシステム的な状況があるし、さらに切り口を変えればJリーグにおいては(プロ野球のような)入団時の契約金がないというルール上の背景もある(逆に言えば、プロ野球にとってドラフトは色んな意味で必要な制度だということだ)。

「ドラフト」という装置の役割

それでも毎年この時期に思うのは「ドラフト」の価値である。

ドラフトがあることによって野球ファンは新人選手について知ることができる。言い換えれば、プロ野球にとってドラフトは新人選手の情報を広く知らせる機会となっているのだ。

ドラフトを前にした様々な報道によって、ファンは有望な新人選手を知ることができるし、指名順や競合具合によってそのリアルな評価さえも垣間見ることになる。

そこで知った情報が、翌年のペナントレースを観戦する手引きになるのは言うまでもない。

それどころかドラフトはドラマも生む。

「空白の一日」や「桑田・清原」のような国民周知の“事件”でなくても、希望球団への入団が叶うかどうか(残酷な気もするが)をはじめとした悲喜交々のドラマを、ドラフトそのものが内包しており、しかもそれがその選手の“物語”の序章となっていく。

ファンたちが感情移入するための装置としてもドラフトは機能しているのだ。

つまりプロ野球は、日本シリーズというその年を締めくくるビッグイベントと同時に、来シーズンへのスタートイベントも行っていることになる。

それに比べてJリーグは地味である。開幕前に全チームが揃って行うキックオフイベントがあるが、個別の選手情報までをファンに向けて発信することはできない。まして新人選手を一斉に紹介する場などない。

そればかりか「日本シリーズ」もない。3月に開幕して毎週末にゲームが行なわれ、12月にシーズンが終わるのみである。淡々と。

いや、地味であることが悪いわけではない。リーグ戦という(トーナメントとは異なる)“日常的”な戦いを経て、王者が決まるレギュレーションを僕はむしろ好ましく思う。

ただ、「プロ野球」に馴れ親しんできた日本のスポーツ観戦者にとって、ドラフトも日本シリーズも(始まりも終わりも)ない「Jリーグ」は、あまりにもイベント性に乏しく、関心を持ちにくいのではないかとも思う。

Jリーグも、ドラフトはともかく、チャンピオンシップくらいはやった方がいいのではないか――だから僕は「2ステージ」制に賛成してきた、これまでは。

しかし、今回のポストシーズン案には……賛成できない。

フリーライター

1965年生まれ。早稲田大学中退後、『週刊宝石』にて経済を中心に社会、芸能、スポーツなどを取材。1990年以後はスポーツ誌を中心に一般誌、ビジネス誌などで執筆。著書に『冒険者たち』(学研)、『星屑たち』(双葉社)、『日韓ワールドカップの覚書』(講談社)、『東京マラソンの舞台裏』(枻出版)など。

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