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盤石の鹿島、躍動感なき湘南

川端康生フリーライター
(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

金崎が素晴らしい

金崎が素晴らしかった。

もともとボールスキルの高い選手。いわば「うまい」選手だった。それがFW起用されるようになって「怖い」選手へ、さらには「すごい」選手へとすっかりスケールアップしている。

足元の技術があるのでポストプレーがうまい。身体の強さ(というより、ボディバランスとコンタクトの巧みさ、なのかもしれない)もあるし、イマジネーションも豊か。

ドリブルの鋭さはかねてから持ち味だったが、DFの背後へ飛び出すうまさもトップで起用されるようになってから際立っている(この試合でも何度となく湘南ディフェンスの裏をとっていた)。

つまり前線で受けてよし、引いてもらって仕掛けてよし、裏へ抜け出してよし。

加えてキックの精度が高く、ワンタッチでもミドルでもシュートを決められる。もちろん得点の意欲も強く、積極性も……とその長所を書き連ねていけば、この日追加した1ゴールを含めて、「7試合4得点」は当然の数字と言えるだろう。

もちろん、チームでの存在感も絶大。

金崎がいることで人とボールの動きがアクティブになり、土居、鈴木ら成長過程の選手たちが持ち味を発揮できている面もある。

特に守備面は計算できるアントラーズにとって、彼の攻撃力と得点力こそが「優勝」への重要なピースとなる可能性も十分ある。

開幕前の彼のエピソード“わずか1ヶ月での再入団”が、「歓喜の物語」のプロローグとして振り返られるかもしれない、ということである。

対照的なスタイル

その金崎のゴールで先制したアントラーズに危なげは全くなかった。昌子、植田が慌てる場面はほとんどなかったのではないか(もちろん曽ヶ端も)。

あえて言えば、立ち上がりの立ち上がりだけ、ベルマーレの勢いを少し受けた。1トップの下に3人のシャドーを並べる、イレギュラーな布陣で臨んできた相手に、少しだけ押し込まれたのだ。

しかし、それもほんの「少しだけ」だった。わずかな時間の間に、相手を見切り、ロングボールを蹴って、押し下げてしまえば、あとは主導権を握って、ゲームをコントロール下に置き続け、3対0で完勝した(鹿島サポ的は「もっと取れた」と不満かも)。

そもそも「“出入り”の少ないサッカー」をするチームである。バランスを崩すことは少なく、オーソドックスに戦う。

だからアントラーズが勝利した試合は「勝つべくして勝った」印象が強い(この試合もそうだった)。

では、負けたときはどうなんだ?と訊かれると難しいが、それでも「思いがけない負け方」をすることは少ない気がする。

Jリーグ創設から24シーズン。もっとも「チームスタイルが変わらない(一貫して安定している)」チームである。

一方のベルマーレ。

アントラーズとの対比で言うなら「“出入り”の激しいサッカー」をするチームである、やはり伝統的に。

無論、ネガティブに言っているわけではなく、その出入りの多さが躍動感となって、スリリングなゲームを演出する。

1990年代、「湘南の暴れん坊」と呼ばれた時期もそうだったし、現在の「湘南スタイル」も、その延長線上にあると思う。

アントラーズのサッカーを“リアリスティック”と表するなら、ベルマーレは“ロマンチック”。だから時に魅力的だが、安定して結果を残すことはできない。というより、そもそも勝利よりも理想を優先しがち……。

いや、筆が滑り過ぎた。現在のコーチングスタッフに怒られてしまう。

とにかく、そんなふうにそれぞれのチームカラーが、選手が変わり、指導者が変わり、戦術のトレンドが変わっても、なぜか受け継がれていくのだから、サッカーは不思議で面白い。

そして、そんな「不思議」と「面白さ」をもっとも実感できるのが、僕にとってはこの両チームの対戦であり、それはこの日の90分間でもやはり感じられたのだった。

躍動感の源は

もっとも、この試合でのベルマーレは「“出入り”の激しいサッカー」という印象ではなかった。もちろん「不思議」とか「面白さ」とか言っている場合でもない。

ここまでリーグ戦でまだ未勝利。地震の影響で試合をできなかった(1試合少ない)アビスパ福岡よりも下の最下位に沈んでいる。

かと言って「降格」を恐れるにはまだ早過ぎるし、焦る段階でもない(降格/残留は通年である)。

それでも伸び伸びと自然にプレーできる心境ではもうなくなっているのだろう。この試合では、ベルマーレらしい躍動感はほとんど感じられなかった。

個人的に気になったのは、中途半端な――攻撃にも守備にも関われないポジションに選手がいるシーンが何度か見られたことだ。

これまでも、積極的にプレーに関わりに行って(攻撃であれ、守備であれ)、それが裏目に出るケースはあった(ある意味、“ベルマーレらしい光景”と言ってもいいかもしれない)。

それでも、そんなミスやエラーには学びがある。そこには主体的な判断があり、決断があるからだ。

だから反省し、改善することができる。

しかし、このゲームで見られた“中途半端なポジショニング”には判断や決断が感じられなかった。

これまでならオートマチックに走り出していたシーンで躊躇する。たぶん不安感から。前へ行きたいが決断できずに留まる。怖いから。かと言って、下がってディフェンスのポジションを取り直す判断もしないまま、浮いた位置に何となく……そんな場面が何度かあった。

ボールにだろうが、相手にだろうが、スペースにだろうが、自ら主体的に判断し、決断して走り出す――それが原点であるはずだ。ベルマーレの躍動感の源も、やっぱりそこにある。

そもそもいつも正しい判断をできるチームではないのだ。それでもベルマーレには決断(というより確信)があり、だから選手たちは躍動できた。そこに「湘南スタイル」への好感も生まれたのだと思う。

それなのに勝利から遠ざかった途端、自信を失って……。

勝てない理由は一つではない。一朝一夕には埋まらないプレーのクオリティの差もある。

しかし、まずはそれぞれの選手が自らの心に芽生え始めている不安や怖れをねじ伏せてーー。

ピッチに立つのはそれからだ。

フリーライター

1965年生まれ。早稲田大学中退後、『週刊宝石』にて経済を中心に社会、芸能、スポーツなどを取材。1990年以後はスポーツ誌を中心に一般誌、ビジネス誌などで執筆。著書に『冒険者たち』(学研)、『星屑たち』(双葉社)、『日韓ワールドカップの覚書』(講談社)、『東京マラソンの舞台裏』(枻出版)など。

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