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運命の日曜日。J2・J3の天国と地獄

川端康生フリーライター

天国と地獄の週末

すでにJ1はレギュラーシーズンを終えているJリーグだが、J2、J3は今週末が最終節である。

J2には「J1への昇格」と「J3への降格」が、J3には「J2への昇格」があるが、実は現時点でそのどれもが確定していない。

つまり、すべての昇降格が、11月20日(日)に行なわれる最終戦で決まるというわけだ。

まさしく“天国と地獄の日曜”となる。

栃木は優勝と昇格の可能性があった

先週末は宇都宮でJ3を見た。グリーンスタジアムでの栃木SC対AC長野パルセイロである。

試合前の時点で栃木SCは首位だった。そればかりか、この試合で優勝が決まる可能性もあった。

2位大分トリニータとの勝ち点差は「3」だったから、この試合で栃木が勝ち、大分が引き分けか負けなら、栃木のJ3優勝とJ2昇格が決まる試合だったのだ。

そんなわけで観戦者も多かった。

このあたりは工業団地で、その車道と歩道の間、街路樹の下が駐車スペースになっているのだが、スタジアムのかなり遠くからすでに車がびっしり。清原球場での高校野球観戦でも同じような状況に出くわしたことがあるが、この日は頭上の街路樹が紅葉の盛りを迎えていたこともあって、どこかヨーロッパの風景を想起させる趣きがあった。そんな晩秋の美しい景色の中を、多くの黄色いレプリカユニホームが連なってスタジアムへ向かう姿もよかった。

スタンドもやはり大入りだった。快晴のホーム最終戦、それに11月とは思えないほどの暖かさと条件が揃ったこともあったかもしれないが、スタンドは(アウェイ側ゴール裏を除いて)ほとんど埋まっていて、選手を迎え入れるコレオグラフィも隙間なく浮かび上がった。

7690人。その多くが栃木の優勝と昇格、というより「J2への復帰」を心待ちにしていたことは言うまでもない。

90分後に訪れる歓喜の瞬間。そんな期待感に満ちたキックオフだった。

終わってみれば2位転落。入替戦も

しかし、90分後、いや90+3分後、スタジアムに響いたのは、歓声ではなく悲鳴だった。アディショナルタイムにまさかの失点。0対1で敗れてしまったのだ。

一方でライバルの大分は3対0で勝利。この結果、勝ち点で並ばれた栃木は、得失点差で下回ることになり、もしかしたら優勝とJ2昇格が決まるかもしれなかった試合で、まさかの2位転落。

J3からJ2への昇格は、1位が自動昇格で、2位は入替戦だから、まさしく天国と地獄ほどの落差をアディショナルタイムに味わうことになった。

付け加えれば、栃木にとっては6試合ぶりの黒星。それ以前も10連勝を含む17戦負けなしを記録してきた。それなのに、この最終盤、痛恨の敗戦となった。

試合内容も含めて、もう少し詳しく振り返れば、前半は栃木が優勢だった。やや固いゲーム運びではあったが、それはこの試合の意味を考えれば当然である。

0対0で推移したゲームの潮目が変わったのは後半の後半に入ってから。長野がブラジル人FWコンハードを投入したあたりからだ。彼の単独ドリブルを起点に攻勢を強める長野に押し込まれ、みるみる劣勢に陥ったのである。

それでもアディショナルタイムに辿り着き、92分には最後の交代カード(DF)も使って、時間も進めた。引き分けで勝ち点「1」を確保する采配に見えた。

ところが、その直後に失点したのだ。

左サイドでのボールの争奪。こぼれたボールを前につながれ、ゴール前へ。最後は夛田に押し込まれた。

不運な面もあった。サイドでの争奪はマイボールになりそうだった。いわゆる「ガチャッ」という状態。そこに栃木の選手6人が寄ってしまった。

それでもやはり「引き分け狙い」が徹底できていなかったと言わざるを得ないだろう。最後、ゴール前へ送り込まれたボールに長野の選手は二人フリーだった。守って、このまま試合を終わらせる。その意識がはっきりしていれば、あんな状況は生まれなかった。

取り返しのつかない失敗。それでもエールはこだまする

よほどショックだったのだろう。横山監督は絶句していた。試合後に行なわれたホーム最終戦のセレモニーでも、記者会見でも。

絞り出した言葉は「取り返しのつかない失敗をしてしまった」。

まさしく。勝てば最高だった、でも引分けでも(大分の結果に関わらず)首位をキープできた。つまり自力優勝の権利を持って最終戦を迎えることができるはずだった。それなのに終了間際に失点した。引き分け狙いを徹底できなかった。

伏線は、やはりこの試合を迎えた状況だろう。もしかしたら優勝と昇格が決められる可能性があった。その昂りが選手の心にもサポーターのエールにも宿り続けた。

頭の中で「引き分けでもOK」を理解していなかったはずはないが、ロジックをパッションが吹き飛ばしてしまった。

スタンドから励ましの声が飛んで、横山監督がようやく顔を上げた。

「そうですね。確かにまだチャンスはある。この失敗を取り返すために、最終戦、入替戦、すべてをかけて戦うことを誓います」

少し驚いた。まだ最終節が残っているこの段階で「入替戦」を口にしたことにだ。スタンドにも曖昧な空気が流れた。

だが、これがリアリティである。「一生懸命」とか「熱い思い」とかといった聞こえのいい言葉でごまかしてしまう昨今の風潮とは一線を画す、実務者のリアリティ。そしてリアルな勝ち負けをしているからこそのとてつもないショック……。

それでも「みんなで一生懸命、最後まで諦めずに戦う」観客たちを前に、プロスポーツの監督としてしっかりと伝えた。

「残り3試合か、1試合かわかりませんが、サポートをお願いします」

運命の日曜日

もちろん、冒頭でも述べた通り、まだ何も決まっていない。

2位転落とはいえ、首位大分とは勝ち点で並んでいる。J3の優勝争い、つまり自動昇格か入替戦かは、最終節で再び入れ替わる可能性がある。

大分の相手はガイナーレ鳥取。栃木の相手はグルージャ盛岡。11月20日(日)、もちろん同時刻の13時にキックオフする。

その負けた方、2位になったチームが対戦する「J2・J3入替戦」の相手も、まだ決まっていない。J2最下位(22位)のツエーゲン金沢と21位のギラバンツ北九州は同勝ち点、さらにその上のFC岐阜も勝ち点差「2」と、まったく予断を許さない状況なのである。

とにかくこの3チームのうち、最終節が終わった時点で一番下のチームがJ3に自動降格し、21位が栃木、大分のどちらかと入替戦を戦う。

J2の最終節は同じく11月20日、14時に一斉キックオフとなる。

そのJ2の上の方、J1昇格争いも混沌としている。

自動昇格の2位以内は、現在首位の北海道コンサドーレ札幌(84)と2位の清水エスパルス(81)、それに3位の松本山雅FC(81)までが勝ち点差「3」の中でしのぎを削っている。

勝ち点で一歩リードしている札幌が有利には違いないが、最終戦の相手は上記、残留を賭けている金沢である。簡単な相手ではない。勝ち点で並ばれると、清水に得失点差で上回られることになる。

そうなった場合の焦点は松本との得失点差。現時点で両者の差は「3」。これは微妙である。

もちろん札幌は勝つか引き分ければ、自力でJ1昇格を決められる。

さらに「J1昇格プレーオフ」に進める6位以内では、現在6位のファジアーノ岡山と7位のFC町田ゼルビアが勝ち点差「2」で競っている。岡山は何とかこの順位をキープしてクラブ初のJ1に挑みたいところ。

一方、町田はJ1ライセンスがないため昇格はできないが、それでも、いや、だからこそ意気込みは強いだろう。不条理を知らしめることがホームタウンを動かすことにつながるからだ。

なお、町田が6位以内に入った場合には3チームでの昇格プレーオフとなる。

いずれにしても、すべては最終節。繰り広げられるのは天国と地獄を巡るドラマ。歓喜と落胆が交錯する運命の一日になる。

フリーライター

1965年生まれ。早稲田大学中退後、『週刊宝石』にて経済を中心に社会、芸能、スポーツなどを取材。1990年以後はスポーツ誌を中心に一般誌、ビジネス誌などで執筆。著書に『冒険者たち』(学研)、『星屑たち』(双葉社)、『日韓ワールドカップの覚書』(講談社)、『東京マラソンの舞台裏』(枻出版)など。

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