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なぜ、時代はSUVを求めるのか?

河口まなぶ自動車ジャーナリスト

ひと昔前まで、特に日本の自動車市場においてはミニバンが主流であり、これが時代の求める主役という感じがあった。

もっとも歴史を紐解けば、それ以前には自動車の基本形はセダンであり、小型車であればハッチバックであり、これらこそが長きに渡って主役を務めてきた経緯がある。

そうしたセダンやハッチバックに変わってミニバンが主流となった背景には、クルマそのものの価値がシフトしてきたからに他ならない。

古い時代では、クルマ自体にバリエーションが少ないという現実があった。もちろん以前から、セダンやハッチバック以外にもワゴンや4WD等のモデルはあったものの、あくまでも少数派だった。

しかし時代が進むに連れて、クルマに様々なバリエーションが展開されるようになると、そこには便利な生活の道具としての価値が強く求められるようになった。

セダンやハッチバックよりも、楽に腰掛けて室内が広くて多人数が乗れて荷物がたくさん積めて…そうした要求に応えて、クルマのサイズの大小を問わずに箱型のミニバンが増えていった。ホンダのステップワゴンが爆発的なヒットを記録し、軽自動車ではスズキのワゴンRが小さくとも広い室内を提案した。そしてトヨタのアルファードは、ミニバンに高級車の世界を展開した。

そうして日本市場はあっという間にミニバン天国になった。もうこの20年くらいはミニバン(およびそうした形状のモデル)の占める割合がどんどん増えていった。もちろん基本の自動車として、セダンやハッチバックは地道に残ってはいたが、世の中のトレンドとしてはミニバンがブームを形成したといって良いだろう。

しかし、そうした時が過ぎて最近では、SUVがトレンドの主役になっている。これは日本市場だけでなく、世界で見ても顕著だったりする。

日本のミニバンは便利の具現だったが、時代がさらに進んで単なる道具だけではない、プラスαが求められるようになったのも事実だろう。いわゆる「ライフスタイル」という言葉をよく聞くようになって、クルマは道具であると同時に、そうした生活に寄り添い自己を表現するツールとしての意味合いも含むようになった。

かつてからミニバンに家族を乗せて出かける、アウトドアへ行く、というスタイルは存在したが、より素敵なライフスタイルを思い描いた時にはSUVが魅力的なものとして目に写るようになった。

SUVはかつてからアメリカ市場に多く存在したが、以前はトラックベースのものが多かった。そうした中でBMWが乗用車ベースで作った「X5」が登場し大ヒットしたことで、一気に乗用車ベースのSUVを世界中の自動車メーカーが作るようになった。

乗用車のように使えて、車高が高いので視界も良く運転がしやすい。そして荷物も積めてアウトドア等でも使える4WDを備えるものも多い一方で、ホテルに乗っていっても違和感がない(というか近年はなくなった)…といった具合で、1台で全てがまかなえる存在といて重宝されたわけだ。

そうして日本市場でも、大小様々なSUVが登場して、街中で多く見受けるようになった。また世界に目を向けると、先のBMWを筆頭に、メルセデス・ベンツやアウディは1ブランドで数種類のSUVをラインナップして万全の構えを見せる。さらにはポルシェを筆頭に、つい最近ではマセラティやベントレーといったブランドがSUVを送り出すほどだ。それほどSUVは商売になる、時代のトレンドだ。

日本では、小型のSUVが意外にも高齢者に受けているという。適度に車高があるため、乗り降りがしやすく、ドライビングポジションもアップライトで、セダンやワゴンよりも身をかがめずに乗り込んで姿勢がとれる。この「ラク」である点はとても大きなポイントになる。さらに価格的にも求めやすいモデルが数多く存在するほか、時代を映すファッションと同じように、SUVにはカジュアルながらもミニバンほど生活臭が漂ったり、ダラシなくならない程度の感覚が含まれている。

そして何より、クルマ選びをする際に、SUVであればこれまでとは違う、毎日の生活を彩ってくれそうな雰囲気が漂っている…といった具合で、そこには時代の求める空気感が凝縮されているのだ。

もちろん新型プリウスのようなハイブリッドカーも人気であり、その販売台数はかなりのものだが、そのチョイスにはやはり生活の道具としての便利さや経済性が最優先された感覚がある。

そうした生活の道具と割り切るのでなく…という想いが少しでもあるならば、クルマに遊び心を求める方もいるわけで、そうした時にはやはり魅力的で選びやすいのがSUVということになる。事実、SUVの中には、便利な生活の道具としての自動車は内包されているわけで(ハイブリッドすらあるわけで)、そこにプラスαがあるのだからなおのこと魅力的なわけだ。

そうした背景から、いまやSUVは抵抗なく選べるジャンルになっただけでなく、時代の主流になりつつあるのだ。

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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