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自動運転、ではありません!【日産・プロパイロット/動画アリ】

河口まなぶ自動車ジャーナリスト

日産自動車株式会社が7月13日に発表した「プロパイロット」は、将来を見据えた自動運転技術において必要な技術要素を用いていることは間違いないが、それがイコールで「自動運転」を実現しているわけではない。

プロパイロットは、アクセル、ブレーキ、ステアリングのすべてを自動的に制御するが、これは既に他車でも実現している技術。例えばスバルはアイサイトVer.3において、アクセル、ブレーキ、ステアリングのすべてを自動的に制御する。ただし日産と違うのは、ステアリングの制御は車速65km/h以上とされていること。これに対して日産は渋滞時の停止・再発進を含めて全車速で制御する=この点で国内初、としている。ただ、メルセデス・ベンツでは同じように、アクセル、ブレーキ、ステアリングのすべてを自動的に制御するのに加え、ステアリング操作は日産やスバルと同様に車線を認識してレーンのセンターをキープするようにする機能のほか、前走車そのものの左右への動きも追従する機能を備えている(スバルや日産はまだ採用していない)。

こんな具合で、実はメーカーによって細かな点で作動領域や条件が違っていたり、国交省の認可をいつ受けたかによって制御の範囲が多少違っていたりするものの、今回の日産新型セレナプロトタイプで採用しれたプロパイロットは、圧倒的に新しい機能、という風に表現できるものはないのが実際だ。

他にはテスラもいち早く「自動運転」を謳っているが、機能的には上記したものとほぼ変わらない。ウインカー操作をするとレーンチェンジする機能はひと足先に認可を得ている独自の部分だが、これもまた「国交省の認可をいつ受けたか」の違いに加え、どのような条件で作動するか等の細かい条件をクリアした上での話。もちろんそこに企業努力や先見性、他社より先に実現した実績はあるものの、いずれはキャッチアップされる部分での競争だ。事実、間もなく国内で発表予定のメルセデス・ベンツ新型Eクラスでは、この機能を搭載している。

そんな風に見ていくと、今回の日産のプロパイロットは、既に他社が採用している機能をよりブラッシュアップして洗練したもの、と言っても良いだろう。

ただし、もちろんそこに初の要素はあって、例えばそれを大衆ミニバンに採用するという点では初だろう。まぁ、この辺りはどのような解釈で「初」にするかの問題でもあるのだが。

ただ感心するのは、日産のプロパイロットが単眼カメラでこの機能を実現していること。例えばスバルのアイサイトはステレオカメラだし、センサー類がリッチに装着できる車種ではステレオカメラのものも多い。それらと同じような機能をひとつのカメラで実現したことは、技術的にも高い実力があるといえるし、コストを考えても将来性が高い。

そしてもうひとつ重要なのが、単眼カメラできめ細かな制御を実現している背景。それは「画像処理」という技術。カメラがいくつあろうが、カメラがみた情報をどのように処理して実際の作動に反映するかが重要。この点に関して日産のエンジニアは胸を張っている。なるほどセンサーはシンプルでも、得た情報をいかに使うかで差が出るということだろう。言葉にすると地味な部分ではあるが、日産のエンジニアがいうこの画像処理に関する技術は今後の自動運転の精度を大きく左右する要素となるだろう。そう考えるとこの点でのアドバンテージが、反応の速さや融通がきくか否かを決定づけるはずだ。

現時点でアクセル、ブレーキ、ステアリングを全て自動で制御するクルマは作動領域や条件に多少の違いこそあれ存在し、幾つかのメーカーに存在している。ただしそれらは全て、ドライバーの操作を支援するものであり、いわゆる自動運転を実現しているものは存在していない。日産の場合もしかりである。もちろんそれらの技術は将来の自動運転を実現するための要素ではある。しかしこれらをして、自動運転といってしまうのは乱暴だろう。

ただ、ここが現時点の自動運転が抱える問題でもある。メーカー、メディア、ユーザー、全てのレイヤーにおいて「自動運転」という言葉は都合よく使われているし、それを都合よく理解するためのものとして使われている。例えば、メーカーは自動運転といえばPRになるし様々な効果を得ることができる。メディアは自動運転と書けば、注目を集めてアクセスをかせげる。ユーザーは自動運転という言葉に大いなる期待を寄せて、そうしたものが実現しているのだと思いたくなるし、そうでなければ批判するための材料として使う…といった具合だ。

そう考えるとつまり、現時点での「自動運転」とやらの正体は、我々の都合の良い解釈そのものに他ならない。そして現実の自動運転は当然、まだもう少し先の話なのだ。

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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