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ツール・ド・フランスのコースを走るレース、エタップ・デュ・ツール参戦記その1

河口まなぶ自動車ジャーナリスト

目の前に立ちはだかる、延々と続く急勾配。

クリス・フルームはこんな場所を、いとも容易く登っていくのか…と信じられない思いでいっぱいだった。

もっとも、そんなことを思ったのはほんの一瞬の話。なぜなら額から目に汗が滴り流れ、もう私のロードバイクの時速はわずか5km/hと、ほぼ止まりそうな速度。息も絶え絶えの状況だったからだ。

2016年7月10日、私はフランスとスイスの国境近くにある、標高1691mにあるコル・ド・ジュ・プラーヌという峠を目指しロードバイクを必死で漕いでいた。

毎年開催される自転車レースの頂点であるツール・ド・フランスの、その年のコースを走れるのが特徴である市民レース「エタップ・デュ・ツール」に参加したのだ。

私・河口まなぶは自動車ジャーナリストだが、元F1ドライバーの片山右京氏に誘われてロードバイクに乗るようになり、すっかりハマってFacebook上に「大人の自転車部」という公開グループを2012年に立ち上げた。以降メンバーが増え続け、いまや1万3000人がここに自転車に関する様々な投稿をしている。そんなweb上のコミュニティの部長をしていることもあって今回、フランスの老舗自転車部品メーカーであるMAVIC(ツール・ド・フランスを始めとする自転車レースで登場して全チームをサポートする黄色いクルマ=ニュートラルカー:通称MAVICカーを持つあのメーカー)から声をかけていただき、このレースに挑戦することになった。

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ちなみに私はこうした自転車レースは走ったことがない。これまでには日本のサーキットで行われるエンデューロ(耐久レース)や、ロングライドイベント等で走った他は、これまた趣味でやっているトライアスロンの中で走る程度。要は一般的なスポーツ志向のサイクリストと思っていただければ良い。

距離はともかく、半端ない登り下りの連続

エタップ・デュ・ツールの今年のコースは、7月23日に開催されるツール・ド・フランスの第20ステージであるメジェーブ-モルジヌ間の146km。日本のロングライドでも160km、210kmなどあるので距離はそう驚くほどではないが(といっても十分に長い距離で、普通に考えたら自転車で走る距離じゃないと思う人も多いだろう)、問題はコースが峠道にあることの凄まじさだ。

平坦な道を146km走るのではなく、峠をのぼりくだりしながらレースは進む。レースコースを見ると、スタート地点のメジェーブが標高1050mの場所にあり、ここから少し下ってから約600mを登り、500m下って次は700m登り、1100m下って…といった具合なのだ。自転車乗りの間では、この数字を獲得標高と呼ぶのだが、このコースの獲得標高は実に4000m!とも言われているのだ。つまり、コースのほとんどはヒルクライムとダウンヒルということになる。

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ツール・ド・フランスを始めとする自転車レースでは、こうした山々を傾斜のキツさなどで階級分けしており、例えば3級山岳とか、そういった呼び方をする。それに習えば今回のコースは2級、1級、1級、超級という峠が続く。超級とは当然、元も難易度が高い峠のことを指している。これらをひたすら登るわけだ。

また登れば当然ダウンヒルもあるわけで、実はこちらもキツい。むき出しの体で乗るロードバイクで、60−70km/hで駆け下りていく…想像しただけでも恐ろしい。

とはいえ、レースに挑戦することになった。そして7月8日に成田空港を発ち、パリを経由してスイスのジュネーブに到着。そこから移動し再びフランスの山へと向かった。

1万6000人もの人が参加する自転車レース

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レースはまず、前日の選手登録から始まる。会場へいって自分のビブナンバーを伝えるとゼッケン等がもらえる仕組みだ。私のゼッケンは8905番。1000人単位でゼッケンをもらう場所があるのだが、見ていくと16列…つまりこのレースには1万6000人が参加するのだ!

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東京マラソンでは約4万人が参加する中を走ったことがあるが、自転車で1万6000人もの人が参加する中を走ったことはない。これはなかなかに緊張する…と思っていたら朗報(?)が。なんとコースの途中で崖崩れの恐れがある場所があり、コースが変更となって短縮されたという。146km、獲得標高4000mだったコースは、途中の峠がひとつ減って、122km、獲得標高2800mになった。これを聞いてホッとして、選手登録会場の様々なメーカーのテントを見て楽しんだ。ウェアやパーツ、アクセサリー等が販売される他、自転車メーカーは新型モデルを展示するなどしているため、自転車好きとしてはここにいるだけで妙に楽しくなってくる。ここで、コース脇に置かれている標識のミニチュアをお土産を買って…としばし、明日のレースを忘れて楽しむ。

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そして選手登録のあとは、飛行機で運んできたバイクのチェックも兼ねて試走を行う。実際にコースの一部を走ってみると、街中から少し離れただけで緩やかなアップダウンが…ここで少し脚を回して刺激を入れてあげるわけだが、私レベルでは明日の疲れになってしまうかもしれない。

そう思いつつ約40kmを走り、夕食をたっぷりと取ってこの日は早く就寝した。明日は4時起きだ!

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<その2に続く>

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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