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ガソリンスタンド不要? プリウスPHV登場【動画あり】

河口まなぶ自動車ジャーナリスト

ハイブリッドカーにプラグを与えることで、コンセントから充電を可能としているプラグインハイブリッド。既に国内では、先代のプリウスにも設定されたほか、三菱のアウトランダーなどが販売されており、最近ではドイツ勢の多くが積極的に市場投入している背景がある。要はハイブリッドとEV(電気自動車)の間に位置する存在であり、当面の環境車の最右翼とも言われる存在だ。

通常のハイブリッドカーよりも大きなバッテリーを搭載することで、EV主体で走り、電池がなくなったらハイブリッドになる…という、なるほど納得の方式。だがデメリットは大きなバッテリーによって重量が嵩むこと。また大きなバッテリーを搭載していても、EVで走れる距離が20~30kmが主流で、電池がなくなった際には重いハイブリッドととなるため、長距離を走る際には燃費が悪化する傾向にあることだ。

実際に、先代プリウスPHVのJC08モード燃費は最高で31.6km/L、三菱アウトランダーPHEVは18.6km/L。それに対して新型プリウスPHVは目標値として37.0km/Lをうたっている。数字だけでみると、ノーマルのプリウスを下回るものの、実際にはEV走行が60km以上行えるため、使用シーンによってはほぼガソリンを使わない可能性が広がっている。

今回のプリウスPHVでは、EV走行が可能な距離が60km以上と、先代の26.4kmから大きく向上した。EV走行が60km以上可能ならば、近場への買い物等ではほぼEVのままで行き来できる。また通勤等を想定しても、片道20km程度であれば全くガソリンを使わずに通勤できる可能性が高い。現状のプリウスでさえ、日常使用であれば月に1回程度、多くても2回程度しかガソリンスタンドに行かないサイクルが多いだろうが、このPHVだと生活圏での足として考えれば、ガソリンスタンドに行く回数が月に1回を下回ってもおかしくない。特に戸建で充電のためのコンセントが用意できれば、ガソリンを使う機会がかなり低くなることが考えられる。チーフエンジニアの豊島氏も「なので納車された時に入っている10L程度のガソリンは、使い切るにはかなり先の話になります」という。この点においても、販売店からユーザーに説明するという、これまでのクルマとは違う流れも生まれる。

さらにEVやプラグインハイブリッドの場合、集合住宅に住んでいる場合は車庫にコンセントが用意されないため購入に踏み切れないという事情もあった。しかし今回のプリウスPHVはチャージモードを備えたことで、たとえ車庫にコンセントがなくても使える可能性が広がった。チャージモードを選択すれば、エンジンを作動させて走行しながら充電を行うことが可能となるからだ。また新型プリウスPHVは200Vのほかに、家庭用の100Vからも充電が可能となるため、EVのための200V電源設置をしなくても済むため、購入しやすさも広がる。もちろん急速充電ならば約20分で80%充電が可能。だが、高速道路のPA等ではEVの充電を優先してあげたいわけで、そうした際にもチャージモードがあれば肩身の狭い思いをせずに済む。事実、チーフエンジニアの豊島氏も「PA等で急速充電して20分待つよりも、チャージモードで走行した方が時間も節約できて充電も可能」という。さらに今回は、ソーラーシステムからの充電も可能としており、大きな電力ではないものの、駐車しておけば充電がなされる点もポイントだ。

こうした感じで、新型プリウスPHVは、これまでのPHVでデメリットとされてきた部分の多くを払拭する存在となっている。まだ価格は発表されていないが、この性能と使い勝手があれば先代以上に売れることも間違いないだろう。事実、チーフエンジニアの豊島氏は「以前のプリウスPHVはそれほど多くは売れませんでしたが、今回は全世界で100万台を売りたい。そのために様々な工夫を盛り込みましたし、今後もバリエーション展開等も考えています」という。

事実、今回試乗したモデルは15インチタイヤを装着したモデルで、今後は17インチタイヤを装着したモデル等も加わっていくだろう。また、様々な進化を果たせば4WDモデル等が登場することも考えられる。そう考えると、まさにトヨタが言うようにこのPHVが「ハイブリッドに次ぐ次世代環境車の柱」になりそうだ。

ただ今回試乗してわかったのは、プリウスから始まった新たなアーキテクチャであるTNGAにもまだまだ改善点が多く残されているということだろう。特にプリウスから始まってこのPHVでも用いるプラットフォームは、今回のモデルでひとつの限界を迎えている。それは、このクラスのプラットフォームとしては重量的にまかなえる限界に達しているという意味。大きなバッテリーを搭載するプリウスPHVは、プリウスよりも約150kg重く1510kgに達している。このためか、乗員が4人に設定されているのだ。1510kgに4人フル乗車を考えると75kg×4=300kgでトータル1800kgを超える。これが5人となると1900kg近くなるわけで、1800kgから1900kgの間に、このプラットフォームの限界を超えてしまう分岐点があるのだろう。もっとも、プリウスの車格ならばここまで耐えていることも評価できる部分ではあるが…。

しかもプリウス及びプリウスPHVは環境車であるために基本的に装着されるタイヤが低転がりの、いわゆるエコタイヤとなる。こうしたタイヤは非常によく転がる低抵抗で燃費に大きく貢献する一方で、左右方向への踏ん張りは当然強くなく、自動車のダイナミクスを考えるとベターではない傾向にある。そうしたタイヤを装着する上で、車両重量が重い…となると、走る曲がる止まるに関して不利になるわけだ。

事実、今回のプリウスPHVも雨あがりのサーキットでの試乗だったが、乗り始めに感じたノーマルのプリウスよりも重厚で心地よく上級な乗り味が、ハンドルを切ると失われてしまう一面があった。しっとりしていて滑らかで、いかにも踏ん張りが利きそうな感覚だが、いざ横方向の力に対しては心もとないフィーリングが生まれてしまう。このギャップはもう少し狭めてほしいと感じたのが正直なところだ。

実際に雨のサーキットだと操舵していくとフロントがカーブの外側に逃げていく感覚がある。またフロントがしっかりとグリップをして旋回する力が生まれると、今度はバッテリーが備わるため重い車重や通常の車と違い重いバッテリーを後ろに積んでいることもあって、操舵よりも旋回したがる動き=つまり曲がりすぎる動きが出やすいのもプリウス及びプリウスPHVのシャシーの特徴でもある。そうした領域ではVSCが作動してくれるため、スピンすることなく走れるのだが、やはりフィーリングとしては気持ちよいものではない。もちろんこうした現象は高い入力が可能なサーキットだからではあるが、実際の使用においても例えば歩行者等の飛び出しに対して急操舵をするような場合には、頼りないハンドルの手応えや反応として感じられる場合もある。もちろんこの時も姿勢制御をするVSC等が作動して安全は確保されるだろうが、大切なのはそうしたシーンで安心できるだけのしっかりした動きがあった方が良い、ということだ。

そうしたことを考えると、現状よりも高いグリップのタイヤが望ましいと思われる。もっとも高いグリップを望めば転がり抵抗は増して燃費は悪くなるので、この辺りのバランスをどう考えるかだが…。とはいえ今後は17インチ仕様が登場すれば、上記したような現象は少し改善されることも間違いない。

新型プリウスPHVは、これからの生活において新たな価値感を提案してくれるクルマだと素直に感じた。また通常のプリウスよりも上質な感覚が増しており、確かに上級を感じさせるという点で、環境車の新たな領域に踏み込んだ1台だと評価できる。しかし、そうした高い評価を与えられる1台だからこそ、最後に述べたタイヤに関しては一考すべき部分があると思う。個人的な意見としては通常のプリウスもPHVも、圧倒的に燃費に優れる1台なのだから、そこを少し削ってでもドライバーや同乗者が感じる安心や安全を増してほしい、ということだ。

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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