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【試乗:日産GT−Rニスモ】究極のドライビングプレジャーの追求。

河口まなぶ自動車ジャーナリスト

日産のフラッグシップスポーツ、GT−Rのデビューは2007年。既に9年が経過して登場した今回の2017年モデルは、そのモデルライフから「最後のGT−R」と噂されている。

通常、イヤーモデルとして年次改良を受ける場合は、メカニズムにおける基本骨格はそのままに、いわゆる内外装や機能を中心にリファインを施すが、今回のGT−Rはそうしたイヤーモデルの枠に収まらない大幅な変更・改良を受けたのが特徴。これほど大幅に変わったことで、今後数年を生きながらえて終焉を迎えるのでは? という憶測が「最後の」と言われている所以だ。

今回GT−Rは基本骨格さえ見直した。ボディの剛性をよりバランスの良いものとして作り上げた上に、デザイン上のアイコンでもあったCピラーの折り目も、空力の向上のために消滅させたほどだ。さらにインテリアに関してもダッシュボードやセンターコンソールを作り変えるなどして、よりイマドキの見た目の機能の向上を両立するなどしている。大きな部分から小さな部分まで、徹底して磨き上げた、という表現がふさわしい。

ニスモは2014年モデルの際に設定されたが、この時からノーマルとは異なる特別な手法でサーキットを走るためだけに強化されたモデルとして送り出された。今回のニスモも、大幅な変更・改良を受けたGT−Rをベースに、専用となるボンディングボディ(構造用接着剤を用いて剛性を高める手法)とされるほか、専用のサスペンション等が与えられており、これまでのモデル以上の高いパフォーマンスを実現する。

エンジンも、ノーマルの570psから600psへ。最大トルクも65.0kgmから66.5kgmへと性能アップが図られる一方、車両重量はカーボン製の前後バンパー等を採用するなどして約20kg軽量な1740kgを実現した。

実際に走らせると、その高性能はまさに言葉を失わせるほど圧巻。600ps、66.5kgmは4WDを介して余すことなく路面へと伝えられ、強烈な加速を生み出す。またコーナリング速度も以前から尋常ではないGT−Rだが、それに輪をかけて路面に吸い付き、試乗後には首が痛くなるほどの横Gを生みながらコーナーを駆け抜けていく。

しかも印象的なのは、それほど圧倒的な動力性能を持っているにもかかわらず、極めてコントロール性の高いハンドリングが与えられているのがポイント。この辺りは実際に動画等を参照にいただければ幸いだが、圧倒的に速いクルマながら非常に優れた操縦性や情報伝達性に優れている、というかそうした味付けに変化した。

登場当初はドライバーとクルマの間に対話性が薄く、速いけれどエモーショナルではないクルマだったが、時とともに熟成がはかられて乗り味走り味が感じられるクルマへと成長を果たした。それが2014年モデルからさらに変化して、現在ではサーキット専用といえるこのニスモですら、ドライバーとクルマとの間に対話性がしっかりと生まれており、実際のボディの大きさや圧倒的パフォーマンスを感じさせないほど、ドライバーが操っている感覚を与えてくれる。もっともそれは極めて巧みな制御の下に実現されているわけだが、あくまでもドライバーとの対話を重視して伝えてくる点は高く評価できる。

動画内でも実際に、テールがスライドするような場面がありつつも筆者が比較的楽に修正を加えている様子があるが、この辺りがおそらく最近話題のホンダNSXとは大きく異なる点だろうと予測している。

日産GT−Rはこの9年間で大きく成長し、世の中のスーパースポーツと真っ向から勝負できる速さを手に入れつつも、まさにスポーツカーらしい走りの味わいをも手にいれるという良い方向への熟成が図られたといえる。そうした経緯をみると、先日登場したホンダNSXがどのように扱われてどのように進化していくかにも注目したいところである。

それはさておき今回のGT−Rニスモは、「日本にはGT−Rがある」と胸を張れるスーパースポーツとして成熟した1台である。

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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