キーワードは「クルマくささ」。日産・中村史郎氏が語る今後の日産デザイン【動画あり】
パリショーで発表された日産の新型マイクラは、欧州Bセグメントのライバルと真っ向から勝負するためのモデルとして企画された。そのためにボディサイズはライバル同様に1700mmを超えるものとなり、結果日本の5ナンバーサイズには収まらなくなったが、その分デザインはライバルに負けない、コンパクトカーを感じさせないダイナミックな印象を与えるものとなっている。
そしてこの新型マイクラで展開されるデザインは、「今後の日産のデザインの方向を指し示すもの」と語ってくださったのが、日産自動車株式会社・専務執行役員であり、チーフ・クリエイティブ・オフィサー(CCO)の中村史郎氏だ。
中村氏いわく、最近の日産のデザインの方向性を示す言葉として「エモーショナル・ジオメトリー」というテーマがあるという。エモーショナルは、感情や情感といった言葉を示すのに対して、ジオメトリーは幾何学。言葉としては矛盾しているものを一緒にしている。
「ジオメトリーというのはそのまま幾何学。これはクルマのボディのデザイン等でみれば、面自体にはドライな感覚を与えるというように認識していただければ良いと思います。一方でそこにエモーショナルという言葉が来るわけですが、要するに構成要素は幾何学的でドライだけれども表現するものはエモーショナルなもの、ということです」
と中村氏は言う。そして付け加える。
「だからあえて言うなら、インフィニティの方はウェットなデザインなんです。これに対して日産はスカッとドライだけどエモーショナル。例えば日産GT−Rなんかも同じ方向です。アレは欧州のクルマにはないドライなデザイン要素で個性されている。けれど全体で見ればエモーショナルな感覚を生んでいる」
中村氏はさらに言う。
「やはり欧州、世界で戦うには、それらとは異なる個性的で、他とは違うアイコニックなものが求められてくる。それがエモーショナル・ジオメトリーというデザインテーマというわけです」
確かに日産GT−Rにしても、今回発表された新型マイクラにしても、幾何学的ながらもエモーショナルな部分を刺激する何かがある。そして最近日本で登場したセレナも実は同じ要素が盛り込まれているという。
「最近のモデルはまず顔つきとしてはVモーショングリルを与えて、ボディのデザインはドライな面だけれどもエモーショナル、という流れです。それは例えばセレナでも同じ。アレはミニバンの形状をしていますが、各部のデザインを見ていただくとなるほどと思っていただける。例えばボディサイドに入っているキャラクターラインやCピラーをブラックアウトしてフローティング処理している辺りなどもその典型です。さらににGT−Rやマイクラでは、かつて日産で良く使っていたカラーであるオレンジを用いて、ヘリテージもうまく使いながら表現しています」
日産自身、EVやハイブリッドなども送り出すようになった現代においては、自動車デザインも様々な方向性が志向されている。特にこの先は、自動運転技術等も含めて、より未来的な自動車が登場する機会が増えているし、これまでとは全く価値観の違うテスラのような新興の自動車メーカーが登場する状況だ。そうした中では、自動車デザインに関しても「自動車らしからぬ価値観」を盛り込んでくるメーカーもあるのが実際。そうした中にあって、今回中村氏に話を伺うと、日産が展開する今後のデザインというのは、20世紀から続くようないわゆる“クルマくささ”を感じるのだが? と中村氏に問うてみると
「その通りで、いわゆるクルマくささを大切にしようという方向です。これまでにも日産には、2つの方向性があったと思います。例えばキューブのようなユニークな感覚の日本ぽさや、80年代のパイクカーのような、ああいう感覚。その一方でずっとあるのが510ブルーバードやスカイライン鉄仮面のような、ドライな感じの面で情感を刺激する方向。これからは後者の流れを重視していこうということです。もちろん両面があっても良いとは思いますが、今はそうしたクルマくささや、クルマっぽさを強調する方向です」
そうして手に取ったiPhoneを見せながら、机の上にあった僕のミラーレス1眼デジカメを指差して
「同じデジカメでも、iPhoneのような形をとるものもあれば、そのカメラみたいにいかにもカメラっぽい形のものもある、そういうことです。その意味でも日産は、iPhoneのようなものではない方向を志向していくと思っていただければ良いと思います」
しかし日産には、リーフのようなEVもあり、これは現行モデルではエモーショナルというよりも優しい雰囲気にあふれたデザインである。こうしたクルマが次期モデルとなるときにはどうなるのだろうか?
「次のリーフは、エモーショナル・ジオメトリーの方向でやっています」
と明確に答えてくれたのだった。
なるほど日産のデザインの今後は、中村氏のいうように明快そのものだ。