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ATで乗れる、アイサイトも備えたSTI製コンプリートWRX

河口まなぶ自動車ジャーナリスト

スバルの安全を広く世の中に知らしめた「アイサイト」は、現在のスバルのスポーツモデルには搭載されていない。理由はMTとの組み合わせが難しいため。技術的には搭載は可能であるが、エンストやクラッチ操作、ギアチェンジの問題などを考えると万人向けになるとはいえない。

このため、2.0Lの水平対向4気筒ターボを搭載するスポーツセダン「WRX」シリーズでは、6MTのみとなる「WRX STI」の他に、スバル独自のリニアトロニックCVTを組み合わせた「WRX S4」というモデルが用意されている。2ペダルで乗れるにもかかわらず、最高出力は300ps、最大トルクは40.8kgmと、十分以上のハイパフォーマンスが与えられたモデルだ。

今回、スバルのモータースポーツをてがけるSTIが手がけたモデルは「WRX S4」をベースに、STIの手によるシャシーのチューニングが施された他、専用のパーツが多数与えられており、「WRX S4 tS」という名前で登場した。

tSというのは、エンジンのチューニングは行わずに足回りを強化した上で専用の内外装を与えたモデル。その上にはSシリーズというモデルが用意されるが、これはエンジンにまで手が入ったSTIコンプリートモデルの頂点に位置するモデルで、昨年の10月29日に400台限定で登場したWRX STIベースのハイパフォーマンスモデル「S207」は、600万円前後の車両価格にもかかわらず、わずか1日で完売という伝説を築き上げたのだった。

今回登場した「WRX S4 tS」は、内外装の見た目はまさに「S207」を彷彿とさせる迫力あるものとなる。またエンジンはノーマルのS4と同じ最高出力は300ps、最大トルクは40.8kgmのままながら、足回りには19インチサイズのタイヤ&アルミホイールを与えた他、ブレンボ社製のブレーキを与えた上で、ボディ補強パーツ等を多く組み合わせてノーマルとは一線を画す走りを実現した。その気になればサーキットも走れるくらいのポテンシャルを備えている。走りの詳細は動画を参考にしていただくことにしよう。

しかしながら、WRX S4をベースとしているため、この「WRX S4 tS」はCVTを搭載し、AT免許があれば乗れるコンプリートマシンでもある。また注目すべきはノーマルのS4同様に、スバルのお家芸安全装備である「アイサイト」を備えていること。スポーツ志向のコンプリートマシンながら、高速道路の渋滞等では安心して安全を担保してくれるのである。

WRX STIが欲しくとも、家庭の事情でMTは難しい…というパターンは多く考えられる。またWRX S4はAT免許で乗れるが、もう少しスポーティさが欲しい…という要望もある。その意味では「WRX S4 tS」は、両方のいいところを兼ね備えたモデルである。

また日本のスポーツモデルにおいては、なかなか運転支援を備えるモデルが存在しない。そうした中にあって、今回「WRX S4 tS」がアイサイトを備えたことは大きなトピックだろう。

こうした装備をスポーツモデルに搭載すると、自分で操ってこそ…という意見や、スポーツカーにそうした装備は不要…といった意見が多く出てくる。しかしながら、そうした意見をいただく人の多くはたとえスポーツモデルでなくとも、「自分で操れているつもりで実は操れない」場合がほとんど。筆者も何度も初歩的なドライビング・レッスンを行っているが、フルブレーキをしっかり踏める人は”クルマ好きの中でも”2〜3割しかおらず、万が一クルマが滑った状態をコントロールできる人においては約1割弱しかいない。そうした状況の中では運転を支援してくれるシステムがあれば、万が一を救ってくれるだろう。またスポーツモデルだろうがなかろうが、クルマを運転する限りヒヤリハットは必ず遭遇する上に、気を抜く瞬間は必ずある。そうしたシーンを救ってくれるシステムが、より走りを楽しむ性格を持つスポーツモデルに与えられることは高く評価すべき部分だ。もっとも欧州車ではそうした装備を備えるものがスタンダードになりつつあるが…。

とはいえ、「WRX S4 tS」はATでも乗れてアイサイトも搭載された、安心・安全のスポーツモデルである。しかもそれがSTIというスバルのモータスポーツ・ディビジョンから送り出されていることも高く評価されるべきだろう。こうしたモデルが登場すれば、日本のスポーツモデルのリテラシーはさらに向上するし、より多くの人にこうしたスポーツモデルが解放されるともいえるのだ。

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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