Yahoo!ニュース

「私たちとしては、ゲームチェンジだと思っています」 ー日産に変化あり!? 日産ノートe-POWERー

河口まなぶ自動車ジャーナリスト

電気自動車リーフのモーターを搭載して、電気自動車ならではの静か滑らか力強いの三拍子が揃った走りを実現。しかし! プラグを持たず充電も必要とせず、1.2Lのガソリンエンジンを発電に使ってモーターで走るという、「給油して走る電気自動車」を実現したのが日産ノートe-POWER。

その成り立ちはまさに「この手があったか!」的なものだが、さらにハートをつかまれたのは、動画でも分かるようにアクセルペダルだけで走れるePOWER DRIVEという新しいドライビング・スタイルを手に入れたこと。

その走りはまさに「想像以上!」に楽しく気持ち良いもので、EV(の派生系として)の新たな可能性を感じさせる。それでいて燃費性能は、ライバルのトヨタ・アクアを超えるリッター37.2kmを達成している点もニクい。

そうした数々の話のネタが尽きない日産ノートe-POWERに関して、今回話を伺ったのが日産自動車(株)の、日本商品企画部主管(リージョナルプロダクトマネージャー)を務める谷内陽子さんと、同社で日本マーケティング本部チーフマーケティングマネージャーオフィスマーケティングマネージャーを務める寺西章さん。

まずは率直な疑問として、「なぜ普通のハイブリッドを作らなかったのか?」と質問してみた。すると谷内さんは、

「もちろん社内でいろいろな話し合いもありましたし、様々な方式を並行して研究もしていました。レンジエクステンダー(プラグを持つEVにサブでエンジンを与えたもの)も考えましたし、通常のハイブリッドも検討しました。しかし何よりもモーター・ドライブの気持ち良さを伝えたい気持ちが強くあったのです」

という。さらに寺西さんが興味深い話を付け加えた。

「というのも、リーフはゼロエミッションであることや、プラグを差して使うことなど、EVとしてこれまでのクルマと違う部分がクローズアップされたのですが、乗ったら楽しいし気持ち良いということがイマイチ伝わらなかったと考えていました。そんな走りの楽しさや気持ち良さを感じていただければ、今後はEVに対する見方が変わるはず…そんな思いで、リーフ譲りの良さを手軽に味わえるクルマとして今回、EVの良さが活きるシリーズハイブリッドとして提供する道を選んだのです」

確かにリーフは電気自動車としてインパクトを与えたけれど、その走りに関してはイマイチ伝わらなかった、というのには納得。だが、日産のお家芸ともいえるEVの魅力を訴求するためとはいえ、なぜ今このタイミングなのか? 

「もともと基礎研究はリーフと並行して行われてきたので、実は10年くらい研究しています。もちろん他の方式も研究を行ってきてはいました。リーフを出して、モーターやバッテリーの経験が蓄積されて、これをノートに移植する目処がたったわけです。それに加えて市場にもハイブリッド車が増えて、まだまだ割高な面はありますが、コンパクトサイズでもそうした割高な価格を支払ってもらえるようになった背景が合致したのがこのタイミングということです」

と谷内さん。機が熟して、ついに日産もこのクラスでトヨタやホンダと真っ向から「コンパクト+α」で勝負しようという気になったということか。

「また今回、ノートe-POWERを出したことをきっかけに、リーフの商談も生まれるだろうという話もディーラーの方々にお伝えしています。それぞれのメリットデメリットを比べていただいて改めてリーフに目が向くチャンスでもあります」

と寺西さんが続ける。ノートe-POWERには、実は改めてリーフの魅力を知ってもらう意図もあったのだ。

しかし驚きは今回のe-POWERで、電気で“走ることの魅力”(=モーターで走ることの楽しさ気持ち良さ)を改めて知ってもらおうというところ。ライバルと比べられるだろう燃費や価格ももちろん押さえるけれど、日産ならではの魅力、しかも走りで勝負しようとする辺りに、ちょっと前まで日本市場を見捨てたのか? と思えるようなモデル・ラインナップをしていた日産からは想像できない、方向性の変化が感じられる。このことについては、今後別のトピックとして記事を書く予定だ。

では今回のノートe-POWERで一番苦労したことは? と聞くと、谷内さんは

「やはり一番は、この価格を実現したことです。相当にすったもんだがありましたが、ガンバって競合と勝負できる価格を実現しています。またメカニズム的にはノートにこのシステムを搭載することで、レイアウト的にかなり工夫しているところです。もともと広さがウリでもあるので、広さやトランク容量を犠牲にせずにこのレイアウトを実現したことは、まさにエンジニアの方々の技ですね」

と、コンパクトカーとしてはやはり外せない「価格」はもちろん、「使い勝手」の面での頑張りをあげた。この辺りにも日本市場のライバルに真剣に向き合う意思が強く感じられる。寺西さんも、

「コミュニケーション的には、電気自動車と呼ぶのか? それともハイブリッドというのか? 社内でも意見が二分していました。しかしリーフ譲りの電気自動車らしい走りは、日産だけにできることでもある。そしてこれがアクアやフィットにはない、ウチが勝てる部分ですし、この部分での優位性は比較的長く持ち続けられるだろうと考えました。またアクアやフィットがモデルチェンジして燃費がさらに良くなっても、ノートe-POWERで実現している面白い走りは、それらと差別化できるポイントになるんじゃないかと考えました」

というように、ライバルに対しての優位性や差別化を強調する。う〜ん、日産って以前はこんな風に日本のことを考えてたっけ? と失礼ながら思ってしまった。要はそのくらい、2人の言葉は熱く、市場導入に燃えていた。話を聞いていると、そんな想いはさらにメラメラと燃上。

「私たちとしては、ゲームチェンジだと思っています。これまでコンパクトクラスで行われてきた燃費競争やハイブリッド競争ではなく、違う観点から魅力を訴求する時代がやってきたかなと。私たちもノートe-POWERでキッチリ燃費性能は押さえますが、言いたいことは“気持ち良さ”です。『こちらには気持ち良い走りがあるので是非乗って!』と言いたいですし、それが他とはちょっと違うんです、と言いたい。ハイブリッド云々ということより、さらに一歩先の価値を伝えたいのです」

筆者は思わず感動した。日産の商品企画の方から、そんな言葉を聞くことができるとは! 谷内さんの想いに、グイグイと引き込まれる。そして寺西さんも続いて熱さを注ぎ足す。イヤハヤ、どうした日産!?

「やはりハイブリッド、というとイコールで燃費はどのくらい? となる。でも、それだけではつまらないと思うんです。燃費はもちろん大切ですが、それはヨソのクルマがアピールすること、と思っています。ウチはさらにその上で、何が語れるかを言いたい。EVの気持ちよい走り、そしてワンペダルで走れること、この2つがあわさって本当に新しい価値になっています」

谷内さんや寺西さんがこれだけ熱く語るほど、時代は変化し、価値は変化しつつある。いままでのようにハイブリッドというだけでは売れない、勝負できない時代が迫りつつあり、新たな価値のプラスαが求められている。それはつまり、いくら燃費が良くても、価格が安くても、退屈なクルマでは生きていけない時代の始まりかも。

「今回のノートe-POWERは、もともとコンパクトカーに乗ってらっしゃる方はもちろん、上のセグメントのクルマから乗り換える“ダウンサイザー”にも受け入れてもらえるのではないかと思っています。モーターで走ることによる静粛性の高さは、これまでの1ランク2ランク上のクルマと同等以上なので、そした層もカバーできます」

と、谷内さんはe-POWERの持つ静かさ、力強さ、滑らかさといった上級車にも匹敵する価値を強調する。もはやコンパクトカーですら、いままで上級クラスに求められた質が必要とされる時代になってきた。

「これまでのコンパクトカーは安くて燃費は良いけれど、性能で窮屈な思いをしたり、走りで我慢したりという部分もあったが、これからはそうじゃない時代です。トヨタさんもプリウスで走りの良さを謳う時代ですから、他のメーカーでもやはり、燃費だけじゃないステージへ行こうとしている感覚はあります。そうした流れの中で、日産としても自動車の新たな価値を打ち立てたいと思うのです。そこで我々の強みが出せる、電気自動車の技術をうまく生かし、日産のキャラクターにしていければと」

トヨタも変わる、ならば日産も変わらずにはいられない、といったところか。しつこいようだが、日産の方からこうした話を聞くのは本当に久しぶりな気がしてならない。いや〜、その意味でも今回のノートe-POWERは興味深い。ちなみに筆者は、乗ってすぐに「良い!」と思ったし、動画でも語っているようにこれは「日産がひとつの良い方向を見つけた」ともいえる意義ある1台だと思う…ということを、谷内さん寺西さんに言うと、

「乗っていただくと皆さんに絶賛いただけます。だから百聞はひと乗りにしかずというか、キャッチコピーで使った『ひと踏みぼれ』も決して大げさじゃないと私たちも思っています!」

と谷内さん。あ、やっぱり皆さんそう思うのか。

というわけで、日産ノートe-POWER。変わりつつある日産の今を感じたい方は是非一度、お試しを。

マジ、驚きます。

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

河口まなぶの最近の記事