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広島製イタリアン、アバルト124スパイダーに乗る。

河口まなぶ自動車ジャーナリスト

アバルト124スパイダーは、マツダ・ロードスターのアーキテクチャを用いて作られる1台である。広島にあるマツダ本社工場で生産され、ここから世界へ送り出されるという、正真正銘の広島産イタリア車である。

もともとはマツダ・ロードスターのアーキテクチャを使って、やはりイタリアのスポーツカーメーカーである「アルファロメオ」ブランドの小型オープン2シーターを作るという計画でプロジェクトはスタートし、プレジェクト途中まではアルファロメオとして造られていた経緯を持つ。

しかしフィアット・グループとクライスラーの合併などを経て、同グループ内におけるアルファロメオ・ブランドの再構築が始まると事情は一変する。アルファロメオは現在発表済みのアッパーミドルサルーンである「ジュリア」を皮切りに変革を遂げ、先日のLAショーではSUVである「ステルヴィオ」を発表。この2台でアメリカ市場でのブランド再構築をも計画されているようだ。そうした計画の中で、マツダと一緒に手がけていた小型オープン2シーターの案は消滅。代わりにコンパクトクラスにおいて、BMW1シリーズやメルセデス・ベンツAクラスに対抗するようなCセグメントのコンパクトモデルを、FRレイアウトで送り出すという。こうした事情を経て、マツダとの小型オープン2シーター案は、フィアット・ブランドの124スパイダーへと変更された。そしてそのハイパフォーマンスバージョンとして、アバルト124スパイダーが存在する、というわけだ。その姿や走りなどについては、以下の動画を参考にしていただきたい。

こうして登場したアバルト124スパイダーだが、国内においては輸入車ではなく、日本生産のアバルトとして登録される。ただし販売台数に関しては、もともと輸入されているアバルトと合算されて発表されるという。

面白いのはイタリア車でありながら輸入車ではないので、マツダの広島本社工場で生産された日本仕様は、そのまま国内のアバルト・ディーラーへ送り届けられる点だ。通常ならば船で海外から運ばれ、これをVPC(新車整備センター)を経て各ディーラーへ送られる。しかし今回のアバルト124スパイダーはVPCを通す必要がないわけだ。

さらにユニークなのはここ日本で生産されているため、新車の発表こそ海外で先に行われているものの、市場導入に関しては世界で一番速いタイミングとなる。日本では先日10月8日に発売となり、オーナーへの納車も始まった。

加えて価格に関しても、イタリアのスポーツカーながら400万円を切っている。これもロジスティックやVPC等を省けたからこその価格設定だろうか? 6速MTモデルが388万円、6速ATモデルが396万円となるが、本国では4万ユーロくらいで、現在のユーロ為替から換算すると450万円以上となるという。さらに日本仕様と同じ装備にすると、本国では500万円くらいになってしまうとのこと。その意味では、アバルト124スパイダーが世界で最も安く購入できるのは、ここ日本ということになる。

通常、輸入車といえばハンドルの右左に関わらず、ウインカーレバーは左にあるが、アバルト124スパイダーは右ハンドルかつ右にウインカーレバーがある日本車と同じ構造となる。さらに販売ボリュームの多くない輸入車にとって足枷となるナビゲーションシステムに関しても、マツダ・コネクトをそのまま使って、画面起動時のブランド・ロゴ表示など細かな部分を変更している程度だ。またメーター内のインフォメーションも日本語が使われるのも、マツダ・ロードスターのパーツをそのまま使っているからでもある。

デザインに関してはもちろん、アバルトのデザイナーが描いたスケッチを元にフィアットおよびアバルト内でデザインされたものとなる。その多くがロードスターと同じパーツを使うが、素材や色を変えたりして独自の世界観を築き上げている。

では、その走りはどうなっているのか? これに関してはもちろん、フィアットおよびアバルトがテストを行い、キッチリと同社の乗り味走り味を構築している。加えてエンジンは同社の1.4Lターボ、マルチエアを用いているので、そのキャラクターは明確にロードスターとは異なるものとなっているわけだ。

他メーカーに自社ブランドを生産してもらうというのはとてもユニークな試みだろう。特にフィアット・グループとマツダが、そうした関係を築いているというのが実に興味深い。そしてこの結果、様々な面白い話を付随させることになったわけだ。最近の自動車ビジネスでは、こうした例も存在しているのである。

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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