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13年ぶりの日本カーオブザイヤーを受賞したスバルの「世界レベル」

河口まなぶ自動車ジャーナリスト

2016年12月9日に日本カーオブザイヤー2016−2017が決定し、スバルのインプレッサがイヤーカーに輝いた。スバルが日本カーオブザイヤーでイヤーカーを受賞するのは日本カーオブザイヤー2003−2004の「レガシィ」以来、実に13年ぶり2度目のこととなる。なお、インポートカーオブザイヤーはアウディA4シリーズが、ボルボXC90にわずか4票差で競り勝って受賞した。

ちなみに今回、インプレッサはトヨタ・プリウスを51票差で抑えて競り勝ったわけだが、13年前のレガシィもトヨタ・プリウスを抑えてスバルとして初のイヤーカー受賞だった。今やスバルにとってトヨタは親会社だが、日本カーオブザイヤーでは親会社の看板モデルであるプリウスに競り勝つのだから興味深い。

昨年はマツダがロードスターでイヤーカーを獲得し、一昨年のデミオと合わせて2年連続の受賞となったわけだが、今回のスバルの受賞を含めて考えると、この数年は「ブランドの強さ」が反映されていると考えられる。事実、いまやマツダとスバルは日本を代表するブランドであり、トヨタや日産、ホンダといった3大メーカーに比べると規模は小さいものの、大メーカーが実現しにくい「個性」や「味」が色濃く表現された魅力的なプロダクトを続々と送り出しているブランドでもある。

しかしそれ以上に重要なのはマツダにしてもスバルにしても、そうした情緒的な価値だけでなく、最新テクノロジーを駆使してプロダクトの商品性の高さを実現していることだ。

ご存知のように、マツダはスカイアクティブという呼称を用いて既存技術の徹底熟成進化に加え、他社が手薄としているディーゼル・エンジンを主力において商品性を高めている。そしてスバルはご存知「アイサイト」と呼ばれる運転支援技術を他者に先駆けて展開し、「安全」を主力におき、他がまだ着手していない部分で商品性を高めてきた。事実、スバルのアイサイトのCMで用いたられた「ぶつからないクルマ?」というコピーは世の中に広く浸透し、スバル以外のブランドのディーラーに来たユーザーが「ぶつからないクルマある?」と聞くくらいそのイメージを広めたのだ。

そうしてスバルはアイサイトを商品性の主軸に置きつつこの数年、次世代のアーキテクチャに着手してきた。その具現化が今回イヤーカーに輝いた新型インプレッサである。このモデルはスバル・グローバル・プラットフォーム(=SGP)と呼ばれるアーキテクチャを最初に用いた。それはつまり、次世代のスバルの商品群のトップバッターであることを意味する。

このインプレッサで用いたSGPを使って、今後XVやフォレスター、レガシィといったモデルが世に送り出されて行く。その意味で今回のインプレッサは、言わずもがなの超重要モデルである。いや、このインプレッサが次世代の全ての始まりだから、重要どころか普通に素晴らしい仕上がりで当たり前、が求められる1台なのだ。

もちろんスバルもそれは当然わかっていることで、このモデルで何を実現するか? は相当に練り込まれたはずだ。トヨタの傘の下に位置したことで軽自動車を手放したために、自社で生産する乗用車で最もコンパクトなモデルはインプレッサということになる。しかしながら与えられた使命は次世代のトップバッター。ある程度手頃な価格も実現しなければならない一方で、今後の指針となるような英断も必要となる。

そうした経緯の中で登場したのが今回の新型インプレッサ。実際に乗ってみると、その仕上がりは多くの人が驚きを感じるレベルにあった。筆者もテクストや動画で表現しているが、その仕上がりは同クラスの頂点に位置し、世界の自動車の物差しともいえる、VWゴルフと比べても良いのではないか? と思えるレベルにあった。

デイリーユースされる実用車ながらも、到達したレベルは相当に高い。動力性能、運動性能、燃費および環境性能に関しても申し分がない上に、やはりスバルが最近得意としている安全の面では、このクラスで世界的に見ても稀有な内容をスタンダードに落とし込んだことが今回のハイライトといえるだろう。

ルームミラーの両脇に、前方へ向けて置かれたステレオカメラによって前方の状況を把握して、前走車に追従してアクセルとブレーキをクルマの側で制御し、必要な場合には停止まで行うアダプティブクルーズコントロールや、車線と車線のちょうど真ん中に自車位置を維持するためにハンドル操作を制御するステアリング・アシスト。さらにはドライバーから死角になる後側方から接近する車両があればサイドミラー内や音で警告を行い、そのような状況で車線変更をしようとした場合にも警告をおこなうリアビークルディテクション等を標準装備とした。

言葉にすると簡単だが、こうした運転支援の機能は、最近ではほとんどのクルマで採用されてはいるものの、実際にはオプションで設定されているものを購入者のほとんどが装着している、という状況でもある。しかしスバルはインプレッサで、それを完全に標準装備とした。このことは高く評価できることであると同時に、このクラスはもちろん、現代の自動車における安全装備に対するメーカーのリテラシーに対して、一石を投じた、と記すこともできるわけだ。なぜならこうした装備はもちろんライバルも用意はしており、8〜9割が装着する事実上の標準装備でありながらもオプション設定とされ、10〜20万円くらいの価格をつけている。それをスバル内製の最もコンパクトなモデルで標準装備したのだから、これは様々な意味で英断である。

さらに今回の新型インプレッサでは、日本車として初めて歩行者用エアバッグを装着した。これはボンネットとフロントガラスの間から車外に出るもので、万が一歩行者をはねた場合にエアバッグで受け止めるという機構である。スバルはこの機構も、インプレッサで全車標準装備とした。

もちろんその分、先代モデルから比べると車両価格は微妙に上がっている。が、先代モデルの最も安いグレードにオプションでアイサイトをつけた仕様よりも安い価格のモデルを、新型で用意したところも真摯な対応といえるだろう。

総じてみると、クルマの本質である走る曲がる止まるにおいて、世界定番のVWゴルフと比べたくなる内容で、その上で安全装備は現在の世界でみてもトップレベルを標準装備した。そうしたクルマが、実に200万円前後で提供される。しかもそれは大メーカーではなく、スバルから送り出される…と考えると、すごい時代になったなと率直に思えるわけだ。そしてこの事実をして、日本車もまた世界レベルに到達しているといえる。

スバルは今回、新型インプレッサ発売までのプロモーションでは、愛で作るクルマ、と自らのプロダクトを表現したが、なるほど納得である。確かにそこには、ユーザーを思うからこその内容が実現されたと感じる。

日本カーオブザイヤーの選考委員を務める筆者は今回、スバル・インプレッサに10点、メルセデス・ベンツEクラス、アウディA4、トヨタ・プリウスに各4点、そしてアバルト124スパイダーに3点を配点した。今年、配点に関して重視したのは安全装備。自動運転という言葉が流行語になりそうな勢いだった今年に、様々な将来の自動運転技術を応用した制御を盛り込んだクルマが多く登場した。メルセデス・ベンツEクラスなどは、高速走行時にウインカーを出すと後側方からの車両の有無を検知した上で自動で車線変更すらする機構を持つし、自動パーキングシステムにおいては、ドライバーは数回の簡単操作でアクセル/ブレーキ/ステアリングの全ての操作をクルマの側で行なう。

そうした中で、スバル・インプレッサに10点を配点した理由は、考えられる全ての安全装備を標準装備としたからである。実際、メルセデス・ベンツEクラスのレーダーセーフティパッケージも標準だが、車両価格とクラスを考えるとある意味当然の装備だろう。またアウディA4の運転支援システムも、トヨタ・プリウスのトヨタ・セーフティセンスPも、全ては有償のオプション装備となる。そう考えると、やはり今年は人のためになる装備を標準化したインプレッサと、スバルの英断を高く評価したい。

こうしてみると例え小さな自動車メーカーでも、大メーカーに負けない商品性の高さを実現することができることがわかる。そしてそれが社会を変えていく力になる、と考えると今年のイヤーカーはスバル・インプレッサだろうと、改めて感じるのだ。

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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