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【圧倒的進化だが…】マツダCX-5  81/100点【河口まなぶ新車レビュー2017】

河口まなぶ自動車ジャーナリスト

【成り立ち】完全新設計ではないものの、新世代2周目突入

新型マツダCX-5の成り立ちは完全なる新型ではない。というのもこの2代目モデルは、先代CX-5から派生したプラットフォームを使っているからだ。先代CX-5登場後、アメリカでこれをベースにしたより大きなSUVであるCX-9をマツダは送り出したが、今回はそれをベースにさらに進化させたプラットホームを用いた。

またエンジンも先代のものを使いつつ、これまでの不満を払拭している。最近マイナーチェンジしたCX-3やアクセラ、デミオなどの他のモデルと同じように特にディーゼル搭載モデルは、音や振動をさらに抑える技術を投入してブラッシュアップを図っている。その他組み合わせるサスペンションなどのメカニズムも、基本は先代を踏襲しつつも徹底的な改良進化を図っている。

プラットホームやエンジンを新たに興すということは、当然莫大な開発費用がかかる。しかし今回はそれをしないことで、逆に通常では手が回らないような細かなところにまで微に入り細に入りの開発をしたのがポイントだ。

例えば静粛性などに関しては、本来室内で騒音が内装材に反射して遅れて耳に届くような現象があるのだが、今回はそうした部分まで払拭して一層静かさに貢献する内装材を開発するなど、きめ細やかな開発をしている。

これはかつて、VWがゴルフ5からゴルフ6へのモデルチェンジで使った手法。主要部分は先代から受け継ぎつつ、細かなところまで徹底的な進化を図って先代に圧倒的な差をつけるプロダクトを作った。今回のマツダCX-5は、それに近い印象だ。

【デザイン:90/100点】国産随一のセンスと品質感の高さ。一方親しみやすさは…

先代CX-5から始まったマツダの現在のラインナップは、この新型CX-5が登場したことでラインナップが一巡して、新世代モデルの2周目に入ることになる。

これまでの魂動デザインは継承するものの、この新型CX-5からは「Car as Art」というテーマを掲げた。実際に見ると、そのデザインにも変化が始まったことが分かる。

外観でこれまでと明らかに違うのは、ボディサイドを走るキャラクターラインがほとんど消滅し、面によって側面の造形を行なったこと。面に絶妙な抑揚を与えて動きを作る様は、確かにCar as Artを感じさせるもの。見た目の品質感や美しさは国産メーカー随一といえる。

一方でマツダが最近特にチカラを入れているのがボディカラー。ソウルレッドを全モデル展開して世界観を作った後、マシーングレーという新たな色を展開。これらによってユーザーのボディカラーへの意識も創出した。そして今回はさらに、ソウルレッドクリスタルメタリックを開発。これまでのソウルレッドクリスタルよりもさらに深みのある輝きと陰影を創り出し、クルマの各部を眺めたくなるものとしている。

インテリアは、他のモデルで頻繁な年次改良を経て品質アップに努めてきたことを継承しつつ、新たな水平基調造形も取り入れて一層高品質な空間を作り上げている。

この辺りの見た目に関する進化はまさに完璧。日本の自動車メーカーでもここまでイケるのかと感心させられるものがある。ただ、そうした「スキのない」デザインに昇華した結果、ドライバーや所有者にも品が求められる気がするのは筆者だけだろうか? なんとなくこのデザインのテイストだと、ゆるっとリラックスしたウェアは似合わない気がしてしまう。それだけに、どこかホッとできる庶民的なところは…残念ながら失われた。

【走り:80/100点】進化の度合いは大きいものの、細かな部分が気になる

先代のものを進化させたプラットホーム、音や振動を抑制したエンジン、取り付けを変更したハンドル周り、さらなる最適化が図られたサスペンション…徹底的に先代のネガを潰したその走りは、確かにフルモデルチェンジに相応しいと表現できるものへと昇華されている。今回は比較試乗車として先代モデルも用意されたが、そのステップアップはとても高い次元へ到達していると確認できた。

特に印象的なのは静粛性の高さ。高周波の音はすっかり消されており、時折低いノイズが聞こえるくらい。これがクルマに落ち着いた雰囲気を与える要素になっている。

ディーゼルは力強く滑らかで、アクセルをわずかに開けるだけで悠々と走れる。日常使用では3000回転までで全てが事足りるだけの豊かな感覚がある。

ガソリンは力強さこそディーゼルに譲るものの、低速時の静かさや回転上昇の気持ちよさは上。さらにわずかなアクセルワークでもクルマがスッと出て行くようなディーゼル的な感覚の伸びの良さを作り込んだ。ただ2.5、2.0ともディーゼルに比べるとアクセルを開ける頻度は多くなるのは致し方ないところ。日常使用だとディーゼルよりも高回転を使うシーンがでてくることになるため、燃費にも影響する。

乗り味は端的に先代よりも滑らかだ。路面に対して先代よりもピタッと吸い付く感じと、多少の路面の荒れでは揺すられたりしないフラットな感覚が心地よい。この辺りの進化は先代を大きく凌ぐ。

ただし、乗り味の印象は搭載エンジンや駆動方式でわずかずつ異なる。ディーゼル搭載車はエンジン自体が重いのか、クルマの前方の重みからわずかにコツコツした振動と微妙な揺すられ感がある。比べるとガソリン搭載車はクルマの前方が軽い感覚のため、振動もなくハンドル操作をするとスッキリと動く感じがある。

加えて操作フィーリングが格段に向上し、回す時にとても軽やかで滑らかなハンドルだが、直進しているときの「座り」がもう少し欲しいと思える。先のディーゼル系の振動によるクルマの揺すられ感があいまって、ドライバーが意図せずハンドルを握る手に伝わって自身で揺するような感じを作り出すことがある。直進時にもう少ししっかりとハンドルが座っていると、もっと安心してクルマに身をまかせることができるのではないか。

またFFモデルと4WDモデルでは、4WDの方が全体的にどっしり座りの良い安定感が伝わる。一方でFFモデルは軽快感が強い印象だ。

乗り味は個人的には、ディーゼルのFFがややビジーな動き、ディーゼルの4WDがずしりと安定、ガソリン4WDがスッキリかつシッカリ、ガソリンFFが最も軽快…という印象だった。

先代から比べると、走りの進化は圧倒的。だが、昨年末に雪上で試乗した際に得られた感動は、今回の公道ではやや薄れた。やはりドライの路面では違った印象が見えてくる。雪上での印象からすると、舗装路面においても先代比で、しっとりとした味わいが圧倒的にある…と予測していたが、実際にはわずかに雑味も見える辺りはこのプラットフォームの限界なのだろうか? もっともマツダは現在、新世代のプラットフォームを構築しており、現状の新型CX-5の実力(細かな注文はありつつも基本的にとても優れている)からすれば、今後はさらに走りの面でも高いクオリティを備えてくるだろうことが予測できるといえる。

【装備:80/100点】マツダ車で初の全車速対応ACCを採用。気になるのは燃費か。

まず重視したい安全装備だが、自動ブレーキは全車に標準装備している。また全車速対応のアダプティブクルーズコントロールや危険認知支援、衝突回避支援、被害軽減などの装備群であるi-ACTIVSENSEが、各モデルの廉価グレード以外のプロアクティブとLパッケージには標準装備される。ただ、最近ではスバル・インプレッサがコンパクトカーながらもアイサイトを全車標準装備するなどしていることを考えると、”メーカーの見識”としてこのクラスならばせめてアダプティブクルーズコントロールくらいは全車標準化してほしいと思えてしまうのが実際だ。また前車が発進したのをお知らせする機能がディスプレイ上では行われるが、音などで知らせる機能はない。音による全車発進お知らせ機能は何もドライバーへの注意喚起だけでなく、機能が作動しているか否かを判断する意味合いもあるのでせっかくならば装着して欲しいと思えた。

また気になるのは燃費で、ディーゼルのFFでリッター18km、ガソリンの2.0Lでリッター16kmと考えると実燃費は頑張ってこの数値と同等くらいと考えると、さほどよいとは言えない。マツダは今回、実燃費の良さに注力したというが、果たしてそれがどのくらいになるかは気になるところ。ディーゼルはまだしも、ガソリンの2.0L等は結構頻繁にガソリンスタンドに行く感じになりそうだ。

【使い勝手:80/100点】リアラゲッジのハンズフリーが欲しい

リアシートはバックレストがリクライニング式でリラックスした姿勢が作れる。ただし、5人乗車時のセンターはシート座面がここだけ奥まっている。またラゲッジはサイドのレバーで40:20:40の分割可倒シートをそれぞれ倒せる使い勝手の良さがあるが、レバー自体が華奢な感じなのが残念。リアのハッチは電動となるが、バンパーの下に足を入れてハンズフリーでの開閉はできないのが残念なところだ。

【価格:75/100点】ガソリンなら300万円台前半、ディーゼルならば300万円代後半、この差をどうみる?

とても完成度の高いCX-5。ただそれだけに価格的には決して安くない。まず多くの人の本命であるディーゼル(おそらく7割くらいの方がこれを選ぶだろう)のXD場合、2WDで277万5600円だが、装備を考えるとプロアクティブ以上となるので、プロアクティブが300万2400円、装備充実のLパッケージが329万9400円となる。これにオーディオやETC等をつけて諸費用などを考えると、XDの2WDで320万円くらいからとなり、Lパッケージはプラス30万くらいなので、ディーゼルの2WDなら諸費用込みで約350万円くらいまでを見ておくべきとなる。そしてディーゼルの4WDの場合はそこから20万円くらい高くなるので、XDの4WDのLパッケージでオプションをつけてETCで…となると約380万円くらいの価格感になってくる。ガソリンの場合は、ディーゼルよりも20~30万円割安になるが、燃料代は多くかかるだろう。ガソリン2.0Lのプロアクティブでも、諸費用込みで300万円は超えるため、やはりディーゼルが本命か。

【まとめ:81/100点】完成度は高いが、キャッチーなところが薄いか?

全体的な印象として、マツダは本当に商品性の高いプロダクトを生み出す会社になったなと痛感させられる。それはもちろん、今回の新型CX-5に触れてこその印象だ。新たな商品群が揃ってからも、毎年プロダクトをブラッシュアップして、常に鮮度を失わぬように努めた点と、地味ながらも中身のあるマイナーチェンジを繰り返して全てのモデルでデザインや品質、走りにおいて共通の感覚をユーザーにもたらすことにも努めた。そしてその先にあるこれまでの完成形かつ次世代への足がかりとなるのがCX-5であり、その仕上がりはなるほど納得のものだった。ただその一方で、新型車に必須の分かりやすい華がないのも事実。この辺りは従来の延長の究極という感じだけに致し方ないところか。

ただし、微に入り細に入りのモデルチェンジではあるものの、まだまだ細かな点が気になるのも事実。さらにマツダは走りをウリにするが、それがどれだけ受け入れられるかや、新規の顧客を増やすためのチカラになっているかを考えるとわずかな不安は残る。理想は高いが、どこまでユーザーがついてくるか? は誰もが気になるところだろう。

話がズレたが、現在のこのクラスのSUVで旬であることは間違いない。気になる方は是非試すべき一台だ。

※各項目の採点は、河口まなぶ個人による主観的なものです。

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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