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進化する人と、進化しない人の違いとは? “レジェンド葛西”を目指すなら、バカになれ!

河合薫健康社会学者(Ph.D)
著作者: Stf.O

いろんなドラマがあったオリンピック。 十数年前には、原田選手のジャンプに、多くのビジネスマンが勇気づけられ、今回は葛西選手と自分の人生とクロスさせ、ちょっとばかり刺激されたお父さんたちも多かったに違いない。

「葛西選手、かっけ~。自分もあんな風に、進化したい」と。

特に最近は、50を過ぎたら『お荷物社員』とばかりに、煙たがられる存在だ。

シニアスタッフ、E社員、エルダーさん……。会社によって呼び名は違うが、「現役ではありません」とばかりに線引きされる。

『エルダーさんなんて、呼ばれたくないよ!』なんて威勢よく退職したところで、50を過ぎてからの転職ほど、厳しいものはない。

どうすれば、お荷物扱いされない社員になれるのか? 

どういう働き方をすれば、葛西選手のように後輩からリスペクトされるのか?

答えは一つ。「自分をよく見せたい」という願望を捨て、「バカになる」しかない。レジェンドは、“バカ”になれる心の柔らかさが必要なのだ。

そこで今回は、「レジェンドへの道」についてお話しよう。

まず、次の2つの質問にあなたは、どう答えますか?

・これからも私は色々な面で成長し続けたいと思う

・新しいことに挑戦して、新たな自分を発見するのは楽しい

これらの問いに、「そう思う!」と即答できる人は、「人格的成長(Personal growth)」と呼ばれる機能が高い。

人格的成長とは、人間のポジティブな機能の1つで、平たくいうと「自分の可能性を信じる」感覚である。

この感覚が高い人は、新しいことに挑むのを恐れず、危機に遭遇しても、それを脅威ではなく『自分に対する挑戦だ』と考えることができる。また、この感覚は、ストレスの雨と対峙する傘となるため、人生の満足感や精神的な健康を向上させる。私がこれまでかかわった調査研究では、この感覚の高い人ほど、ストレスに対処する力が高かった。

都知事選で細川元総理の応援に立った小泉元総理が、「不思議だね~。どんどん細川さんも元気が出てきてね。人間っていうのは、やるべきことが見えてくると、元気が出てくるもんだね」

などと、ノー天気に語っていたけれども、これも元総理コンビが、「自分の可能性」を信じ、一歩前に踏み出したことで(=都知事選への出馬)、生きるエナジーが充電された結果である。

そう。人間にとって、自分を信じる気持ちほど、大きな力はないといっても過言ではないのだ。

「人格的成長」の感覚の根底には、「学びたい」「成長したい」という欲求が存在していて、これが「自分の可能性を信じる」感情と科学反応を起こしてたときに、人は成長し、進化する。

スタンフォード大学の教授で、心理学者のCarol Dweck博士は、「人格的成長」を、「成長する思考態度(growth mindset)」と呼び、「成長できる人とできない人の違いをもたらす大切な考え方」と位置付けた。で、その対極にある考え方を、「固定された思考態度(fixed mindset)」と名付け、それぞれの違いを明らかにしている。

「成長する思考態度」の人は、「私の人生は、学んだり、変化したり、成長したりする、連続した過程である」と、“今”を成長への通過点と捉え、決して、自らの成長を制限しない。

このため、自分に対する批判、他人の成功などなど、普通だったら、向き合いたくないことにあっても、ありのままを真摯に受け止められ、それらを吸収する柔軟さをもつことができる。

一方、「固定された思考態度」の根底には、「自分をよく見せたい」という欲求があるため、自分に都合の悪い批判は退け、他人の成功に脅威を抱く。自分を良く見せたいがために、他人を蹴落とすような言動をとることが多い。

常に、「自分は失敗しているか、成功しているか?」、「賢く見えるか、バカに見えるか?」、「受け入れられているか、排除されているか?」、「勝者か、負け犬か?」と、他者との比較世界で物事をとらえ、自分の優位性にこだわり続けるのである。

常に人を見下して、過去の栄光をひけらかし、他人の成功を決して認めることがない。

一言でいえば、イヤなヤツ。そんな評価を周りから受けがちなのが、「固定された思考態度」の人だ。

葛西選手だって、「もっと飛べるぞ。もっとうまくなれるぞ!」と信じたからこそ、今回のオリンピックも踏ん張ることができたし、「金メダルを取ってやる!」という、強く、激しいモチベーションを維持し、進化できた。

この自分の可能性を信じる気持ちと、プロセスに価値を置く姿勢。それがレジェンドを産んだのだ。

葛西選手の強さの秘密は、なんでも吸収できる柔らかさと、多少ひっぱられても切れることのない、まるでスポンジのような心にある。真の強さとは、鋼のような強靭な心をもつことではない。「バカになれる」しなやかさと、謙虚さ。その心の柔らかさが、人を強くする。

ジョブスの、「Stay hungry, Stay foolish!」の真意も、「学びたい気持ちと、謙虚さを忘れるな!」ってことだと、私は解釈している。

もちろん思い通りの結果にはならないことだってあるだろう。でも、自分の可能性を信じ前を向いていると、その失敗の経験を糧に、「今回も踏ん張れたんだから、次だって大丈夫だ」と再び踏ん張る勇気を持つことができる。そして、踏ん張り続けることで、進化した新しい自分と出会えるのである。

私も同じ40代。まだまだ、「伸びしろのあるぞ!」と信じ、バカになることを恐れず未熟なコラムを書き綴ります。今後ともご愛顧いただければ幸いです(笑)。

健康社会学者(Ph.D)

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。 新刊『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか』話題沸騰中(https://amzn.asia/d/6ypJ2bt)。「人の働き方は環境がつくる」をテーマに学術研究、執筆メディア活動。働く人々のインタビューをフィールドワークとして、その数は900人超。ベストセラー「他人をバカにしたがる男たち」「コロナショックと昭和おじさん社会」「残念な職場」「THE HOPE 50歳はどこへ消えたー半径3メートルの幸福論」等多数。

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