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“ゲス不倫議員”のそもそもの問題とは?

河合薫健康社会学者(Ph.D)
著者: diloz

“ゲス不倫”………、凄いネーミングだ!

「かばう要素なし。育休どころか永久にお休みになればよい。『イクメン』どころか常識を疑う」

「不倫と育休宣言はわけて考えるべき」

「女房が出産してるときに不倫だなんて!死刑だ!」

などなど、さまざまな意見が出ているが、なんだかすべてがごちゃごちゃで。育休宣言のときから感じていた“違和感”と“嫌悪感”が、ますます深まった。

そこで今回の“事件”(といっていいのでしょうか??)を、「そもそも」に戻って考えてみようと思う。

まず、最初に断っておくが、個人的には議員の育児休暇には賛成である。欧米の制度(代理制度など)を見習って、日本の国会議員でも育休をとれるようにすべきだと考えている。

だが、宮崎氏の育休宣言には、最初からなんとなく応援する気持ちになれなかった。

理由は、宮崎氏が「育休宣言」をするまで、“そもそも”どういった取り組みをしていたのか? がわからなかったからに他ならない。

もし、

「議員が出産のため議院に出席できないときは、日数を定めて、あらかじめ議長に欠席届を提出することができる」

という衆議院規則185条の、「出産」という部分を「出産または育児」と改正するために、なんらかの活動をしてたとか、

「イクメン議員連盟のメンバー」

として活動していた事実があった上での、「育休宣言」なら理解できる。

※「イクメン」を増やしていくことを目的として、2012年6月13日に発足した超党派の議員連盟で、「男性の育児休業取得率の上昇をはじめ、父親の育児参加の促進や、母親との育児分担を進めるための諸活動に積極的に取組み、少子化傾向を改善し、長期的な視点で日本再建につなげていく」としている。

ところがアレコレいろいろと調べてみたものの、残念ながらどこにも「宮崎謙介」という文字はなかった。宮崎氏のHPには「イクメンプロジェクト」のリンクが貼ってあるけど、「僕やってます!」という活動報告も、プロジェクトでの“彼の存在”も、見当たらなかったのである。

本人はブログで

「“男性の育休取得の促進のために一石を投じる”ことを目的とした」

とし、宣言のあとには、自民党の若手国会議員10人で『男性の育児休暇取得を推進するための勉強会』を開き、「男性の育休取得は国会議員が率先して進める必要がある」と語り、休暇に関する規定がない衆院規則の改正を働き掛けていくとの考えを示していたけど、本当にこの人は、いち議員として「男性の育児休暇」に問題意識をもっていたのだろうか?

もし、これが「事故」など予測不能の事態の出来事ならまだわかる。だが、出産は別だ。

ある日突然、「大変!妊娠してた!!来月生まれちゃう〜〜〜!」となるものではない。ごくごくまれにそういったおっちょこちょいの人もいるかもしれない。

だが、宮崎氏自身が、

「昨年6月に妻である金子議員の妊娠が発覚し、その後妻の体調のケアにかかわるうちに育休を考え始めた」

と発言している(PRESIDENT Onlineより)。

一石を投じるのは多いに結構。それが問題解決の糸口になり、「陰で涙している人たちのため」なることもあるだろう。

だが、その「一石」が、意味ある“一石”になるかは、それまで「なにを、どうしてきて、あれこれやったけど、まだまだこれで、これこれこうだから、どうしてもこうなった」(ややこしくてすみません)というプロセスがあってこそ。

宮崎氏は国会議員として、もっともっとできることがあったし、やるべきことがあった。だって、議員。そう、議員なのだ。

今さらではあるけれど、そこをなおざりにして、宮崎氏の育休に賛成も反対もなかったように思えてならない。

でもって、最近、私たちが「問題として取り上げる問題」の多くに共通している「問題」のように思えてしまうのです。

例えば、昨今のマタハラ問題。かなりデリケートな問題なので、一概には言えないのだが、現場の人たちから次のような意見を聞くことが多い。

「妊娠が分かったら降格させられた、とか、出産後閑職に追いやられた、とマタハラの被害を訴える女性がいますけど……、周りから“ここにいてほしい”と思われる人は、出産しようと、子どもが病気で早退や遅刻をすることがあっても異動などさせられないし、周りも“お互い様”という気持ちになります。でも、こんなこと言うこと自体、マタハラって怒られるんでしょうけど……」

ついつい私たちはなんらかの問題が起きると、人権、平等、といった誰も反論できない“伝家の宝刀”を持ち出し、拳を振り上げるが、実際には「問題が起きる前の日常」の中にこそ問題が潜んでいるのではあるまいか。

青臭い言い方をすれば、平時をどれだけひたむきに生きているか? が大切なんじゃないか、と。

もし、宮崎氏に、「ひたむきに育児休暇問題に取り組んできた」という事実があれば、もっともっと前向きに「国会議員の育児休暇」について社会の感心も高まったし、一般企業の男性たちの「育児休暇取得」にも追い風になったはずだ。

っとまぁ、育休宣言のときには、かなりエキセントリックに賛成VS反対が衝突していたので、“参戦”する気になれず……。

今さらではあるのだけど、今回の“ゲス不倫”報道で、育休宣言後に感じていた違和感を書いておこうと思った次第です。

で、今回のコトはどうだって? 

サイテーというか、ナニやってんだというか、“人”としてどうなのよ? というか、自分の夫だったら“死刑!”っす。

健康社会学者(Ph.D)

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。 新刊『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか』話題沸騰中(https://amzn.asia/d/6ypJ2bt)。「人の働き方は環境がつくる」をテーマに学術研究、執筆メディア活動。働く人々のインタビューをフィールドワークとして、その数は900人超。ベストセラー「他人をバカにしたがる男たち」「コロナショックと昭和おじさん社会」「残念な職場」「THE HOPE 50歳はどこへ消えたー半径3メートルの幸福論」等多数。

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