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5月の自殺者を急増させる「約束破りの効果」とは?

河合薫健康社会学者(Ph.D)
著者:David Blackwell.

5月は「自殺者」が増える、魔の季節だ。

以下は、1997年の2万4391人から1998年の3万2863人へと、自殺者が急増した1990年代後半の自殺者の月別発生割合である。春になると年平均値から10~25%ほど増え、その後はゆっくり下落。秋になるとわずかな上昇を示すものの、冬になると急下降する

この季節曲線は現在も続いていて、2000年代以降は、特に30代、40代で多くなる傾向が認められている。

Bio weather service より引用
Bio weather service より引用

しかも、これはどこの国にも存在する季節変化。最初に注目されたのは19世紀だった。

北欧の自殺曲線
北欧の自殺曲線

なぜ、春に自殺者が増えるのか?

世界中の研究者が解明に努めてきたが、残念ながらいまだに一貫した回答は得られていない。 

ただ、春は日照時間が急激に長くなる季節だ。これがメラトニンやビタミンDの生成量の変化に関係するのではないか? 花粉の飛散がサイトカインという免疫物質を引き出し、炎症反応を強めるのではないか? ――などなど、“太陽の功罪”を疑う意見は多い。

その一方で、最近注目されているのが、「約束破りの効果(broken promise effect)」だ。草木や動物だけでなく、実は、人間にとっても春は成長の季節で、春先に「希望」を抱く心理が存在し、その希望と現実とのギャップが、自殺の引き金になるのでは?と考えられているのである。

特に新年度と重なる日本では、新しい職場や、人間関係に関連して、「今年度は○○しよう!」と期待・奮起する人は多い。 

が、思った通りにはいかず……、「もう無理」と生きる力が萎える。とりわけ日常的にストレスを感じているミドル世代にはキツい。外の光の明るさとは裏腹に、心は暗闇に翻弄されるのである。

とはいえ、いかなるストレスも、ストレッサー(ストレスの原因)そのものはそれほど重要ではなく、いかに、そのストレッサーに対処するかが「その後」を決める。

そこで、ここからはストレスの対処法について紹介するので、是非、参考にしてください。尚、今もっともストレスが心配される震災のストレスについては前回書いているので、こちらも合わせて参考にしてほしい。

人間は何らかのストレスを感じると、その状態から脱するための対処行動を本能的に探る動物である。その対処行動は、大きく2つに分けられる。

1つは、へこんだ気持ちを元に戻す対処(ストレスへの対処)

もう1つは、ストレスの原因となっている問題を解決する対処(ストレッサーへの対処)である。

ストレスとうまく付き合っている人は、この2つの対処を巧みに組み合わせながら、ストレス状態から脱している。

ストレスに対峙するには、まずは、自らをびしょ濡れにしている「雨を吐き出し」、へこんだ気持ちを元に戻し、次に問題解決に向かうことが肝心である。

へこんだ気持ちを元に戻す対処は、俗に言うストレス発散。 お酒を飲んだり、歌を歌ったり、趣味に没頭したり、愚痴を言ったり、ひたすら寝たり……。とにかく気持ちがスッキリする行動を積極的にとる。心のへこみ具合が強い場合は、「寝る→体力回復→ストレスを発散する→寝る」というサイクルを、最低でも2回は繰り返して欲しい。

週末からスタートする連休を上手く使って、「俺はまだ大丈夫」と思っている人も、心の針がポジティブな方向に傾くよう、多少強制的にでも、ストレス発散に努めること。

「でも、カラオケもしないし、趣味もないし、どうやってストレス発散したらいいのか……」という方は、「誰かの役に立つこと」をするのも効果的。

東日本大震災のときにボランティアに参加し、「自分もがんばろう!」と逆に元気をもらった経験をした人は多いはず。ボランティアセラピーといわれるように、無償で人に役立つことに関わると、心がホワッと和らぐメカニズムを私たちはもっているのである。

もし、熊本や大分などに行かれる場合には、是非とも「一緒にやる」を実行して欲しい。大震災下でのストレス過多状態では、どうすることもできなかった状況への「無力感」もあるため、「役割を得る」対処法が効果的。

「おじいちゃん、ちょっと手伝ってもらえませんか?」と頼んでみたり、「これをお願いします!」と仕事を頼む。「おばあちゃん、これってどうしたらいいですかね?」と、おばあちゃんの知恵袋を借りるのも効果的だ。

さて、気持ちが元に戻ったあとは、ストレスの原因となっている問題にいかに対処するかを考える必要がある。

そのためには、

「自分はいったい何にストレスを感じているのか?」

を、何度も考え、ストレスの原因を明確化することが必要となる。

「将来への不安」「職場のストレス」「家族の問題」といったように漠然と捉えるのではなく、

上司との関係なのか?

仕事の量の問題なのか?

仕事を効率的にこなせていないことなのか?

あるいは、

  • 夫婦関係の、何に問題があるのか?
  • 子育ての、どんなことに迷いがあるのか?
  • 金銭的な問題の、どういった状況に不安なのか?
  • 育児の、何にストレスを感じているのか?

などなど、「これでもない、これは?いや、違う。あ、こっちだ」といった具合に、問題を掘り起す。

で、ストレスの原因が明らかになったところで、「その問題を解決するには何をすればいいか?」を考え、実行する。これが、ストレスの原因となっている問題を解決する対処だ。

ここで、一人きりでがんばってはならない。ストレッサーへの対処は体力もいれば時間もかかるので、必ず、職場の同僚や“斜め”の関係にいる上司など、問題解決に協力してくれる同志を得ること。専門家に相談するなど、“プロの傘”を借りるのも有効である。

さらに、職場環境、家庭環境に存在するストレッサーの根本的な解決を図るには、通常、膨大な体力と時間を要す。 なので、エネルギー切れしたら、いったん立ち止まり雨宿りする。ストレス発散に精を出し、消耗したエネルギーを充電する。

この繰り返しを首尾よく行うことが、ストレスとうまく付き合うコツだ。

あっという間に連休があけ、ストレスフルな日常が戻る。そのときに、「よし! 夏休みまで、またがんばろう!」と思えるよう、遊び過ぎたかな?と思うくらい遊んで欲しい。

え?新入社員の「五月病」はどうすればいいかって?

私が行った追跡調査では、ほとんどの新入社員が程度の差こそあれ、「五月病」と呼ばれる症状に陥っていた。原因は、イメージしていた仕事と実際の仕事のギャップ(=リアリティ・ショック)だ。これは職場への適応の過程で、誰もが通過する心理状態で、「約束破りの効果」とは少しばかり異なる。

ただ、上手く対処しないと慢性的なウツにつながるリスクがあるので、同級生と会うなどしてエネルギーの充電すること。そして、職場では「仕事でわからないこと」があれば積極的に先輩社員に聞き、自分がやっている仕事が「なんのためなのか?」を知る努力を心がける。

一方、上司は彼らに「適切な役割を与える」こと。どんな小さな役割でもいい。とにかく「キミも我が社の一員なんだよ」」というメッセージを込め役割を明確化し、「その仕事の意味」を少々めんどうでも教えてあげてほしい。すると仕事へのモチベーションが高まり、“五月病”を脱することができる。

連休関係なく仕事!と言う方も、是非とも「あ〜遊び過ぎた〜」というくらい、心の休養に努めてください。私も……遊びます。できる限り…。

健康社会学者(Ph.D)

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。 新刊『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか』話題沸騰中(https://amzn.asia/d/6ypJ2bt)。「人の働き方は環境がつくる」をテーマに学術研究、執筆メディア活動。働く人々のインタビューをフィールドワークとして、その数は900人超。ベストセラー「他人をバカにしたがる男たち」「コロナショックと昭和おじさん社会」「残念な職場」「THE HOPE 50歳はどこへ消えたー半径3メートルの幸福論」等多数。

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