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因縁のスペインVSオランダ。創造者シャビと破壊者デ・ヨングのマッチアップに注目!

河治良幸スポーツジャーナリスト

ついに開幕したブラジルW杯。サッカーやフットサルの1オン1を掘り下げる『1on1 Football TV』(http://www.footprom.net/1on1fbtv)では、スペインVSオランダの因縁の対決から「シャビ×デ・ヨング」のマッチアップに注目。藤間洋介(フットプロム代表)、今矢直城(早稲田ユナイテッド監督)、河治良幸の3人で語り合った。(進行・藍沢慶子)

今矢:僕は結構、楽しみにしています。デ・ヨングの1対1での守備能力は世界トップレベル。シャビは1on1に持っていくというよりも、相手DFのプレスの矢印を見ながら逆を取るタイプなので、1対1に持っていかない。そこの駆け引きになるでしょうね。

ただシャビ選手のすごいところは、激しいプレッシャーが来ても、周りを使ったり、アウトサイドターンなどでプレッシャーを回避できる能力を持っているところ。なので問題なのはこの二人の1on1になる前、前線でのプレッシャーが効くかどうか。前線でのプレッシャーが効けば、シャビ選手へのパスがずれたり弱かったり角度がなかったりという可能性が出て来る。そうすればデ・ヨング選手が勝負できる。

この2人の1対1だけではなく、前のプレッシャーがどうなるかでデ・ヨングが奪えるかどうかという結果につながると思います。でも、それを回避できるのがシャビ選手。18歳からバルサでレギュラーとして出ていて、経験値と力、周りを良く見てプレッシャーがかかっているところとかかっていないところを見極めてパスを出せる察知能力はトップクラスですからね。

僕も育成に関わっているので周囲を見ろと子ども達に言いますが、普通はそう簡単に見られないですよ。僕が子ども達の中に入れば見られますが、同じレベルの選手達の中ではなかなか全部は見られない。でもシャビ選は見ることが出来ています。それも余裕を持って。

それだけ状況判断が早い。技術どうこうと言うよりもその“見ている”という事が重要で、デ・ヨング選手にもシャビ選手が周囲を見ているという事は伝わるので、行こうかな、と思った時にワンルック入れられただけでプレスに行きづらくなります。見てなかったらそれも伝わるのでプレスにいき易いんですが、シャビについてはそういうことはまずないです。

でも、スペイン代表はポゼッションサッカーで、なかなか崩せなくなっています。綺麗に崩そうとし過ぎる、という事なんですが、ロッベンやリベリの様な、そこで仕掛けられる選手がいるからこそ、パスサッカーが生きてくるわけで、1対1の仕掛け、強引にシュートに持っていく事が出来るのが優勝するチームなのかなと思うんです。

例えば10点ゴールがあったとしてそのうち何本がきれいに崩せたゴールかと言えば、1本か2本ですよ。あとの8か9は1対1をどこかで仕掛けて、それでどこかが空いたからチャンスが生まれる、と言う形。例えば綺麗なセンタリングでゴールが入ったとしても、その前に誰かが仕掛けて崩したからこそそういうセンタリングを出せるわけです。そこが1対1の一番大事なところです。

最後のボックスの中、1対1で切り崩せる選手、その意味で言うと今のスペインにはなかなかいない。綺麗に崩そうとしてしまうので、本当に強い相手、ブロックをしっかり作る相手に対しては弱いところがあります。僕の中ではイニエスタ選手位しか仕掛けられる選手って思い浮かばないんですよね。

河治:そのためにジエゴ・コスタを呼んだという部分はありますよね。そこでブレイクできる最後のピースとしてデル・ボスケ監督がスペイン代表に呼んだと思います。

オランダもファン・ハール監督なので、バルサで監督を務めていましたし、シャビの特徴も知り尽くしている。普段バルサもスペイン代表もゾーンを崩すことに慣れていて、その間を通していく。プレスには来るけど食いつかせて叩く、ということが出来るチーム。

なのでもしかしたらファン・ハール監督はデ¥ヨング選手をマンツーマン気味でつけるかも知れないと思っています。ボールを受ける前の段階でデ・ヨングがシャビに付くような状況を作ってくるのかなと言う気もしていて。基本的にフォーメーションは鏡になるので、中盤の3人もそこでついてしまえば穴が出来ない。シャビにとっては、仕掛けのスイッチがイニエスタ、支えがブスケツ。

ブスケツとイニエスタを両方マンツーマンでつかれてしまった状態でデ・ヨングにきっちりつかれてしまうと、シャビと言えどもなかなかかわせないんですよ。その2人がマークされている事で、ワンタッチでさばく場所もなくなるんですよ。1タッチでパスが出来るというのは正確なだけではなくて味方がフリーでいる事も前提になってきますから。

オランダは、スペインの長所を消しに来ると思うんですよ。普段、格下の相手と戦っている時は逆ですが、前回の決勝でもそうだったように、スペインに対しては自分たちの良さを出すというよりも相手の良さを消すサッカーにシフトしてくる。ファンハールはパスサッカーの権化みたいな言われ方をしていますが、そういう場合の柔軟性と言うのは特に守備に関しては持っている監督なので。

そこでシャビのところを抑えられて奪われてロッベンを使われるような形になってしまうとスペインはけっこう厳しいのと、あとデヨングは一発目、試合の頭で絶対に削ってくる。悪く言えばダーティーなタックルで。

今矢:そこはあるでしょうね。僕も海外でプレーしていたので分かりますが、海外の監督はチャンスがあれば最初の5分で行けと、もちろんボールに行くんだけど、あわよくば足も行っとけって言いますよ。それで怪我させられれば完璧じゃんって(笑)

それでjob doneだと(笑)

なので、デ・ヨングもチャンスがあれば来ると思いますよ。ただ、それをシャビが分かってないかって言うとそうではないと思いますそ、それを回避できるのがシャビだと思います。

スペインとしても、シャビを経由しないなんてことはあり得ないと思うんですよ。いくら激しくつかれているからと言って、使ってこないってことはあり得ない。そこに自信があるでしょうし、シャビとしてもキーパーを使ってでも繋ぐという気持ちでいると思います。でもどこかのタイミングで前を向く。そのタイミングを常に探っている選手ですね。

河治:シャビ本人はバックステップとか使いながら50センチ、1メートルというスペースを取る事は出来ると思いますが、それに対して受ける選手がどれだけ反応できるかだと思います。

今矢:あとはジエゴ・コスタがいるので、裏に一発で抜け出すパスというのもあると思います。バルサではメッシがいるので足元へのパスになりますが、そういうパスをシャビ選手が出せないかと言うとそうではないので。矢印の逆を取れる選手なので、出せない筈がないんですよね。

河治:あと、シャビはサイドチェンジの大きなボールも出せるところがただのパス出し屋と違うところなんですよね。ジョルディ・アルバを使って大きく展開するって言う事も出来るし、どこかに相手の守備が偏ればどっかが開くので、その逆を使うという事は十分に出来ます。

ジョルディ・アルバやジエゴ・コスタを使って、外したところを真ん中でおいしいところを持っていって決定的な仕事をするという風に出来ればデ・ヨングを攻略できると思います。

今矢:正直、僕の中ではこの2人はクラスが違うかなと言う気はしています。この勝負は普通で行けばシャビが勝つだろうと。なので最初の5分10分での仕掛け、そこでシャビが怪我をしたりメンタルがやられるようなことがあれば違ってくると思うんですが、まぁそんなメンタルやられる様な選手ではないですからね。

藤間:シンプルに密着されてしまったら当然デ・ヨング選手の方が強いので、わかった上での駆け引きになる。シャビは鳥の目を持ったような選手なので、如何に逆を突くかって言う勝負になるでしょうね。

河治:仮にデ・ヨング選手がマンツーマンで来てくれれば、むしろ中盤の底にいる選手を引っ張り出すことが出来るという事。デ・ヨングはジエゴ・コスタをCBと挟み込みたいわけなんですが、シャビに行く分それは出来なくなります。そうすると空いたバイタルエリアのところをジエゴ・コスタが使うとかっていう選択肢も出てきます。

そこを使ってジョルディ・アルバに出す。相手のウイングの選手はそんなについてこられないと思うので、チャンスが生まれる可能性は十分にありますよね。

ただ、ショートカウンターがオランダの強みとしてあるので、奪われ方が重要ですね。ストロートマンが怪我で不参加になってしまったのは痛いですが、スナイデル、ロッベンに一発つけてファンペルシーという形が出てしまったらアウトですからね。スペインは何十回もチャンスを作っても決められないのに2~3回のチャンスでオランダが決めるという事も十分にあり得ますよね。

今矢:マンツーマンで来なければしっかりブロックを作ってアンカーのポジションをデ・ヨングがとると思うんですが、そうなった場合にはこの2人がマッチアップするという機会は減るでしょうね。シャビからのパスに警戒してジエゴ・コスタをどれだけ捕まえられるかという戦い、縦を切ってどれだけパスカットできるかという勝負になってくると思います。

どういう戦い方をしてくるかは分からないですが、どちらにしてもかなり面白い戦いになるのは間違いないでしょうね。さっき河治さんの話にもありましたが、オランダが守りに関しては自分たちの戦い方を捨ててくるわけですから。

藤間:あとはカードですね。デ・ヨングが早い時間帯でカードを貰っちゃったりすると、その後の展開に大きく影響してきますよね。

河治:そうですね。ガツッと行くというのは諸刃の剣で、裏目に出てしまってカードを貰うとその後が厳しくなってしまうので、そこのさじ加減は重要ですよね。ただ、デ・ヨング選手はその辺のスペシャリストですから(笑)

今矢:そこは審判としてもなかなか難しいところなんですよね。開始5分でカードを出してしまうと、試合の中での基準になってしまいますからね。次以降も同様のプレーにはイエローを出さないといけなくなる。そうすると試合が荒れる、とかって審判も考えますから、“まぁまぁ落ち着け落ち着け”って感じでだいたい注意で終わる事が多いんですよ。

藤間:デ・ヨングクラスの選手だったらその位の事も当然考えていますよね(笑)

河治:かつてのシメオネと一緒ですよ。如何に見えないところで削り、イライラさせるかって言うね(笑)

身体も心も壊すっていうのを90分やり続ける訳ですから。

今矢:チームにいたらメチャメチャ頼もしいやつで、相手にいたらメチャメチャ嫌なヤツですよ(笑)

河治:シャビは創る人、デ・ヨングは壊す人。マンガみたいにはっきりとキャラクターが出来ているので、90分をストーリーとして見たら面白いと思いますよ。

まぁもちろん潰されて欲しくないですけど。スペインに勝ってほしいとかって言うわけではないですが、シャビが潰されてしまったら大会そのものの興味も減ってしまいますからね。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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