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大会前の評価・注目度を覆したブラジルW杯「サプライズ・イレブン」

河治良幸スポーツジャーナリスト

ブラジルW杯もいよいよ決勝を迎えるが、すでに大会MVPにあたる「ゴールデンボール賞」の候補10名が発表された。ネイマール、メッシ、ロッベン、ドイツ代表の中心選手たちに加え、大ブレイクを果たしたハメス・ロドリゲスなど、“大会の顔”をほぼ網羅した妥当な人選だ。

だが、W杯は開幕前にさほど評価や注目度の高くなかった選手が大活躍する大会でもある。そこで開幕からブラジルW杯を取材してきた筆者が、独断ではあるが「サプライズ・イレブン」を選んでみた。

GK:ケイロール・ナバス(コスタリカ/レバンテ)

DF:エセキエル・ガライ(アルゼンチン/ゼニト)

DF:ロン・フラール(オランダ/アストン・ヴィラ)

DF:ジャンカルロ・ゴンサレス(コスタリカ/コロンバス・クルー)

MF:ホセ・フアン・バスケス(メキシコ/レオン)

MF:ナビル・ベンタレブ(アルジェリア/トッテナム)

MF:ディルク・カイト(オランダ/フェネルバフチェ)

MF:オジェニ・オナジ(ナイジェリア/ラツィオ)

MF:ジャーメイン・ジョーンズ(アメリカ/ベジクタシュ)

FW:エネル・バレンシア(エクアドル/パチューカ)

FW:デボック・オリジ(ベルギー/リール)

ベテランから若手、国際的に知名度の低かった影の実力者まで、今大会でサプライズをもたらした選手をチョイスした。

ナバスはドイツ代表のノイアー、アルゼンチン代表のロメロとともに「ゴールデングローブ」賞の候補に選ばれているが、開幕前はさして注目度の高い選手ではなかった。しかし、9割を超えるセーブ率とベスト8に躍進したコスタリカの守備を支えた。スペインリーグの熱心なファンなら、メッシとの1対1を止めたバルセロナ戦など、レバンテでの活躍からブレイクを予感していたかもしれない。ただ、コスタリカは“死の組”と呼ばれたグループDの中で著しく評価が低かった。的確なポジショニングから、全身をフル活用したセービングは体格の大きくないGKの模範になりそうだ。

ガライとフラールは国際的に全く無名の選手だったわけではないが、ともに開幕前に不安が指摘されてきたオランダとアルゼンチンの守備に対する評価を一変させた。両国が激突した準決勝は相手の長所を消し合う展開になり、結局PK戦までもつれこんだが、この二人の奮闘を象徴する試合だろう。

ゴンサレスは守護神のナバスとともにコスタリカの堅守を支えたが、リーダーシップと空中戦の強さ、最後まであきらめない闘争心など、センターバックに求められる全てをハイレベルに発揮していた。現在26歳だが、欧州のトップレベルでも十分に活躍できる逸材だ。

中盤はバラエティに溢れる選出となった。バスケスは無名の状態からメキシコ代表のエレーラ監督に大抜擢され、驚異的な運動量とタイトな守備で獅子奮迅の働きを見せた。彼も今や欧州の強豪クラブが触手を伸ばす存在だ。アルジェリアのベンタレブは主力を押しのけてレギュラーに定着。要所を外さないプレスと左足の展開力はアルジェリアのクオリティを攻守に引き上げ、ベスト16入りの立役者となった。

オナジは昨年から若くしてナイジェリア代表のレギュラーに定着しているが、苦い経験となったコンフェデレーションズカップから確かな成長を見せ、ナイジェリアの中盤に高いインテンシティーをもたらした。ラツィオでもすでに主力だが、さらに大きな自信を得て新シーズンの飛躍を目指すはずだ。

33歳のカイトと32歳のジョーンズは底なしのスタミナで攻守に絡み、安定感も抜群だった。カイトの本職はウィングだが、今大会はサイドハーフ、さらに左右のサイドバックを担当。ファン・ハール監督の戦術的な要求に応え続ける姿は熟練したハードワーカーのそれだった。カイトはイングランド、ジョーンズはドイツで一時代を築いた選手で、現在はトルコの名門クラブでプレーするが、まだまだ“終わった選手”でないことを証明した。

カイトを観ていて驚かされたのは、ロッベンやスナイデルがインサイドでボールを持つたびに、必ずと言っていいほど精力的なスプリントを繰り返していたことだ。実際、そこからパスが来る可能性は低いのだが、彼の走りによって少しでもボール保持者や他の受け手のマークをはがすことができれば、局面の打開につながる。彼の地道なハードワークに共感を覚える人は多いのではないだろうか。決して華やかな選手ではないが、オランダ国内にファンが多いというのも今大会の働きを見れば良く分かる。

一方のジョーンズは必要に応じてチームの主役にも脇役にもなれる選手であり、勝利のためには時に泥臭いプレーもいとわない。ある種、”ベンチャー企業の青年社長”的な選手で、試合が終わった後に若い仲間たちをねぎらう姿も印象的だった。

FWからは2人。オリジはサプライズ選出から、頼れるジョーカーとしてグループリーグ突破に貢献し、決勝トーナメントでスタメンに抜擢された。高い機動力と決定力を併せ持ち、周囲との連動意識も高い。個人妓に頼りがちなベルギー代表に高度なコンビネーションをもたらせば、今度はルカクとの併用も可能になるだろう。

エクアドルでバレンシアと言えばマンチェスター・ユナイテッドで活躍するアントニオ・バレンシアが有名だが、今大会の活躍で“もう1人のバレンシア”は一気に国際的な知名度を高めた。縦に抜け出すスピードとセンスは素晴らしく、昨年までエースとしてチームをけん引した故・クリスティアン・ベニテスの後継者となるに相応しいタレントだ。

以上、独断で「サプライズ・イレブン」を選ばせていただいたが、見る人が変われば評価も視点も変わるもの。この記事が議論の1つのきっかけになれば幸いだが、彼らの今度の活躍にも注目していってほしい。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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