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元JFAアカデミー生が語るハリルホジッチ監督通訳・樋渡群のパーソナリティ

河治良幸スポーツジャーナリスト

日本代表のハリルホジッチ新監督は13日に記者会見で「本当に強いスタッフチームをまずは作ろうと思っている」と語った。その最も重要な役割の1つである通訳に選ばれたのは樋渡群(ひわたし・ぐん)氏だ。

■パッションを伝えきる通訳

1978年生で広島県出身の樋渡氏は大学を卒業後にフランスへ渡り、サッカー指導とフランス語を学んだ。パリ・サンジェルマンのU-12で監督を経験した後、2006年からJFAアカデミー福島でクロード・デュソー氏の通訳をつとめ、男子のU-14とU-15、女子チームのU-18を指導した。

現在はFC東京に所属する幸野志有人(こうの・しゅうと)選手の父で、JFAアカデミーの活動をそばから見てきたサッカー・コンサルタントの幸野健一(こうの・けんいち)氏は当時の樋渡通訳について「クロード・デュソーさんはフランス人らしくパッションの指導者で、指導の時も熱いんだけど、その上、言葉の選択にも非常に気を遣ってたんですよ」と振り返る。

「例えば育成年代の試合を『試合』と呼ぶから、勝利と育成のどちらも重要なはずなのに勝利にばっかり傾いてしまう。だから育成年代の試合を試合と呼ばず『強度の高い練習』と呼んでいた。そういう呼び方をすれば、自ずと何が大事かわかるだろう?ということで。実際には通訳の群さんが言うんだけど(笑)。

デュソーさんは試合中のハーフタイムの指示もサッカーを人生に喩えて、すごく長時間にわたり語り出すんですが、その内容が素晴らしかった。しまいには東北の地でそれが有名になって、ハーフタイムのデュソーさんの指示を聞きに、他のチームの指導者がたくさん取り囲むという事態まで発生していたぐらいです。

そうした感情を含めて全てを伝えきることのできたは群さんのおかげなんです。指導者としてもデュソーさんのフィロソフィーを共有し、デュソーさんがいなくても選手に伝えることができたから。そういう意味ではデュソーさんがいなくなった現在でも彼こそが真の後継者でもある」

デュソー氏の言葉をアカデミーの生徒に伝える樋渡通訳(写真・幸野健一)
デュソー氏の言葉をアカデミーの生徒に伝える樋渡通訳(写真・幸野健一)

■環境の変化を気にしないチャレンジャー

JFAアカデミー福島で樋渡通訳が生徒たちにどういう影響を与えていたのか。1期生で卒業後にドイツへ渡り、現在は5部のトゥリュー・デュッセルドルフTURU DUSSELDORFでプレーする野中望(のなか・のぞむ)選手に、当時の樋渡通訳について話を聞いた。

ドイツに渡ってから移籍や怪我など、困難に直面しながら心身ともに成長を続ける野中選手は樋渡通訳を「いつでも頼りになる存在」としたい、厳しい環境の中で目標に向かって進む彼を1つの心の支えにして、ドイツでの挑戦を続けているそうだ。

−−樋渡さんが日本代表の通訳になると聞いて、最初はどう思いましたか?

(野中)驚かないと言ったらウソになりますけど、あまり違和感がないというか、それぐらいのことができる人だと思っていたので、ああやったなと。目標が大きい人だというのも群さんとの話で知っていたので。

−−樋渡さんとの関わりは?

(野中)中学校の3年間は群さんがデュソーさんの通訳だったのでずっと一緒で、高校からは直接サッカーを教えてもらうところからは外れたんですけど、僚などでお世話になっていました。その後、女子チームの方を見る様になって離れましたが、自分がドイツに行ってから女子の遠征で来て、うちに泊まりに来たりもしていました。付き添いがメインですけど、指導の勉強も兼ねていたと思います。

−−デュソーさんの通訳をしている樋渡さんはどんな様子でした?

言葉だけではなくて、デュソーさんの感情が群さんを通じて伝わってきました。デュソーさんも群さんも、本気でやってくれていたので、本気度がトレーニングの中に出ていましたね。僕らがうまくできない時はデュソーさんがちゃんと伝わっているのか群さんに追求するけど、そこで群さんもちゃんと伝えていると言い返す。ただの通訳ではないなというのは子供ながらに感じていました。一緒に作り上げているというか。

−−外国人の指導者というのは日本人より表現をすごく大事にする?

僕も早くからこっちに来て一概に日本人指導者のことは言えないですけど、ドイツでやっていても感情の入れ方とか譲れないところはすごく表現してくる。僕も最初は言葉がよく分からない中で、そういう部分を細かく観察する様にしていたんですけど、アカデミー時代はデュソーさんのそういう部分を群さんが通訳しながら伝えてくれていたと思います。

−−樋渡さんに対する期待は?

期待は本当に大きくあります。大学に出てすぐ海外に来て、たぶんほとんどつてが無い中で勉強し、その後も先が分からない中で自分のやりたいことに向かってきている人なので。色んなチャレンジをして、環境の変化を気にしないスタイルを持っていると思ったので、周囲からのプレッシャーもあると思うんですけど、何とかやっちゃうんじゃないかなと(笑)。

−−選手ではないけれど同じJFAアカデミー出身として誇り?

アカデミーという枠組みでもそうですし、個人としても尊敬しているので、尊敬する人の1人が日本代表という舞台に立って、活躍してくれることは嬉しいです。

−−樋渡さんから学んだことは?

やはりメンタル面のところですね。教わった人の中では俺がこうしたいということを出していいんだよと言ってくれていた人なので。若くから海外の経験があるから、変な枠にとらわれないというか、そういうのがあって僕も目を向けられた。だから外に出る事、先が分からないところに出ることにほとんど抵抗が無かったのは群さんの影響があると思います。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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