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13人の日本人選手がプレー。ブンデスリーガ14−15シーズンを総括する。

河治良幸スポーツジャーナリスト

ブンデスリーガ14−15は34節を終了し、グアルディオラ監督率いるバイエルンが2位ヴォルフスブルクに勝ち点10の差を付け優勝した。

マンチェスター・ユナイテッドから復帰した香川真司を擁するドルトムントは前半戦の不振が響き7位。内田篤人の所属するシャルケは6位でEL圏内を確保したものの、来季のCLを逃す結果となり、ディ・マッテオ監督の辞任が発表された。

日本人選手ではマインツの岡崎慎司が2シーズン連続の二桁となる12得点を記録し、長谷部誠は新天地のフランクフルトで攻守の要として定着した。同じフランクフルトの乾貴士はしばしば輝きを見せたものの、好不調の激しさからか、シーズン通してのレギュラー定着はならなかった。

ケルンで1部初挑戦となった大迫勇也は序盤こそ厳しい環境に苦しんだものの、後半戦は得意のポストプレーが冴え渡り、前線で見事な働き。ストライカーとしては3得点と物足りなかったが、指揮官やチームメートの信頼を得て、来季の爆発への足がかりを掴むシーズンとなった。

14年1月からケルンでプレーする長澤和輝は開幕前の負傷で大きく出遅れたものの、復帰してすぐに持ち前のハードワークと正確なパスを取り戻し、中盤の貴重な仕掛け人として1部残留に貢献した。

ハノーファーではサブからスタートした清武弘嗣がチャンスをものにして攻撃の中心を担ったが、右サイドバックの酒井宏樹は出場機会を含め、パフォーマンスが安定しなかった。

酒井高徳の所属するシュトゥットガルトは何とか残留したものの、監督交代の影響もあり、ラスト9試合で不出場となるなど、高徳にとっては2012年の冬に加入してから最も苦しいシーズンとなった。

また細貝萌と原口元気が所属するヘルタ・ベルリンではルフカイ監督が途中解任され、クラブのレジェンドでもあるダルダイがシーズン後半戦を暫定監督として指揮。細貝が主力から外れ、体調的な問題(左かかとの炎症)もあり欠場が続く一方、原口が新監督のもとで躍動的かつ献身的なプレーを見せた。

全体的にはバイエルンの圧倒的な強さが目立った中で、ヴォルフスブルクやボルシアMGの躍進とクラブの規模からすれば特筆に値するアウクスブルクの健闘なども目を引いた14−15シーズンについて、『日本代表について議論するページ』のインタビューに応える形で総括した。

※順位表、データ付きの記事はこちら『日本代表について議論するページ』

■バイエルン圧勝も上位争いは激しかった。

−−14−15シーズンは昨シーズンに比べ、EL圏内・残留争いがかなりもつれましたね。

バイエルンが優勝決定までは相変わらず飛び抜けていましたが、ドルトムントの躓き、ヴォルフスブルクの躍進といった逆転が起きましたね。

総じてブンデスリーガのレベルが押し上げられていて、タレント力のあるクラブでも戦術的にフィットしないと勝ち点を積み重ねることができないという傾向が出ましたが、バイエルンはケガ人の多発した終盤をのぞけば両面で抜けた存在でした。

−−EL圏の勝ち点が10P以上も下がり、逆に残留ラインは5P以上も上がりましたがチーム力が接戦してる表れでしょうか?

それは間違いないですね。プレミアリーグの様に下位まで潤沢なわけではないですが、選手の補強が非常に的確でチームにマッチしているケースが多いなと思います。

あと組織的なプレッシングからの厚みのある速攻が浸透していて、そうした部分でハイレベルなものを出せれば上位にもある程度まで対抗できるということが証明されたシーズンでもあります。アウクスブルクが典型的ですね。

下部組織の育成がしっかりしているクラブが多く、必ずと言っていいほど主力に生え抜きのドイツ人選手がいるのも他の主要リーグと違う点ですね。

−−W杯年度の影響でドイツ代表を多数抱えるクラブは負傷者の影響も大きかったですね。ドルトムントの前半低迷は特に。バイエルンは負傷者続きながら優勝したのは流石ですが。

バイエルンはトップクラスの選手で2チーム作れますからね。それでも終盤はさすがに厳しかったですが、ドルトムントやシャルケといった本来バイエルンの対抗馬になるべきチームは序盤からけっこう影響が出てしまいました。

ヴォルフスブルクとレバークーゼンも代表クラスの選手は多いですが、若く体力面で不安の無い選手が揃っていたのはアドバンテージですね。

■内田は代表戦の影響が否めず。長谷部と岡崎は復調

−−日本人選手も内田・長澤・細貝が負傷しましたね。特に内田は序盤と終盤に欠場しました。

内田の場合は序盤の欠場も含め、W杯に合わせた影響が無かったとは言えないですね。鹿児島合宿、アメリカ合宿、ブラジルW杯と取材しましたが、急仕上げの中でチーム一番の働きをしました。

左の長友とバランスを取りながらもタイミングの良い攻め上がりなど「さすがだな」と思った反面、不安もありましたね。酒井宏樹と酒井高徳もコンディションが万全でなかったことは非常に痛かったです。高徳は「主力が疲れているのに代われないことがつらいし、悔しかった」と語っていました。

本人たちは話を聞く限り出る気満々だったのですが、宏樹は13−14シーズンの終盤、高徳は鹿児島合宿で足を痛めており、試合感を含め、だましだましの部分はあったと思います。

彼らのどちらかでも状態が良ければ、メンバー固定を好むザッケローニ監督も、さすがにギリシャ戦あたりは内田はベンチに置けたでしょう。選手のケガに関して軽率なことは言えませんが、もし決勝トーナメントに残っていたら、もっと深刻なことになっていたかもしれません。

−−逆に長谷部・岡崎はほぼ全試合でフル出場を果たしました。

長谷部と岡崎はブラジルW杯で決して良いパフォーマンスとは言えなかったので、逆にシーズンで上げてきた感じはありますが、長谷部はドイツに来て最高のパフォーマンスでした。

岡崎も持ち前の貪欲さに巧さが加わって、ストライカーとしてさらに一皮むけた印象です。共通点としては、チームの中で監督に信頼された点も大きいですね。

■原口を覚醒させたダルダイ監督との出会い

−−大迫、長澤、原口が終盤はレギュラーとして出場できるようになったことはどう思われますか?

当初、大迫は周囲との連係、原口は外から言いにくいですが精神面を含めた安定感に課題があり、長澤はケガで出遅れた部分はありますが、それぞれが課題に向き合って克服したのが大きいと思います。才能はある選手たちなので、それをこのレベルでも自信を持って出せる様になったということですね。

特に原口はダルダイ監督との出会いが大きい様ですね。もともと技術は日本人でもトップレベルですが、しっかり守備から入って、そこから鋭く前に出て行くなど機動力が飛躍的に上がりました。また球際でもしつこくなった。個人的には今なら日本代表のハリルホジッチ監督に太鼓判を押せます。

大迫もハリルホジッチに「ケルンでレギュラーを取れ」というシンプルですが重要な課題を提示された様で、しっかり応えました。序盤戦からうまく波に乗れれば、来季は2桁を期待できます。

−−逆に乾、高徳と前半はレギュラーだったものの後半はサブになった選手は心配ですが。

乾の場合は調子の波がどうしても出てしまいますね。別にやる気が無いとかいではないと思いますが、微妙な感覚みたいなものがあるのだと思います。また良い時は起用されるでしょうが、ケガの多いタイプではないですし、良い状態を維持する糸口を掴みたいですね。

高徳の場合はSBに守備的なキャラクターを求める指揮官の犠牲者になった部分はありあすが、クロスの精度など攻撃面で課題があったのも事実です。成績が落ちたのは高徳のせいばかりではないのですが、何かを変えなければいけないというところで、それになってしまいましたね。幸いにも1部残留が決まったので、また心機一転、キャンプからアピールしてほしいです。

■チームの調子に左右された香川の活躍

−−香川と清武の印象はどうでしょう?

香川はブンデス復帰戦でいきなり素晴らしいプレーを見せたので期待しましたが、周囲の良くない流れにも影響されたのか、乗っていけませんでしたね。

彼も乾と一緒で繊細な感覚を持っている選手なので、特にフィニッシュは波が出てしまうのですが、ドルトムントの良さを相手に消された状況で個人がさらされるケースが多かったですね。

チームのリズムが良くなると相乗効果を出せるので、最終節の様になるのですが。求められるところとしては、むしろチームのリズムが悪い時にも引っ張っていく様な存在なのですが、幸いにもポカールの決勝(5月31日)が残っています。

ヴォルフスブルクとの戦いは激しくなりそうですが、そこでクロップ監督に有終の美をプレゼントして、来季につなげてほしいですね。

清武は中盤のリンクマンとしての特性がありますが、その強みをニュルンベルクの時よりも出しながら、ラストパスなど決定的なプレーでも違いを見せられていたと思います。清武の活躍なしに残留は無かったでしょう。

ドイツでの評価は上がったと思うので、ハノーファーでさらに存在感を高めるのか、活躍の場をステップアップさせるのか気になるところです。

−−今年もブンデスは有望な若手選手が活躍しました。特に目を引いた選手は?

レバークーゼンのチャルハノールがさらに存在感を高めた印象ですね。超絶のテクニックはデビュー時から見せていましたが、それを効果的にゴールに結び付けられる様になり、パーソナリティも増しましたね。

ブレーメンのセルケはU-19欧州選手権で得点王を獲得してから注目していましたが、大器の片鱗を見せてくれました。来季は大きなケガやスランプが無ければ大ブレイクが期待でしますし、ドイツのA代表にも名乗りを上げそうです。

−−チェルシーからヴォルフスブルクに加入したデ・ブライネはいかがですか?

昨シーズンはチェルシーで不遇をかこったとはいえ、ブンデスリーガではすでに実績のある選手なので普通に活躍するだろうとは思いましたが、驚かされたのは継続性ですね。

精神的なムラがあることも指摘されていた選手なので、イングランドでの挫折もあり、そうした面で大人になったのでしょう。ドリブルも素晴らしいですが、とにかくキックの質が高いです。抜いて良し、抜き切らなくても良しという仕掛けは相手の脅威です。

DFではアウクスブルクのババの身体能力とバイタリティは印象的でした。近い将来ビッグクラブで活躍する選手になると思います。

あと若手ではないですが、ヴォルフスブルクのドスト、ブレーメンのディ・サントなど中堅で一皮むけた選手が目立ちましたね。

−−最終節で日本人選手所属クラブが全て残留した上に、入れ替え戦には山田大記のカールスルーエが出場します。どのように思われますか?

ポジションはトップ下ですがウィングもできるぐらい幅広く攻撃に絡める選手で、日本人としては体もしっかりしているので、早期にフィットできたと思いますが、何よりドイツで成功したいという意欲を示したのだと思います。

2部とはいえシーズンを通して攻撃の中心でいられることはスキルだけでなくメンタルもタフだったという証明なので、終盤に負ったケガの心配はありますがHSVとのプレーオフで勝ち上がれば楽しみですね。

第1レグは残念ながら欠場しましたが1−1となり、有利な状態でホームの第2レグ(日本時間は6月1日の26時)を迎えられるので、十分に期待できます。

1部昇格となれば来季に向けては、それなりの補強はされるでしょうが、十分に主力としてプレーすることができるでしょう。

■来季はさらなる日本人の活躍が期待される。

−−15−16シーズンのブンデスリーガはいかがでしょう?

本来のバイエルンの対抗馬になるべきドルトムントとシャルケが新監督のもとでスタートします。両クラブともCLに出ない分、予算は多少苦しくなりますが、前半戦はELをうまく乗り切りながらリーグ戦に集中できれば上位を争うことは可能でしょう。

逆にCLを戦いなれているレバークーゼンはともかく、ヴォルフスブルクやボルシアMGはCLとのターンオーバーをこなせるほど選手層を厚くすることは難しいので、どうやりくりしていくかですね。

−−日本人選手の活躍はどうですか?

全員が活躍すればベストですが、昨季を戦いながら大きく成長した感のあるケルンに期待です。長澤と大迫にはシーズンを通して主力を担ってほしいですね。マインツは岡崎の動向が未定ですが、武藤が移籍となれば大きな注目が集まるでしょうね。

また香川が若き智将として評価されるトゥヘルのもとで攻撃の中心となれるか。昨季トップデビューを果たした丸岡満もレンタル期間を延長する見込みなので、ハードワークできるテクニシャンとしてアピールしてほしい。厳しい戦いが予想されるリオ五輪の最終予選で秘密兵器になってくれたら嬉しいですね。

あとはカールスルーエの山田が加わっていたら楽しみが増えます。リーグ全体もそうですし、日本人選手や期待の若手、新監督の采配など、色んな見方で楽しんでほしいですね。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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