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【日本代表特別レポート】海外組スペシャルトレーニングの中に見えるハリルホジッチの流儀

河治良幸スポーツジャーナリスト

全体合宿にさきがけスタートした海外組の特別合宿も4日目に入った。

6月4日の午前練習では前日合流の長友佑都と岡崎慎司がハートレートを使ったランニングメニューを消化し、初日からのメンバーは前半がフィジカル、後半はボールを使ったメニューで汗を流した。

「ハリルホジッチ式スペシャルトレーニング」の参加者は長谷部誠、吉田麻也、川島永嗣、大迫勇也、清武弘嗣、酒井宏樹、酒井高徳、原口元気の8人。ワンツー練習のあとに次の2つのメニューが行われた。

【1】ボランチ的なパスの出し手、守備側にGKを付けたゴール前の3対3

【2】サイドから縦に抉ってのクロス、守備側にGKを付けたゴール前の3対3

【1】はボランチを最初に長谷部、次に清武がつとめ、攻撃側の3人は大迫、原口、長谷部か清武、守備側は宏樹、高徳、吉田で3人をマンマークした。

3人が右、中央、左に並んだ状態から、ペナルティエリア手前のボランチが攻撃側の1人にクサビを入れ、その間に残る2人がマークを外してパスを受けてシュートを狙うのが基本型なのだが、ボランチに一度戻してもいい。

守備に応じて左足を使うのか右足を使うのか、どういう体の向きで受けるかというディテールにまでこだわり、ハリルホジッチ監督からも細かい指示が飛んでいた。

【2】の前半は右から宏樹のクロス、後半は左から高徳の順番で行い、ハリルホジッチ監督が縦に蹴ったボールに追い付き、なるべくノートラップでゴール前に上げる。

ゴール前の3対3は攻撃側が大迫、清武、原口で守備側が吉田、長谷部、高徳か宏樹で、その順番通りにマークしていた。クロスは状況を見ながらハイボールでもローボールでも、ニア狙いでもファー狙いでもいい。

攻撃側はクロスのタイミングに合わせ、なるべくマークが混乱する様にポジションを交差させながら動き、守備側がしっかり付いて対応するという攻防は見応えがあった。

一番鮮やかだったのはハリルホジッチ監督の縦パスに走り込んだ高徳がファーにクロスを上げると、一瞬マークをワイドに外した清武がファーで合わせ、川島からゴールを破ったシーンだ。

セットプレーではキッカーをつとめるか、カバーリングに回ることが多い清武だが、流れの中でゴール前に走り込んで合わせる形はブンデスリーガでも再三披露しており、1つの武器になってきそうだ。

またグラウンダークロスのリバウンドを大迫が強引に押し込むなど、様々なパターンからゴールを狙う攻撃陣に対し、マークする側はさらに厳しく対応する必要性を感じさせる内容だった。

【1】と【2】に共通していたのは守備側がボールを奪ったところで攻守が切り替わり、カウンターになるというシチュエーションを想定していたことだ。

例えば川島がボールをキャッチしたら、守備側はすぐ攻撃に転じ、パスの受け手として背後のスペース目掛け動き出す。川島はそこにスローで素早く出してもいいし、難しければさらに前方に立つボヌベイコーチにフィードしてもいい。

マーカーがボールを奪った時も同様だが、奪った方は素早く有効なカウンターを仕掛け、奪われた側はすぐ切り替えてプレッシャーをかけるというシチュエーションが繰り返される。それにより淀みない流れの中で集中力と切り替えの意識を高め、共有することができるのだ。

こうしたスペシャルトレーニング的なメニューは今後もバリエーションが増えていくはずだが、常に攻守の切り替わりを意識した要素を入れることで、特定のシチュエーションを訓練しながら、同時に試合に準じた感覚を養うことができる。

ザッケローニ監督やアギーレ監督の指導でもミニゲームの中でそうした要素は入っていたが、ここまで攻守の切り替えにこだわった指導はなかなかお目にかかれない。

金曜日には本田圭佑と香川真司が加わり、週明けにはいよいよ国内組が合流しての全体練習に移行してイラク戦に備えることになるが、今後の強化にさらなる期待を抱かせる午前練習だった。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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