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オーストラリア戦で岩渕真奈の決勝ゴールを生んだ、なでしこ流セットプレー

河治良幸スポーツジャーナリスト

女子W杯の準々決勝オーストラリア×日本は左のCKから86分に混戦のこぼれ球を岩渕真奈が押し込んだゴールを守り切り、なでしこジャパンが準決勝への進出を決めました。

苦しい試合展開の中で、流れの中からも何度かチャンスがありましたが、チームを勝利に導いたのは戦略的なセットプレーからのゴール。自分たちの特徴をうまく活かした形です。

セットプレーにおいて、日本は今回のオーストラリアや欧米の相手に対して高さで不利ですが、キックの正確性と受け手の機敏性で相手のディフェンスを上回ることは可能です。

相手は基本的にマンツーマンを付けてきますが、日本はターゲットになる大儀見優季、熊谷紗希、阪口夢穂、岩清水梓の4人が中央に集まり、そこから宮間が蹴り出す瞬間にタイミング良くニア、センター、ファーへ散ることで、スペースに入り込みながら合わせる様な形ができやすくなります。

オーストラリアは終盤ということもあり、GK以外に9人の選手を割いており、日本の大儀見、熊谷、阪口、岩清水に対する4人のマーカー、あらかじめショートコーナーも受けられるニアにポジションを取る岩渕のマークに加え、左右のポスト脇とGKの手前、さらに混戦の手前にあたるペナルティスポット付近にゾーンを作る万全の体勢でした。

しかも中央の3人に対してCFのサイモン、CBのケネディとアレウェイの3人が見てはいましたが、あらかじめタイトには付かず、日本の動きに応じて3人がそれぞれ柔軟にマークを付けられる様にしていました。

日本はターゲットの4人が”なでしこトレイン”とも呼ぶべき縦一列に並ぶのがメインの形ですが、この場面では大儀見、熊谷、阪口が中央に固まり、岩清水がややファーに構えた状態でFWのカーを引き付けていました。

そして宮間が蹴る直前に大儀見がニアに走り出してアレウェイをつり出し、その背後に熊谷が入ってボールを合わせに行きます。いわゆる“ニアの裏”というポイントを狙ったわけですが、とっさに付いてきたサイモンと競り合いになり、ほぼイーブンの形ながらサイモンが頭に当て、熊谷に当たったボールが手前にこぼれました。

そこでペナルティスポット付近にいたヘイマンにクリアされたら日本の攻撃は終わるところでしたが、さらに手前からダッシュしてきた宇津木瑠美が体を入れて先に触り、ダイレクトで前方のファーサイドに折り返しました。

そこでフリーになっていた岩清水がシュートに行くわけですが、オーストラリアにとって1つミスになったのは岩清水を見ていたカーがマークを外して前に出ようとしてしまったことです。おそらくヘイマンがクリアできると判断したのでしょうが、本質的にFWの選手なので、守備から攻撃に切り替わってしまったのかもしれませんね。いずれにしても、これがオーストラリアにとって不幸な結果につながりました。

岩清水がシュート体勢に入ったところでファーポスト脇にいたケロンドナイトとGKのウィリアムズがブロックに来たため、一度は阻まれてしまいましたが、その跳ね返りを岩清水が粘り強く右足で中に入れ、それをニアからゴール前に入り込んでいた岩渕が押し込みました。

ここでもオーストラリアはニアポスト脇に構えていたエドモンドがボールの動きに合わせて前に出て、岩渕がフリーでゴール前に入り込める状況を作る状況を作ってしまっていましたが、岩渕の入り方を褒めるべきでしょう。

日本の特徴を活かした形に加え、隙を逃さない集中力と全体でゴールを奪う気持ちが決勝点につながったのではないでしょうか。こうした日本のスタイルは今後の対戦相手も認識しているでしょうし、オーストラリア相手に得点したことでさらに警戒されるかもしれませんが、動きのアレンジにタイミングと精度、集中力が加われば、高さに勝る相手からでも再びゴールを狙えるはず。

流れの中からも貪欲にゴールを狙っていってほしいですが、ゴール全体の33%を占めるとも言われるセットプレーが命運を分ける可能性は少なくないでしょう。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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