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「戦力外」からスタメン復帰に行きついた長友佑都の継続力

河治良幸スポーツジャーナリスト

インテル・ミラノの長友佑都は10月24日のパレルモ戦で今季の初先発するとボローニャ戦を挟んで10月31日のローマ戦は4バックの左サイドバック、トリノ戦で3−5−2の左ウィングバックで先発フル出場を果たし、チームの連勝に貢献。FKからコンドグビアによる先制点を呼び込むと、終盤には途中交替のイカルディに代わりキャプテンマークを巻いた。

夏の時点でこの姿を待望はしても確信できるファンはそう多くなかったかもしれない。開幕後も移籍マーケットが閉じるギリギリまで放出が噂され、残留が決まってからは全く出番が無い状態が続いていたのだ。そこから不断の努力で指揮官の信頼を勝ち取るにいたった。

しかも今回は同ポジションのライバルがケガしたわけでも、対戦相手の特別な対策にかり出されたわけでもない様だ(3バックの採用を想定した決断はあるかもしれないが)。トレーニングでのパフォーマンスがしっかり評価されてのものだろう。そもそも昨季途中にマンチーニ監督が就任して、そこから間もないプレシーズンの段階では長友の動きも精彩を欠き、失点につながる致命的なミスもしていた。

その意味では本来の実力を発揮できる状態に戻ったに過ぎないのかもしれないが、一時は長友自身も「(移籍が)どうなるかは神のみぞ知る」と語っていたところからの巻き返しは大きなトピックだ。ただ、移籍話が取りざたされた時期も彼が強調していたのは「自分が今やるべきことに集中している」ということだった。

イタリア在住ではない筆者が長友を直接取材するのは主に日本代表の合宿だが、中国の武漢で行われた東アジアカップの前に深セン、上海、広州の3都市に立ち寄り、レアル・マドリー、ミラン、インテルが参加したICC(インターナショナル・チャンピオンズ・カップ)中国ラウンドを取材する機会を得た。

7月26日のミラノ・ダービーで、長友は左サイドバックで先発、後半途中までプレーしたが、メンバー構成を見ると後半の選手たちの方が本来の主力であることは明らかだった。だが試合後に話を聞くと、長友は実にすがすがしい表情でこう語った。

「チームのために戦っているという犠牲心だったり、そういったものは(マンチーニ)監督の心にも届くかなと思っていて、僕が逆の立場で監督をしてたら、そういう選手をやっぱり使いたいなと思う。そういうプレーができていると自分のパフォーマンスもいいということなので。(チームのための献身と自分のパフォーマンス)そこはイコールなんじゃないかなと思います」

この言葉を聞いて筆者なりに確信したことがある。マンチーニ監督が実際に長友をどう評価し、戦力としていつ、どう起用するかは分からないが、長友は心折れることなく日頃のトレーニングから走り続けるということだ。目標は大事だ。しかし、選手にとってそのためのプロセスが活動の証でもある。

ブラジルW杯で彼が大きな挫折を味わったことは事実だ。アジアカップの準々決勝を前に、W杯で見つかった課題を消化できたかを質問されて言葉に詰まってしまったことで、後日その件に関して聞かれたのを何度も目撃したが、長友は「やるべきことがありすぎて、あの場ですぐに答えられなかった」と語っている。

現在もその答えを完全に得てはいないかもしれない。ただ、ブラジルW杯後の長友が意識しているのはチームのためにどれだけ献身できるかを突き詰めていくこと。継続的に努力することは変わらないが、チームに貢献することが自分のパフォーマンスとイコールであるという考えは大会前に彼の口からあまり聞かれなかったことだ。

2018年のロシアW杯が行われる時、長友は31歳になっている。実はハリルホジッチ監督がブラジルW杯で率いたアルジェリア代表の最高齢者が31歳だった。常に全力疾走するタイプだけに、その時の彼がどういう状態になっているか、代表チームに残っているかも分からない。ただ、しっかりと前を見据えて走り続ける先にこそ道は続いている。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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