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番狂わせを起こしたい。クラブW杯4強を決めたサンフレッチェ広島のエース佐藤寿人が準決勝にかける思い。

河治良幸スポーツジャーナリスト

アフリカ王者マゼンベを3−0で撃破し、クラブW杯で悲願だった準決勝への進出を決めたサンフレッチェ広島。12月10日の開幕戦は出番が無くチームの勝利をベンチで見届けた佐藤寿人だが、3日後のマゼンベ戦ではスタメンに復帰。決定的なシュートを外したものの、浅野拓磨との交代まで前線で攻撃を引っ張った。

同じアフリカ勢に準々決勝で敗れ4強の道を閉ざされた3年前のリベンジを果たした広島は、12月16日に南米王者のリーベルプレートと対戦するが、エースの準決勝にかける思いを聞いた。

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■苦しい時間を耐え、広島らしさを発揮したマゼンベ戦

ーー前半は苦しい時間もありましたが、しっかり耐えながらうまく得点につなげたことで流れが向いた?

佐藤:そうですね、最初は押し込まれましたけど、まあでも途中から慣れてきたというか。自分たちがボールを動かしたら逆に・・・相手は自分たちのサッカーをぜんぜん研究していなかった様で、ボールを動かしたらどんどんズレていく形だったので、時間が経つに連れ「ああ、やれるな」と思っていきました。

ーー寿人選手はトルコの遠征や個人としても色々な国際試合を経験して、リズムが違う相手や身体能力の高い相手でも、やっているうちに慣れるというのは分かっていたと思うんですが、それをチームとして共有するために心がけは?

佐藤:入りは押し込まれていましたが、やっぱり先に点を取られると難しくなると思って、とにかく我慢しないといけないところは我慢しようと。守備に回る時でも、今年のチームはネガティブに守備をしている感覚ではなくて、守備をする時間は守備をする時間で必要だから、それをしっかりやって、その後の攻撃にというメリハリができているので。

ちょっと押し込まれているという感覚はみんなにあって、ただ攻撃でボールを動かしている間にちょっとずつ相手のマークが外れて来るなという感覚をみんなで共有できていた。ボールポゼッションのところで前半はミスもあったと思うんですけど、そんなに相手が(守備で)はめてきた感覚は無かったので、時間が経てば経つほど相手がルーズになってきたというか、守備の規律が無くなってきたというのが相手にありました。

前半の押し込まれた時には真ん中を割られてシュートを打たれたシーンがいくつかあったんですけど、そこをやられていたらまた結果も変わっていたと思うので、しっかり耐えられたというのが一番の勝因かなと思います。

ーー前半はCKを7本、8本とマゼンベが打ってきて、広島としては最初のCKが得点につなりましたが?

佐藤:前半はけっこうCKが多くて、FKも多くて、セットプレーは嫌だなと思っていました。高さも感じましたし、やっぱり個のフィジカル能力は未知数だったので、ちょっと読めないなと。この選手はこれぐらいやるっていうイメージがあれば対応しやすいと思うんですけど、ぜんぜん分からなかったので。そういう意味ではそこをしのげたのは大きかったですね。

ーー個のところで言うと向うはアフリカの各国代表クラスがいて、ドウグラス選手がバランスを崩す場面や柏選手の仕掛けが止められる場面もあったりと苦しい部分もある中で、チームとしてうまく上回っていくイメージも試合の中でできていた?

佐藤:個の部分で、1対1の局面でもちろん上回れる部分も考えないといけないですし・・・フィジカルで上回るというよりもコーディネーションやテクニックで十分に上回れるんじゃないかという部分もありました。予想外だったのはイメージ以上に相手がボールを動かしてきたことですね。

もっとイージーに放り込んでくるんじゃないかという風にスカウティングでもありましたし、プレッシャーをちょっと前までかけてみて、そこで蹴られるかなと思ったら意外につないできた。そこはみんなの中でも予想外だったんですけど、つなぐパスもうまくて、1対1の守備の時にまずドリブルをして、ポジションのズレを作ろうとやってきた。

そこでこっちの1人だけが1対1で出ちゃうとズレが出てくるので、うまくカバーに入ったりという形で、なるべく人数をかけて守ろうと割り切れたところはあった。みんな守備で体を張ってできたと思いますし、そこでボールを奪ってから自分たちの形でつなげていくというイメージですね。

ただ前半はマイボールにした時に、相手にボールを渡してしまったシーンがいくつかあった。ああいうところでボールを保持しないと、相手にずっと持たれてしまうので。前半は相手にポゼッションをやられすぎたなと。もっと自分たちがボールを保持して、動かして。後半はそれがうまくできましたが、それを前半のうちに10分、15分で相手に慣れてきた後も、その質は高めなければいけなかったかなと思います。

ーーCKの得点シーンは佐々木選手がニアに入って潰れて、塩谷選手が押し込むという形でした。決めた選手も素晴らしいですが、その前のところで勇気を持ってニアに飛び込むというのは、練習から意識してやっていたことでしょうか?

佐藤:試合前の話であったのは滞空時間のあるボールを蹴っても、たぶん跳ね返されるから、ある程度スピードのあるボールを入れていこうと。セットプレーの時にそういったイメージを持ってやろうという形だったので、そうしたイメージをキッカーの茶島もそうですし、前に入っていった(佐々木)翔もそのイメージを持って入ってくれたと思う。できれば自分が詰めたかったんですけど(笑)。

ただ、僕のマークに付いていたのがキャプテンの2番のでっかい奴で、こいつが本当に俺のマークに付くのかなという。もう少し小さい選手が僕に付いてくれば良かったんですけどね。

ーー相手は違いますが、準々決勝で敗れた3年前の思いは強かったのではないですか?

佐藤:やっぱりこの大会に出て、アフリカ王者の前で敗れてしまって、その先に行けなかった悔しさはあったので。前回は本当にこの大会を勝ちにいくというイメージは正直そんなに持てなくて、やっぱりリーグ初優勝して喜んだ後に、ご褒美をもらってこの大会に出させてもらった感覚が強かったんですよね。

ただ、実際に出てみて、やっぱり勝ち抜かなきゃ意味が無いなというか、出るだけじゃ、ちょっと勝つだけじゃ足りないなと。今回はアフリカ王者を倒して南米王者、その先のバルサとか、そことやる姿を自分たちも感じたいですし、やっぱり日本のサッカーファンにも見せたいなという。もしかしたらボコボコにやられるかもしれないですけど(笑)、そういうのを見せたい、自分たちもやりたいという思いがありますし、1つ勝ったことでそこの権利をまた1つ得ることができた。

南米王者も本当に歴史のある素晴らしいクラブが相手ですし、何より自分たちの代のスーパースターのサビオラがいます。本当にユース代表の時とかはワールドユースのアルゼンチン大会で、その時にずば抜けていたので、そういった意味でもすごく楽しみです。

ーー最初の決定的なシュートチャンスで外してしまったが、前の大会のシーンがよぎってしまったりは?

佐藤:ああ、あの右足の?そういうのは無いですけど、たぶんシュートを打つ瞬間にボールが跳ねたんじゃないかなという。自分のイメージは普通にゴロのパスのまま、逆サイドにキーパーが倒れた上を抜こうかなと思って、でも打った瞬間にはもうバーのはるか上を越えていたので、たぶんシュートを打った時にはもうボールが跳ねてたんじゃないかな。映像を見ていないので何とも言えないですけど。

ーーでも、その後の切り替えができていた?

佐藤:そうですね。ただ、あれを・・・まあ難しいところですけど、できれば決めておきたかったなと思います。ボールが跳ねたとしても、もう少し違うアイディアを持てていたら面白かったかなと思います。

■狙うはジャイアントキリング。いつもと違う立場で挑むリーベル戦

ーー今回のマゼンベも身体能力など手強い部分はありましたが、勝負強さとなると南米の海千山千を勝ち抜いてきたリーベルというのは、サンフレッチェがチームとしての勝負強さを試せる試金石になると思います。

佐藤:今日すごく感じたのは、マゼンベは僕らのことを何もスカウティングしてなかったんじゃないのかなと。こんなに相手の守備がはまらずしてボールを動かすなんて久しぶりで、普段のJリーグの方が研究されていますし、自分たちのストロングを出させないという形のゲームが多い中で、今日は相手がうちの1トップ・2シャドーに対してあんまり効果的な対策を持ってきてなかったと思う。でもリーベルは今日も、その前の試合も(ガジャルド)監督は観られたと思いますし、そういう部分では戦術的な対応とか、ある程度は取ってくると思う。

それを上回るものを自分たちが出していかないといけけない難しさはありますし、普通に力で押し切れるものも相手は持っていると思う。今日は正直、相手の前線がもっと怖かったら、たぶん1点、2点やられてもおかしくなかった場面もあったと思いますけど、そこは前回のアル・アハリの時の様な個の怖さは前線には感じなかった。でも間違いなくリーベルはそういう力を持った選手がいますし、その隙を相手に与えないことと、隙を逃さず突いていくというのはカギになってくるかなと思います。

ーー準決勝にもなると、世界の注目度が一気に増すというか、寿人選手としても代表を含めて惜しいところで大舞台を逃したりしていて、これまでのキャリアでも世界で一番注目される試合になるかもしれないですよね?

佐藤:そうですね、そういった部分では自分もそうですし、チームとしてもやっぱり準決勝の舞台に進めたというのは非常に大きな意味を持つと思うんですけど、そこでプレーする、試合をする、それだけじゃ意味が無いと思いますし、その中で結果を出していかないといけないと思う。準決勝もしっかりとしたゲームをしたい。もちろん普通に考えたら、力で言えば相手の方が上かもしれないけど、サッカーにおいてはそういう相手でも結果を、相手を上回るというのは十分に可能だと思うので。

限られた時間の中でしっかり準備をして。まあ、普段Jの舞台ではジャイアントキリングという感じにはならないですけど、この舞台は間違いなくジャイアントキリングだと思うので、そういうものをクラブW杯で出して。ここまで来たら決勝に行きたいですし、バルサとやりたいなと。その前に大きな大きな相手がいますし、今年1回日本に来て、その時にガンバがけっこうやられていた。

コンディションが万全ではなかったリーベルがあれだけのゲームをしたっていうところで非常に力があると思う。でもサッカーは何が起こるか分からない。10回やって何回か、もしかしたら勝てるかもしれないですし、その何回かというものを次の準決勝で出さなきゃいけないかなと思います。

ーー今日は広島のサポーターも多く詰めかけましたが、リーベルのサポーターは2万人押し寄せるという話もあります。開催国だけどちょっとアウェーみたいな雰囲気になるかもしれません。

佐藤:本当ですか(笑)。いやあアウェーだったら、めちゃくちゃ面白いじゃないですか。そんなことはなかなか無いですし、今日も本当に面白かったので。まあ削られましたし、こんなに削られることもそうそう無いというか。Jリーグだったらある程度止まってくれるところも関係なく突っ込んでくるので。

いやもう、こういうワクワクするのは、もちろん普段のJリーグもワクワクしますけど、普段感じる部分とは違ったワクワク感なので。何より自分たちより格上っていう風に普通に思える。そういう相手とやれて、それを何とか倒す。それを考えられることはやっぱり楽しいですし、もちろんアウェー(の雰囲気)であれば、それを楽しむだけなので。それをひっくり返すぐらいの結果を出したいと思います。

ーー広島からなかなか会場に足を運ぶことは難しくても、テレビの視聴率がすごい上がっているというのは、チャンピオンシップもそうでしたけど、感じるものが?

佐藤:そうですね、スタジアムに来られない方はテレビを通して、この大会も生でやってくれていますし、そういう意味では色んな形で観てもらえるチャンスだと思う。そういう部分で、もちろんスタジアムに来てもらいたい思いもありますけど、テレビでも観てほしいですし、サンフレッチェのファンやサポーターだけではなくて、普段Jリーグを観てない人たちもこの大会を観てくれると思います。

そこで「お、いいサッカーするな」とか「意外とやるな」と思ってもらえる様に、また「Jリーグ観てみようかな」という風に思ってもらえる様な結果であり、そういった試合をしないといけない。今日はピッチで戦う姿を見せることができたと思うので、引き続きそういったものを見せて、結果を出して“番狂わせ”を起こしたいなと思います。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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