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“真剣勝負”での貴重なテスト。手倉森ジャパンのサウジアラビア戦での選手起用を展望する。

河治良幸スポーツジャーナリスト
Uー23日本代表の手倉森誠監督はサウジアラビア戦でも大幅なメンバー変更を示唆(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

カタールで行われているサッカー男子のリオ五輪予選で北朝鮮に1−0、タイに4−0と連勝したUー23日本代表はサウジアラビアとの3試合目を待たずにグループBの1位通過を決めた。すでに3試合を終えたグループAは開催国のカタールが首位、イランが2位に。準々決勝の相手はイランに決まった。サウジアラビア戦は”消化試合”という見方もされるが、この世代にとって“鬼門”となってきた準々決勝を良い状態で迎えるためにも、大会の中で得られたテストの機会を無駄にすることはできない。

とはいえ2試合で1位通過が決まったため、3試合目で無理に“ベストメンバー”を組む必要が無くなった。2試合でフィールドの17人を起用した事実が示す通り、手倉森監督は準々決勝、準決勝にピークを持っていくため、先発を固定せずに戦うことを決めていた様だが、よりコンディションやテストを加味した布陣で臨むことができる。

まだ出場していない選手は井手口陽介、三竿建斗、松原健の3人。そのうち井手口と三竿はボランチ、松原は右サイドバックで想定される。ボランチの選手は基本的にボールを捌く技術の高い選手を揃えているが、その中で井手口は運動量と高い位置でのボール奪取力、CB経験もある三竿は高さと競り合いの強さを特徴としている。共に実戦を経験させられれば理想的だが、サウジアラビアにはモハメド・カンノというトップ下の長身選手がおり、2試合フル出場している遠藤航の代わりとして三竿を起用するには持ってこいの相手だ。本来の主力でありながら、初戦でやや精彩を欠いた大島僚太もここで再アピールしたいところだろうが、彼はすでに警告を1枚もらっているため、そのリスクを指揮官がどう判断するかで変わって来る。

その遠藤は準々決勝に備えて完全休養となる可能性もあるが、オプションであるCBで起用される可能性もある。北朝鮮戦では岩波拓也と植田直通が力強く相手の攻撃を跳ね返し、タイ戦は岩波と奈良竜樹のコンビで序盤こそ危険な場面を迎えたが、後半はかなり安定したパフォーマンスを見せた。そのことから、無理に遠藤を後ろで使う必要は薄れたかもしれないが、岩波もここまでフル出場していることから、手倉森監督がどういう選択をするか注目される。ただし、1トップのアルサイアリは身体能力が非常に高く、ほとんどの攻撃で起点になることを考えると、2試合目を休んだ植田はファーストチョイスになるだろう。

右サイドバックは松原が今大会で初登場となる可能性が高い。ここまで2試合に出場した室屋成はタイ戦でイエロカードをもらい、また味方との接触で足を痛めていることから、ここは大事を取るはず。A代表の経験者でもある松原はアップダウンのスピードがあり、右足のクロスは抜群の精度を誇る。サイドバックは試合中に交代しにくいポジションだが、攻撃力を高めるオプションとしては非常に有効だ。大きな怪我でJリーグの後半戦を棒に振ったこともあり、守備にはやや課題を残すが、サウジアラビアの左ウィングを担う10番のアルムワラドを抑えることができれば、今後に向けてかなりのアピールになる。

松原が主力として攻守に計算できれば、左右のサイドバックをこなせる室屋を左サイドに回すプランも浮上する。北朝鮮戦でCKからゴールをアシストし、タイミングの良い攻撃参加を見せたレフティーの山中亮輔も守備に不安があり、タイ戦に先発した亀川諒史は大舞台の緊張もあってか、ビルドアップでミスが目立ったことに加え、持ち前の粘り強い守備も十分に発揮できなかった。短期決戦を考えれば、室屋を左で起用した方が4バックが安定するかもしれない。もっとも、サウジアラビア戦で山中か亀川が攻守に高いパフォーマンスを披露できれば、そのままファーストチョイスとしてのアピールにつながる。

攻撃陣は全ての選手がスタメンか途中交代で出場しているが、エースとして期待されながら、ここまで得点を取れていない南野拓実の起用法は最大の注目点だ。先発した北朝鮮戦、途中出場のタイ戦ともに右サイドハーフで起用されたが、フィニッシュで能力を発揮させる意味でも2トップに上げる可能性もある。右サイドハーフは矢島慎也がチャンスメーカーとして重要な存在となっている。その矢島は2試合ともフル出場はしておらず、比較的フレッシュな状態にある。そのため矢島を右サイドハーフ、南野を前線という配置で併用するのは理にかなっている。

もっとも2トップは久保裕也が2得点、鈴木武蔵が1得点と結果を残しており、タイ戦で先発した浅野拓磨も得点こそ無かったものの、精力的なチェイシングと鋭い飛び出し、2列目に引いてのポストワークなど、動きの良さは目立っていた。オナイウ阿道も粗削りではあるが高い身体能力を活かした起点のプレーは途中で流れを変えるオプションとしての有効性を示した。

2トップの候補4人に起用の目処が立っていることから、必ずしも南野をここでテストする必要は無いのだが、本来のエースに自信を付けさせる意味でも手倉森監督があえて起用するかもしれない。あるいはオプションのシステムである4−3−3か4−2−3−1をスタートから用いるなら、南野をサイドに配置したままよりゴール前に顔を出しやすくなる。

サウジアラビア戦で大事なのはコンディション的にも戦術的にも、良い形で準々決勝につなげることだが、その意味でも3連勝でチームの勢いをさらに乗せていきたい。グループリーグ突破をかけるサウジアラビアにとっては残酷な結果になるかもしれないが、どういうメンバーで臨むにせよ、真剣な相手に真剣に向き合うことで得られるものは大きい。それこそ単なる練習試合とは異なる点であり、この貴重な機会を最大限に活かしていくべきだ。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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