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ボスニア・ヘルツェゴビナ、デンマーク、ブルガリア。キリンカップで来日する欧州3カ国の実力とは?

河治良幸スポーツジャーナリスト
(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

今年6月に行われるキリンカップの参加国が決まりました。ボスニア・ヘルツェゴビナ、デンマーク、ブルガリアと開催国の日本。6月3日に豊田スタジアムで準決勝、7日に市立吹田サッカースタジアムで3位決定戦と決勝が行われます。組み合わせは未決定ですが、単発の親善試合より真剣勝負に近いシチュエーションでの強化になることは確かでしょう。

FIFAランキングは日本の53位に対しボスニア・ヘルツェゴビナが22位、デンマークが42位、ブルガリアは72位。3カ国ともEURO2016の予選に惜しくも敗退しましたが、欧州の中でも強豪国として定着しています。日本よりランキングの落ちるブルガリアも豊田スタジアムで行われた2013年5月の親善試合で0−2と敗れており、“格下”とは言えません。

3カ国ともロシアW杯予選に向けてチーム作りを再開しており、どういう方針で来日メンバーを決めるのかは不明ですが、現状のチームのプロフィールをまとめました。

◆ボスニア・ヘルツェゴビナ◆

ハリルホジッチ監督の母国であるボスニア・ヘルツェゴビナは20世紀末の紛争を経て1996年にFIFAとUEFAに加盟。2014年に単独国として悲願のW杯初出場を決め、EURO予選ではグループBでベルギー、ウェールズに次ぐ3位となりプレーオフに回ったが、アイルランドと接戦の末にホーム&アウェーの合計1−3で本大会の出場は果たせなかった。

しかし、同国協会はバズダレヴィッチ監督の契約を延長。主将にしてエースのFWジェコを中心に組織的なカウンターを掲げながら、いかに若い新戦力を取り込んでいくかが強化のカギになる。EURO予選では4−2−3−1がメインだったが、4−4−2と4−3−3も併用しており、対戦相手や起用する選手の構成で柔軟に変動しそうだ。

【エース】エディン・ジェコ(ローマ)

“ボスニアン・タワー”の異名を持つ193cmの長身ストライカーで、CBの主力であるスパヒッチは従姉妹。サイドからのハイクロスを豪快に叩き込むヘディングシュートが最大の武器で、縦パスを足下で受けて反転しながらのミドルシュートも高い得点力を発揮する。基本は1トップだが、同等の体格を誇るイビシェビッチとの“ツイン・タワー”は脅威。

【キーマン】ミラレム・ピアニッチ(ローマ)

攻撃的MFとしては大柄な体躯の持ち主だが、柔らかいボールタッチで相手の守備を翻弄する。高精度の右足は絶妙なスルーパスを生み、セットプレーのキッカーとしても危険な存在。同じローマに所属するジェコとのホットラインは強力だが、守備が緩んでしまう時間があり、メドゥニャニンやベシッチなど周囲のカバーリングに助けられることが多い。

【ヤングスター】セアド・コラシナツ(シャルケ)

左サイドから重戦車のごとく縦に突破したかと思えば、粘り強いマンツーマンで相手のサイド攻撃を封じる。ビルドアップにも定評があり、ボランチやCBもこなすバランス感覚の持ち主だが、若くして”ケガがち”なのが玉にきず。クラブの同僚である内田篤人とは同サイドで相対するため、そのマッチアップが注目される。

◆ブルガリア◆

EURO予選ではグループHの本命だったイタリアとホームで引き分けるなど、1つ1つの試合では奮闘が目立ったものの、終盤戦の連敗が響き4位に終わった。ボスニア・ヘルツェゴビナとデンマークに比べれば個々のタレント力が落ちるが、チームの伝統でもある結束した守備とサイドアタックは欧州でも目を見張るレベルにある。

タイトな3ラインをベースにした守備は再び日本を苦しめるかもしれない。ただし、現状は主力に30代の選手が多く、20代の若手は台頭してきているものの、彼らがレギュラーを掴みロシアW杯の欧州予選で活躍できるかどうかはここからの強化にかかっている。その意味でも慣れない環境で行われるキリンカップは格好のテストになるだろう。

【エース】イベリン・ポポフ(スパルタク・モスクワ)

ポジションはセカンドトップや攻撃的MFだが、チャンスメークからフィニッシュまで最も頼れる存在。精力的な守備から正確なボール捌きでカウンターの起点になり、鋭くゴール前に飛び込む。アシスト能力も高く、ブルガリアの攻撃にあって、勝負を決定付ける役割で欠かすことができない。

【キーマン】アレクサンダル・トネフ(フロジノーネ)

かつてプレミアリーグのアストン・ヴィラにも所属し、現在はセリエAの昇格クラブで確かな存在感を放つサイドアタッカー。左右の足でボールを扱うことができ、縦の突破とカットインを使い分けてチャンスを生み出す。甘いマスクとは裏腹に、攻守のファイティングスピリットに溢れる選手だ。

【ヤングスター】トドル・ネデレフ(ボテフ・プロブディフ)

日本代表の武藤嘉紀が所属するマインツの下部組織で当確を現した逸材で、現在は母国のクラブにレンタルされている。生粋の左利きであり、左サイドから斜めに鋭く切り込んで、厳しい角度からゴールのニアサイドを襲うシュートを武器としている。守備の強さや安定感に課題はあるものの、ブルガリアの攻撃に違いを生み出すヤングタレントとして期待できる。

◆デンマーク◆

実力的にはEUROの本大会に出場しても十分に上位を狙えたはずだが、“格下”のアルバニアとアルメニアに続けて引き分けるなど勝負弱さを露呈し、プレーオフでは北欧のライバルであるスウェーデンに屈する形で敗退した。各ポジションにタレントはいるものの、かつて“ダニッシュ・ダイナマイト”の異名を誇った迫力あるカウンターは影を潜めていることも“低迷”の要因かもしれない。

長くチームを率いてきたモアテン・オルセンが退任し、元ノルウェー代表のハレイデ新監督を迎えた。ここ数年は良くも悪くも、天才的な司令塔であるエリクセンの出来が明暗を分けているが、ソリッドなチーム作りに定評のある指揮官の下、ホイビュアや俊英フィッシャーなど、さらなる若手の突き上げによってチームが活性化されれば、強豪国にも好勝負を挑めるチームになりうる。

【エース】ニクラス・ベントナー(ボルフスブルク)

破格のボディと柔軟なボールスキルでアクロバティックにゴールを決める大砲。ロングボールを懐におさめれば、意外性のあるラストパスで周囲の決定的なシュートを誘発する。司令塔エリクセンとのホットラインがはまれば強固なディフェンスをも苦しめるが、プレーに安定感を欠く問題は”異端児”として注目された若手時代からあまり変わっていない。

【キーマン】キャスパー・シュマイケル(レスター・シティ)

伝説的な守護神ピーター・シュマイケルを父に持つサラブレッドだが、能力に否定的な意見もあった中で成長を重ね、日本代表の岡崎慎司も所属するレスターの躍進を背後から支える存在となっている。卓越したセービングに加え、溢れるほどの闘争心と局面の冷静な対応で、若返りをはかるデンマーク代表にあって、心身の両面でチームを支える存在だ。

【ヤングスター】ピエル・ホイビュア(シャルケ)

各年代の代表で主力を担うなど将来を嘱望されたテクニシャンは10代でドイツに渡り、名門バイエルンのセカンドチームでスキルと戦術眼を磨いた。恵まれた体格を活かしたボールキープから鋭いパスでチャンスを切り開く。周囲との連携に課題があり、レンタル先のシャルケでも壁に当たっている感はあるが、ポテンンシャルに疑いの余地は無い。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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