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ハリルホジッチはなぜ高萩洋次郎を高く評価するのか。ACLのプレーから考える代表招集の可能性。

河治良幸スポーツジャーナリスト

3月3日、日本代表トレーニングキャンプに参加する26人のメンバーが発表された。ハリルホジッチ監督は囲み取材という形でインタビューに応じたが、その中でリストに入っていない選手の名前もあげた。

そのうち2人はUー23アジア選手権で日本のリオ五輪行きに貢献したGKの櫛引政敏(鹿島アントラーズ)と井手口陽介(ガンバ大阪)、そしてACLのビン・ズオン戦でデビューしたばかりのFC東京の小川諒也、そして韓国のFCソウルに在籍する高萩洋次郎だ。3人の若手に関しては将来性の期待も込めた評価と考えられるが、今年で30歳になる高萩は趣旨が異なる。

興味深いのは「日本国内どこへいっても面白い選手はいる」と前置きした上で高萩の名前を出したことだ。ハリルホジッチ監督はACLでJリーグのクラブがなかなか勝てていない問題に言及し、今回の国内キャンプでも選手たちにメッセージを伝えるというが、1つのコントラストとしてFCソウルの主軸として活躍する高萩の存在を強く認識したのではないか。

実はハリルホジッチ監督が高萩の名前を口にしたのは今回が初めてではない。日本代表での”初陣”となるチュニジア戦とウズベキスタン戦に向けたメンバー発表において、12人のバックアップメンバーを同時に読み上げたのだが、そこに高萩の名前が入っていた。そこでハリルホジッチ監督は「高萩はオーストラリア(ウェスタン・シドニー)でプレーしているが、これから知っていきたい選手だ」と説明したのだ。

そこから一度も代表に選ばれることなく現在を迎えたわけだが、もしかしたらというタイミングはあった。昨年8月に行われた東アジアカップはJリーグに所属する”国内組”だけで挑んだ。大会には韓国も参加したため、FCソウルに移籍していた高萩は立場的に参加が可能だったはずだが、所属クラブが変わって間もない事情もあったのか、メンバーリストに高萩の名前は無かった。

そこから高萩のFCソウルでの活躍は知られる通り。Jリーグでも活躍した元韓国代表チェ・ヨンス監督の信頼を勝ち取り、韓国FAカップではクラブを優勝に導く活躍でMVPに輝いた。そして下部組織からの古巣であるサンフレッチェ広島との対戦となったACLの第2節で高萩は確かな存在感を示し、4−1の勝利に貢献した。

[5−3−2]という布陣の右インサイドハーフを担った高萩は正確なボール捌きと豊富な運動量、さらには素早い攻守の切り替えでFCソウル全体のプレーを円滑に機能させ、広島を翻弄した。エレガントなパスはJリーグ時代から見せていたが、局面の強さと守備にプレッシャーをかけられても全く動じない落ち着き、コンタクトプレーの強さは見違えるレベルに達していることが分かる。

そして恐らく、ハリルホジッチ監督の興味を引かせたのは1タッチで相手の守備を外し、受け手に前を向かせるシンプルで効果的なプレーだ。実際に高萩は勝ち越し点のきっかけとなるFKを獲得したシーンの起点となり、3点目にいたる流れでは相手陣内のボール回しで、味方から斜め後ろに出されたボールをプレスが来ると同時に叩き、中央に崩しの起点を作った。プレッシャーがかかる局面で、よくハリルホジッチ監督が言う“一人外すパス”を絵に描いたように成功させたのだ。

この試合はハットトリックを決めたアドリアーノの決定力に話題が集まったが、高萩の効果的なプレーなくしてFCソウルがあそこまで広島を圧倒することはなかったはずだ。そうした結果もあり、筆者としては最終予選までに、どこかでハリルホジッチ監督に高萩のことを聞いてみたいと考えていたが、指揮官が自ら名前を出したことでいきなり質問する機会に恵まれた。

ーーACLで日本のチームが苦戦する中、FCソウルで中心を張っている高萩選手の名前が出たというのはかなり気になっているのでしょうか。彼のどういう点を評価しているか。

ハリルホジッチ監督「高萩は守備のボールを奪うところ、それから組み立てのところでも存在感を発揮しています。運動量、プレーの量も非常に興味深い。FCソウルの前に他の国にいたことは聞いてますし、彼をずっと追跡はしているんですが、我々がイメージするA代表の理想像に彼が当てはまるかどうかを考えています。今(代表で)プレーしている選手よりいいかどうかの判断になります。例えば、ある試合で彼はサポートで入るかもしれないけど、もうすぐ30歳ということを考えると、経験はあるし、海外での経験もある。海外のフットボールを経験してることは大きいですね。もしいつかこういう選手が必要なら、間違いなく呼べる存在だと思ってます」

広島ユース時代から同世代のエリートだった高萩は各年代の代表で中心を担ったが、広島のトップチームでなかなか出場機会を得られず、2006年にはJ2の愛媛で経験を積み、復帰した広島で主力に上り詰めた。彼のポテンシャルから考えればA代表デビューが2013年の東アジアカップだったことは意外だが、その後の国内合宿にも招集されたものの、ブラジルW杯のメンバーに入ることはできなかった。

2015年に当時アジア王者だったオーストラリアのウェスタン・シドニーに移籍した高萩はACLの鹿島アントラーズ戦で来日したが、その時にはJリーグ時代の環境に“甘え”があったこと、オーストラリアではフィジカルの強さがより求められ、それを自分の足りない部分と捉えてトレーニングに励んでいることなどを話してくれた。

そして自らアジアの頂点に立つために移籍したというFCソウルでもポジションを掴み、持ち前の技術にプレースピードと強さを身に付けた高萩は最終予選のライバルになりうるオーストラリアと韓国を良く知る選手としても、日本代表の重要な戦力として計算できる。もちろん日本の2列目には欧州組がいるし、ボランチもキャプテンの長谷部誠を筆頭に有力選手が揃うが、2つのポジションで安定したプレーを期待でき、システムチェンジにも対応できる、何より日本代表が課題としている要素をすでに備える高萩は今後の日本代表にとっても大きな存在になっていくかもしれない。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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