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福岡戦のゴールシーンで見えた、シーズン20得点を目指す武藤雄樹が浦和の勝利のために優先するプレー

河治良幸スポーツジャーナリスト
(写真:築田純/アフロスポーツ)

「判断には天井が無い」。3日間の代表合宿に参加した武藤雄樹は最終日の練習後にそう語り、さらに成長させていく部分を強調した。日本代表の定着を目指す意味でも、ハリルホジッチ監督が日本人FWに求めるシーズン20得点を掲げる武藤だが、もちろん最優先するべきは浦和レッズの勝利だ。

アビスパ福岡とのホームゲームは前節、同じ昇格組のジュビロ磐田に屈辱の敗戦を喫しただけに、何としても勝利が求められる状況だった。そのためにストライカーとしてゴールは目指すが、流れの中で味方が取るべきところでは味方に取らせる。その意識と判断が、前線のパートナーである興梠慎三の2ゴールを“お膳立て”したプレーに表れていた。

まず前半18分のゴールシーン。右ワイドで梅崎司からパスを受けた森脇良太が左足でサイドチェンジパスを左の関根貴大に展開した。この時、3バックの福岡は両サイドがバックラインに吸収されて5枚になっており、武藤は中央の右ストッパーのキム・ヒョヌンと右ウィングバックの中村北斗の間にポジションを取っていた。そこから一度後ろに引く動作から鋭く縦を突こうとしたが、ボールはさらに外側の関根に展開された。

そこから関根が左足のダイレクトでリターンしたボールに興梠がニアで合わせ、ゴールネットを揺らしたわけだが、この状況を影で演出したのは武藤だった。森脇から関根にボールが展開され、飛び出そうとしたタイミングからズレた時点で武藤は手前に移動した。福岡のディフェンスがボールに合わせてサイドにスライドし、武藤を挟んでいたキム・ヒョヌンと中村がゴールポストより外側に移動したことで、武藤もゴールマウスの内側を狙いにくくなっていたこともあるだろう。

この場面について武藤は「最初はニアに行こうと思ったんですけど、タイミング的に僕がシュートコースを確保するというイメージだったので、ニアに(興梠)慎三さんが飛び込んでくれたので、あれは僕というより慎三さんと関根のいいタイミングの連携だったかなと思います」と振り返る。確かに直接的には2人の絶妙なプレーによって導き出されたゴールではあったが、武藤が手前に動いたことでそのコースを造ると同時に、キム・ヒョヌンの意識を引き付けリターンにうまく反応させなかったことも大きかった。

後半6分に再び興梠が記録した2得点目は梅崎司の左からのクロスを胸トラップから左足ボレーで決めた形だったが、カウンターから流れを呼び込んだのが武藤だった。相手CKのクリアボールを巡り、カバーリング役の亀川諒史と競り合い、手前にこぼれたボールを森脇が拾うと、そこから動き直してショートパスを引き出し、タイミング良く追い越す関根に縦パスを通す。そこから左に流れていた梅崎に渡り、クロスに結び付いたのだ。

武藤としては戻りながら阻もうとしたダニルソンと末吉隼也の間を破るパスで、関根に前を向いてボールを持たせた形だが、右足のトラップから2タッチ目で素早く左足のパスを出す意識というのは代表合宿でも見せていたもの。「あれは関根がうまくいいタイミングで中に入って走ってくれたので、僕はシンプルに出しただけ」と武藤は語るが、瞬間の判断と精度が的確だった。

この2得点が象徴する様に、武藤の状況に応じたチームプレーが光ったが、自身の決定的なゴールチャンスもあった。2点目の直前には梅崎のクロスをフリーのヘットで合わせたが、GKイ・ボムヨンに至近距離で弾かれ惜しいチャンスを逃した。さらに後半18分には阿部勇樹の縦パスから興梠が1タッチで裏に流し、柏木陽介が前でCBを引き付けて生じたスペースに武藤が飛び出したが、間一髪でイ・ボムヨンのカバーに阻まれた。さらに関根のシュートをGKが弾いたこぼれ球に反応してゴールネットを揺らしたが、惜しくもオフサイドに嫌われた。

「今日ゴールは決められなかったんですけど、(飛び出しなど)そういう部分は出せていたと思うので、梅崎さんのクロスに入るシーンもありましたし、(興梠)慎三さんからスルーパスをもらうシーンも何度かあったので、動き自体はそこまで悪くなかったと思ってるんですけど、ただ、ゴールをゴールを決めないと意味が無い部分もあるので、最後のところのファーストタッチだったり、そういう精度が足りなかったのかなとは思っています」

そう語る武藤がゴール量産を狙う上で1つ悩ましいのは浦和の攻撃陣に得点力のある選手が多く、必ずしも武藤にゴールを決めさせる形が連続的に発生しないということだ。その武藤により多くチャンスに絡むためのチームと個人の位置付けについて質問すると「うーん、難しいですねえ」と反応しながら回答した。

「浦和は誰か1人にボールを集めてゴールを決めさせる様なチームではないので、その場その場でゴールに近い選択をするというのは練習からやっていますし、ミシャ(ペトロヴィッチ監督)も言っていることなので、まあ基本的には(チームとして)何が一番ゴールに近いかという選択をしているつもりですけど、ただ心の中には絶対に決めてやるという気持ちを持っているので正直、(興梠)慎三さんが2点決めた後も次は絶対に俺だと思っていたので。ただ、難しいですね」

この日は先日まで武藤を指導していたハリルホジッチ監督も視察に訪れていたが、おそらく流れのプレーに関する評価とゴールの物足りなさと、両方を持ち帰ったはず。武藤も「やはり、ハリルホジッチ監督もゴールにこだわれということはすごく言っている」と認識する通り、ゴールの意識を持って試合に臨んでいた様だ。それでも「だからって、僕が全部仕掛けてシュートを打つのかと言ったら、それは違うと思う」と自負している。

「あんまりゴール、ゴールとなりすぎても、あんまり良くない方向に行ってしまうかなという自分の考えもあるので、チームの勝利のためにパスを出すところは出しますし、そういうことをすると返ってくるものなので、サッカーというのは。そういう感覚ですかね」

昨年はベガルタ仙台からの移籍1年目にして浦和のレギュラーに定着し、リーグ13得点を記録するブレイクを果たしながら、優勝タイトルを逃す悔しさを味わった。チームの中心として期待を背負う武藤はシーズン20得点の目標を掲げながら、勝利のために何が必要かを追求している。守備や味方のコースを空ける動き出しなど犠牲的な貢献は多岐に渡るが、ゴールと勝利がシンクロする時こそストライカーが最高に輝く瞬間がある。その瞬間をどれだけ積み重ねていけるか。その先はもちろん代表定着の道にもつながっているはずだ。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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