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前回アジア王者を撃破。浦和レッズの守備意識を象徴した”トリプルチーム”ディフェンス

河治良幸スポーツジャーナリスト
「チームと組織の重要性を示せた」(ズラタン)勝利をサポーターと祝う浦和の選手たち(写真:田村翔/アフロスポーツ)

バスケットボールで言うところの“トリプルチーム”とでも表現するべきか。

今季ACLの“死の組”とも言えるH組は浦和レッズがホームで前回王者の広州恒大(中国)と対戦。後半7分に武藤雄樹があげた先制点を守り切り、1−0で勝利した。これで2試合を残して勝ち点は7となり、2008年以来の決勝トーナメント進出に大きく前進した。

攻守の切り替わりが激しい、見応えのある試合の中で目立ったのは浦和のチームとしての守備意識の高さだ。高い位置でも低い位置でもコンパクトな組織でプレッシャーをかけ、周囲の選手がサポートしていく。その象徴的なシーンは前半28分に表れた。浦和陣内の右サイドからドリブルを仕掛けてきたパウリーニョに対し、浦和は3人で囲んでボールを奪い切ったのだ。

浦和は同サイドの高い位置でプレッシャーをかけていたが、ユー・ハンシャオからボールを奪いかけた森脇良太に対し、FWのジャクソン・マルティネスが下がってチャージに行くと、森脇はスライディングで後ろにボールを戻そうとする。しかし、そのボールをサイドに流れていたパウリーニョが狙っていた。

そこから前を向いて加速するパウリーニョに素早く付いていったのが3バックの中央を担う遠藤航だった。最初、森脇のバックパスを受けようと構えた遠藤は、ボールが流れてパウリーニョに持たれると、中を切りながら後ろに並走。浦和から見てペナルティエリアの右に侵入しかけたところで、斜め前を切りながら厳しく1対1を挑んだ。

遠藤の寄せに対してパウリーニョは突破からボールキープに切り替えたが、外側を向いた時に中央から槙野智章が、前方から戻ってきた関根貴大が加勢し、3対1の状態に。遠藤が縦を塞ぎ、関根がタックルに行ったところをパウリーニョが粘って切り返すが、槙野がいち早く体を入れてパウリーニョのバランスを崩し、こぼれ球を遠藤が拾った。

抜け目なく突破を狙うパウリーニョ、それを阻む遠藤、槙野、関根。スポーツ漫画であれば、これだけで1話を完結できる様な、濃密なシーンだったが、遠藤航は90分を通しての意識がこうしたシーンを生んだことを強調する。

「後ろも押し上げてコンパクトにして、前もプレスバックという意識があると距離感も良くなるので、2人、3人ああやって1人の選手に対して行けるシーンが作れると思うので。まああれで剥がされたらというのももちろんありますけど(笑)」

この局面で広州はゴール前に3人、バイタルエリアに1人が入ってきていた様に、相手に対して数的優位を作ったところで突破されれば大きなピンチになりうる。しかし、現在の浦和はそうしたリスクも全体で共有しながら、チャレンジする意識を共有している。

「行くならもうやっぱり奪い切ってやっていけばいいと思うし、そういう2人で奪い切ったり、3人で奪い切ったりというシーンがあれだけじゃなくて何回もあったと思うので、そこは浦和の出足の良さがあったと思います」

日本代表のハリルホジッチ監督は“デュエル”という言葉で球際の厳しさを要求するが、代表選手を多く抱える浦和もタイトル、そしてアジアでの躍進を目指して非常に高い意識で今季に臨んでいる。

もちろん、そうした意識をシーズン通して継続できるかがクラブの課題ではあるのだが、ペトロヴィッチ監督が”ファイナル”とも位置づけた試合でチームとしての姿勢を示せたことをこれからの戦いにつなげていってほしいところだ。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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