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浅野拓磨の裏への意識が日本代表の攻撃を新たな進化に導くか

河治良幸スポーツジャーナリスト

6月上旬に豊田・大阪でキリンカップに参加する日本代表は5月24日から千葉県内で欧州組による事前合宿を行い、シーズンを戦い終えた選手が数日間の休養をへて順次合流。26日に発表されたメンバーに選ばれていない山口蛍、内田篤人、武藤嘉紀の“リハビリ組”もそれぞれのペースでメニューをこなした。

29日の午前に千葉県内での合宿を終えた事前合宿で唯一、国内組で参加したのが日本代表に初選出された浅野拓磨(サンフレッチェ広島)だ。リオ五輪を目指すU−23代表としてトゥーロン国際大会に出場していた浅野は27日に合流した。本田圭佑や香川真司とも初対面で、その日の練習後は「まだ挨拶しただけです」と語っていた浅野だが、夕食時にはハリルホジッチ監督の“指令”で一発芸(リオ五輪代表の手倉森誠監督のモノマネ)を披露し、A代表の大先輩たちを笑わせたという。

翌日の練習では2人一組でゴール前からシュートに持ち込む練習で本田とセットになった浅野だが、スムーズに動いて本田のシュートを呼び込むなど、うまく打ち解けたことが練習のプレーにも表れていた。今回は同じUー23から大島僚太が初選出されており「大島君もタイミングというのは、常に前を見てくれていて、出してくれる信頼関係がある」と浅野は語る。

実際に試合で同時に出ることがあれば“ホットライン”として期待されるが、本田や香川などの主力にも特徴や動きを早期に理解してもらい、試合でも浅野が求めるパスを引き出せるようにしていく必要がある。香川は浅野に関してシンプルに爆発的なスピードを高く評価しており、その特徴を生かすイメージはできている様子だ・

「もうスピードはすごく魅力的ですし、あれくらい速い選手っていうのはすごくやはり武器になると思うんで、飛びぬけたものを持っている選手っていうのは日本にはなかなかいないんで、世界的に見てもあのスピードっていうのはすごく楽しみです」

「プライベート入れば普通の人間なので。テレビで見ているところだけじゃなくて、ホテルに入れば普通の、みんな本当に普通の人というか。「あ、こういうところはみんな変わんないんだな」と思いましたけど。でも、しっかりするところはみんなしっかりしていた。話している内容とかも僕らの年代よりはもうワンレベル上だったりとか、まだまだ僕らには見えない世界の部分を話していたりしている」

「僕もよりレベルの高いところでサッカーをしたいと思っている」と偽らざる気持ちを口にした浅野にとって事前合宿から欧州組とトレーニングし、寝食を共にできたことは貴重な経験になったはず。ただし、もちろんチームの戦力としてキリンカップでも活躍することが期待される。浅野が今回のメンバーに選ばれた理由についてハリルホジッチ監督はこう説明する。

「浅野を初めて見たときに思ったのは、日本国内で1人だけ背後に動き出せる選手だということだ。彼の試合(トゥーロン国際大会)も見たが、背後に走るパワーもスピードもある。まだまだ伸ばせるところもある」

浅野にはA代表の新しい仲間たちも大きな期待を寄せ、それとともに攻撃に起こせる変化をすでにイメージし始めているのだ。浅野自身も「裏への意識というのは常に高く持っているつもりですし、そこの動き出し、駆け引きというのは自信を持ってプレーしている」と自分の持ち味を強く意識している。今回の選出は当時から確かな成長をとげたことを指揮官が評価した証でもあるが、「今シーズンはもっと先発で出てほしい」と注文を付ける。

浅野は「常にここ(A代表)に来たいと思っていました」と語るものの、クラブ(サンフレッチェ広島)でもUー23代表でも納得の行く結果を出せていないことを認める。持ち前のスピードで多くのチャンスを得ながら、そこから決め切れないシーンが目立つためだ。トゥーロン国際大会でも1得点はあげたが、チームを勝利に導くゴールを決められなかったことに責任を感じている様子だ。浅野としては常に裏への動きを意識しながら、いざチャンスが来た時にシュートを決め切ること。それこそキリンカップからアジア最終予選と戦っていく日本代表に定着していくためのカギとなる。

最終予選に向けて「1回か2回のチャンスで得点を取る選手」をハリルホジッチ監督は探しており、その候補の1人として目をつけたのが浅野に他ならないからだ。より強い相手のディフェンスに対して浅野のスピードと第一に裏を狙う姿勢は大きな武器になりうる。そこから良い形でシュートまで持っていくことができれば、あとは決め切るかという問題になる。自分の武器を押し出しながら、その課題を克服していくこと。それこそが21歳のFWに求められるものだ。

もちろんライバルとなる常連のFW陣にとっても浅野の存在は刺激になるものであり、あう意味で指揮官のメッセージであることも感知させる向きもある。今回は“リハビリ組”として事前合宿に参加した武藤も「(浅野は)ホントに素晴らしいスピードを持っていますし、裏への抜け出しは素晴らしいので、やっぱり見習っていかないといけないところもある」と語る。

リオ五輪でも活躍が期待される浅野だが、すでに最終予選、さらにその先を目指すチームの競争に加わっていることは間違いない。自分の武器と課題にどう向き合い、さらなるレベルアップを遂げるのか。「日本では数少ないゴールゲッター」と指揮官が評価する浅野がA代表に定着することはアジアから世界を目指す日本の攻撃をさらに加速させることにつながるはずだ。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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