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ガンバで偉大なボランチの背中を見続けたUー19日本代表の市丸瑞希。世界への扉を開いた縦パス

河治良幸スポーツジャーナリスト
ガンバで遠藤保仁の背中を見続けた市丸瑞希。効果的な縦パスは遠藤保仁を彷彿させる。(写真:田村翔/アフロスポーツ)

Uー19アジア選手権の準々決勝は日本がタジキスタンを4−0と破り、5大会ぶりのUー20W杯出場を決めた。チーム全員がビジョンを共有して世界の切符を勝ち取ったが、内山篤監督の起用に見事応える形で勝利に貢献したのがボランチの市丸瑞希だ。

ガンバ大阪ユース出身で、現在は主にUー23でプレーする市丸は今回のチームにおいて主力と呼べる選手ではなかった。神谷優太の負傷というアクシデントが出場チャンスにつながった側面もあるかもしれないが、1位でグループリーグ突破を決めたカタール戦、そしてタジキスタン戦と、これまで足りなかった要素を加えたことは確かだ。

前半8分の先制点は市丸の縦パスが起点となった。左で三好康児と舩木翔がつなぎ、左センターバックの中山雄太を経由したボールを中央で受けた市丸はボールを受ける直前に前方の状況を確認。そこから正確な右足のタッチで反転しながら前を向き、5バックの右サイドバックと右ストッパーの合間を抜けるFWの小川航基に35メートルのロングパスを送った。

「(相手から見て)右にのぞかせておいたら、あそこが空くのはだいたい分かっていた。小川とも話していたので狙い通りでした」と市丸が振り返るパスは見事に小川を捉えた。そこからチームのエースが折り返したボールはニアに寄ったGKを破り、反対側のポストに当たって内側に跳ね返ったが、岩崎悠人が詰めて相手に苦し紛れのクリアを強いると、それを右サイドで拾った堂安律のクロスから小川の豪快なヘディングシュートに結び付いた。

チームの攻撃イメージと市丸の持ち味である縦パスのセンスが見事に融合したことで実現した展開だった。さらに、この試合の流れを決定付ける2点目の起点となったのも市丸のプレーだが、もう1つの持ち味が出た。

相手のアタッカーがサイドから中にドリブルで切り込んできたところで、センターバックの中山雄太が前に出て潰そうとするが、突破を許してしまう。そこでカバーに入った市丸が粘り強く体を寄せてバランスを崩させた。ロストさせたボールをもう1人のセンターバックである冨安健洋がダイレクトのロングパスで左につなぎ、それを素早く縦に運んだ三好が堂安の鮮やかなシュートによるゴールをアシストした。

「あそこはボランチに求められる仕事だと思うので、CBのカバーも仕事なので、そこは意識していました」

そう語る市丸は172cmの上背で、体格に恵まれているわけではない。しかし、そうしたボール奪取の意識は「今野(泰幸)選手だったり(井手口)陽介くんだったり、身近にボール奪取に優れている選手がいるので、そういうのはものすごく刺激になっている」と語る市丸が所属クラブで意識的に伸ばしてきたところだ。

この2得点で「慌てる必要もぜんぜん無かったし、自分たちのペースでできた」という市丸は「ハーフタイムに2−0の状況の時に、2−0は危ないというかまだ安心できない点差なので、本当に次の1点を大事にしよう」と振り返るキャプテンの坂井とともに落ち着いて攻守をコントロールしながら、試合の主導権を日本に手繰り寄せた。

小川の直接FKによる待望の3点目はボランチの2人による守備の連携からもたらされた。中央でボールホルダーを坂井がチェックし、体から離れたボールを市丸が拾って素早く三好につなげ、そこから小川のファウルを誘うドリブルに導いたのだ。さらに坂井がバイタルエリアで絡んで岩崎をアシストした4点目も市丸のパスが起点となった。

「前にスペースが見えたので(市丸)瑞希から斜めのパスをそこで受けて、そしたら(岩崎)悠人がファーに逃げる動きをしていたので、少しサイドに目線を起きつつ中に縦パスを入れました」(坂井)

交代出場のFW中村駿太のポストを受けた市丸が前に走る坂井を見逃すことなくダイレクトの正確な縦パスを通し、ペナルティエリア内で縦に動き出す岩崎にグラウンダーのボールを出す。「(岩崎)悠人の技量が相手より上だった」と坂井が言う様に、ディフェンスを制しながら放った岩崎のシュートは見事だったが、市丸の真骨頂が仲間とのイメージ共有で完璧に発揮されたシーンだった。

「縦パスを入れるタイミング自体は(市丸の)特徴として持っています。やはりその中で縦パスを入れるためには相手を動かすということで、サイドエリアを起点する攻撃がチーム全体でやれて、彼の特徴が出て来ている」

そう内山監督がそう評価する市丸の持ち味はまさしくチームの方向性の中で生かされたものだが、チームに不足していた部分でもある。その意味では大会においてこのチームが世界への扉を開く鍵だったと言えるかもしれない。

その市丸のプレーを見ていると、どことなくイメージが重なる選手がいる。G大阪の絶対的なプレーメーカーである遠藤保仁だ。スタイルが全く同じわけではないが、中盤で全体のバランスを見ながらも、周囲を観察して効果的なプレーを常にイメージしている様子が分かる。そしてボールを捌く時にほとんどヘッドダウンしないのだ。

「近いパスはボールを見なくてもだいたい、どこにあるか分かっている」という市丸に偉大な先輩の名前を出すと「いやあ、そんな・・・ぜんぜん。ヤットさんはもっとすごいです(笑)」と照れながら「中学からずっとヤットさんを見ながらやってきて自然とそうなっているかなとは思います」と語る。

「試合を見ている限りでは僕はあんまり目立たない選手なんですけど、1個1個のパスを見ていただければいいかなと思います」

この日はボール奪取や決まらなかったが積極的なミドルシュートなどでも存在感を示した市丸。ただ、やはり最大の特徴となるのは状況を見極めて繰り出す縦パスだ。代表チームでも所属クラブでもボランチの競争は激しいが、世界の扉を開いた縦パスを世界で披露するべく、ステップアップを重ねていくことを期待するばかりだ。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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