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内容的に”快勝”だったサウジアラビア戦が2−1になった理由とリベロ長谷部という試合終盤の締め方

河治良幸スポーツジャーナリスト
ボランチの主力としてプレーする長谷部誠だが、終盤は3バックの中央も有効なプランに(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

サウジアラビア戦は勝利という結果と同時に、内容面でもポジティブな面が出た試合だった。

これまで練習で取り組んでいたものの、試合ではなかなか発揮できなかった組織的なボール奪取からのショートカウンターや最終ラインから速いパスで前線に前を向かせる組み立てなど、サウジアラビアという”好敵手”に対して高いスタンダードを示したことは最終予選の後半戦、さらにはその先にもつながる。

対戦相手やホーム&アウェーなどの環境で戦い方を変えていくタイプの監督ではあるが、就任時から掲げてきたベースを引き上げるほど、パフォーマンスに質と幅が出てくる。実績にとらわれず「躊躇なくより良い選手を選んでプレーさせた」という判断も結果につながるだけでなく、健全な競争原理を生んだ意味でも評価できる。

ただ、もし2点差を追い付かれて引き分けていれば、そうした評価も全て吹き飛んでしまう事態になっていたことは想像に難くない。終盤におけるサウジアラビアの”なりふり構わない”猛攻は危険だった。後半45分のゴールから、その2分後に退場者を出してもゴール前に脅威を与えてきた。ファラタのクロスにアルシャムラニが合わせたシュートは「落ち着いて対応できたと思います」という西川周作が冷静にセーブしたが、どれだけ良い内容でリードして終盤を迎えても、そこからパワープレーで失点するリスクがあることをあらためて実感させられる試合だった。

吉田麻也は「サウジが残り10分、15分勢いを持ってくるっていうのはもう分析でも分かってたことなので、そこはちょっとツメが甘かったかなと思いますけど、次に生かしたい」と語るが、ツメの甘さというのは集中力や注意力の欠如といった意識の問題だけではないはず。対戦相手がリスクを背負ってゴール前に迫力を出してくる時にどう対処するか、その時の守り方を事前に話し合い、確認しておくべきことでもある。

この試合に向けて高い位置でのプレッシングやセットプレーなど守備面でもやることが多く、今回はそこまで気が回らなかった事情もあるかもしれない。2−0から1失点したものの、勝ち点3を取って終われたことで、課題として冷静に”処方箋”を考えていくことができるはず。「しっかり準備をしておくというか、ある程度そういう風になったら自分たちはどういう方法を取るのかという情報だけでもみんなが頭に入れて臨めば混乱は起きない」と語る森重真人は興味深い”提案”をした。

「相手も相当なリスクを背負ってああいうことをしてきたので、そこはみんなで話し合っておけば。ハセさん(長谷部)を2センターの真ん中に入れるだとか、そういうのを事前に話し合っておけば問題はないと思います」

つまり長谷部を吉田と森重の間、リベロのポジションに入れてゴール前の守備に厚みをかけるというプランだ。この試合も山口蛍とボランチのコンビを組みながら、流れに中ではセンターバックの手前で的確にインターセプトやクリアを成功させるなど、フランクフルトで3バックのリベロとして見せている様な守備を要所で見せてはいた。

そのフランクフルトでリベロとして活躍している長谷部を見て、代表での同じ役割を期待する声もちらほらと聞こえるが、日本代表とフランクフルトでは基本システムも選手の組み合わせも違い、そのまま当てはめることに無理があるだろう。ただ、クラブでリベロを任される様になった理由として、相手の攻撃に形に応じて3バックと4バックを使い分けるというニコ・コバチ監督の方針がある。

「(フランクフルトでは)相手が2トップだったら3バックでやりますけど、1トップだったら自分が中盤でっていう風にミーティングでやっているので、フレキシブルにやっています」

つまりボランチが本職で、アンカーと呼ばれる1ボランチも経験している長谷部だからこそ、スムーズにこなせる役割なのだ。これを日本代表で応用できる可能性が、まさしく相手がパワープレーに来た時の守り方だ。相手が1トップでも2トップでも4バックで、必要に応じてボランチが彼らの手前まで下がってサポートするのが基本だが、パワープレーでゴール前に3人が飛び込んで来る様な形で来られると、同じシステムのまま柔軟に対応することは難しい。

そこで2センターの中央に長谷部が入り、ゴール前の中央で左右のセンターバックをサポートする。そして機を見た正確なロングフィードでカウンターの起点になる。中東でのアウェーも3試合を残しているが、1点あるいは2点をリードして終盤を迎えれば、ほぼ間違いなく相手はゴール前に人を増やしてくる。それは世界の戦いでも同じだ。そした状況で、ブンデスリーガでも絶賛される”リベロ長谷部”の雄姿が見られるかもしれない。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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