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3月11日から6年。あの時、何を感じていただろう。自身、二度目の『MARCH』でふと思い出したこと。

河治良幸スポーツジャーナリスト
映画『MARCH』の”もう1つのロケ地”となった愛媛ニンジニアスタジアム

東日本大震災が発生した2016年3月11日から6年の月日がたった。

3日前の3月8日、日本サッカーミュージアムにて「サッカーにできるコトvol5」が開催され、映画『MARCH』が上映された。筆者にとって二度目の『MARCH』。昨年3月14日の前回も同じ日本サッカーミュージアムだったが、また違った感情が沸き上がってきた。

『MARCH』は「東日本大震災」の被災地である南相馬で結成されたマーチングバンド「Seeds+」を描いた、およそ35分間のドキュメント映画。被災によって全国に散り散りになった生徒たちが故郷で集まり、練習を積み重ねてJリーグ・愛媛FCのホーム試合に招かれ、観客の前で実演するというストーリーだ。この映画を観て何を感じるかは人それぞれだと思う。観て共感できることもあれば、その時、その場所で体験した人でなければ実感できないと分かることもあるかもしれない。

そうした『MARCH』そのものから感じ取るものとは別に、この作品を観ているからことわき起こってきたことがある。2011年の3月11日に震災が起きた時に自分がどこで何をし、何を思っていたのか。そして断片的ではあるが、ここまで震災にどう向き合ってきたのか、あるいはこなかったのか。1年前に同じ場所で初めて『MARCH』を観た時も、映像を観て、音声を聞きながらも、そんなことを思い浮かべていた記憶がある。

筆者にとって二回目となる『MARCH』も、やはり映像と音声でストーリーを追いながら、自分を通しての震災に関わることが浮かんだが、最初に観た時とは違う感覚があった。去年の上映から1か月後の4月14日、さらに2日後の16日に「熊本地震」と呼ばれることになる、熊本県を最大震度する大地震が九州北部で起きた。その時まさに、筆者はJリーグの取材とまとまった仕事を書き進めるために大分県の別府市に宿泊していたのだが、揺れそのものは熊本県のそれに準じる大きさだった。

東日本大震災の時に都内の自宅で体感したものよりはるかに大きい揺れが、いつ終わるとも知れず続き、外ではどこからともなくサイレンが鳴り響いていた。結局、筆者が宿泊していた建物に損壊などは無く、怪我もしなかったが、そこから1週間ほどの滞在は常に余震の不安に悩まされ、予定されていた大分トリニータの試合はもちろん、アビスパ福岡のホーム試合も延期となった。それを知らされた時はせっかく九州まで来て、試合を取材できなくなった残念な思いより、ホッとした気持ちの方が勝っていた。

安全を期すれば延期にした方がいいという考えもあった。しかし、それ以上に意欲的に仕事をする気持ちが乗らなかったというのが当時の正直な気持ちだった。深刻な被害が出た熊本市周辺や大分でも湯布院など多くの建物の倒壊が発生した地域ほどではないにせよ、余震が続く中で閉まったままの店も多く、ほとんど何もできないまま大分を後にすることになったのだ(その間も大分の方には親切にしていただき、食事は美味しかった)。そして次の滞在地、偶然にも映画『MARCH』のロケ地になった愛媛の松山に移動し、”おもてなし日本一のまち”で安心した気持ちと同じ場所であの揺れを経験した人たちに申し訳ない気持ちと、なんとも複雑な思いが体内に入り交じっていたことを覚えている。

しかし、そこから東京に戻っても「熊本地震」のことは気にしていたし、現地での復興活動の情報は自分なりに気にしてはいたけれど、大分で体感したあの恐怖のことは、この二度目の『MARCH』を観るまですっかり忘れていた。いや忘れるはずはないのだが、無意識に追いやり、蓋をしていたのかもしれない。筆者が少なくとも被災地の住民であったなら、また向き合い方も違ったかもしれないが、そうすることであの感覚から逃れていたのだろうか。

ただ、当時のことを思い出したからといって、何か不快になる様なことはない。あれから1年経って、自分なりに向き合える気持ちが整ったのかもしれないし、自分なりにそうした体験をしたことを受け入れて前に進んでいくべきだとも思う。「東日本大震災」にしても「熊本地震」にしても、それぞれがいた場所、被災地との関係や立場によって感じ方、向き合い方も違うかもしれない。それでも『MARCH』を通じて、その中から共感することもあれば、自分なりの体験に向き合うこともあるだろう。そこから何かの行動につながるかもしれないし、自分の中で前進するきっかけになるかもしれない。たぶん、それで良いのではないか。

またいつか、どこかで三回目の『MARCH』を鑑賞したいと思う。もしかしたら来年の今ごろ、同じ場所かもしれないけれど。

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映画『MARCH』はJリーグクラブのサポーターを中心に、一口3000円の募金で集められた制作費で作られ、愛媛FCや対戦相手だったセレッソ大阪のサポーターなど、多くの人の協力で完成し、さらに有志の活動によってイベントなどが運営されていると聞きます。海外の映画祭にも出品されている様ですが、これから国内外で少しでも多くの人がこの映画を観て、何かを感じ取る機会が多く訪れることを鑑賞者の1人として願っています。

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スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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