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「1つ耐えてゲームの流れを呼び込む」GK川島永嗣が示した1本のセーブの重み、そして常に準備すること。

河治良幸スポーツジャーナリスト
UAE遠征中に34歳の誕生日を迎えた川島永嗣

24日にアルアインで日本代表の勝利に立ち会い、アブダビからの帰国便でライブTVを観ていたら、W杯欧州予選のスペイン×イスラエルが放送していた。スペインがダビド・シルバのゴールで先制してから前半途中にイスラエルが絶好の同点チャンスを迎えるが、守護神デ・ヘアのビッグセーブで切り抜けると、スペインは前半アディショナルタイムにビトロが追加点をあげた。

結局、試合は4−1でスペインの完勝だったが、”1本のセーブの重み”をあらためて認識させられた。日本代表もUAEで前半14分に久保裕也のゴールで先制したが、その6分後にこの試合最大のピンチがあった。中盤の今野泰幸と山口蛍を突破したアル・ハンマディのスルーパスが森重真人の裏に出ると、快足FWのマブフートが抜け出す。ペナルティエリアの右側から右足を振り抜いたが、GK川島永嗣が立ちはだかり、右足にボールを当てて弾き返した。

「ああいうシーンは出てくると思っていたので、そういった意味では冷静にゲームの中で対応できた」

そう語る川島が以前から良く言っていたのが「僕らディフェンスの人間が攻撃で貢献できることはそう多くない。でもGKとしては苦しいところで1つ耐えて、ゲームの流れを作ることはできる」というものだ。UAE戦のあの場面でのセーブは日本の危機を救うとともに、2−0で勝利する良い流れを呼び込むものとなった。

「今日は少し経験が必要なゲームだった。メンタル的に落ち着いた選手が必要だった」

起用の意図についてハリルホジッチ監督はこう説明した。クラブのメスでは公式戦のベンチに入ったのが2試合、あとは練習とリザーブの試合に出たのみだが、「自分はやれることをここまでやってきただけ」と振り返る。

「ベンチに入れない時は向こうで若い選手に混じってゲームをやらせてもらったりとか、とにかくトレーニングをやるしかなかったし、そういう意味ではやるべきことはやってきたと思うので、自分としては思い切ってピッチに入るだけだった」

実際のところ今回は合宿の初日からチームに合流できたこと、欧州と中東で時差が少ないことなど、GKに求められる繊細な要素を考えれば、川島が起用される理由は経験の部分だけではなかったはずだが、1本のセーブの重みを示すことで、あらためて2度のW杯で守護神をつとめたGKの存在を認識させる試合となった。

「今の選手のクオリティだったりとか、チームのグループを考えれば、誰が出てもやっぱりやれるだけの力はあると思うし。そこはさっきのキーパーの話ではないですけど、一人一人が与えられたチャンスを常に掴んでいかなければいけない」

川島はこのUAE戦のパフォーマンスによって自分が守護神の座を取り戻したとは考えていない様だ。「(西川)周作の存在は自分にとって常に大きいし、ここまでも周作が二次予選、最終予選と守ってくれているから今の結果がある」と語る川島はライバルであり仲間の存在を頼もしく感じながら、切磋琢磨してチームの雰囲気を作り上げる気構えがある。

勝利の瞬間、ベンチから試合を見守った西川周作はルグシッチGKコーチとがっちり握手し、さらにもう1人の控えGK林彰洋とも抱擁をかわした。練習のルーチンから2日前には川島の先発を予期していたという西川。今回はメンバー発表の直前に負傷した東口順昭の思いも背負って臨んでいた。

選手として今回の起用が悔しくないはずがないが、しっかりと勝利に向かう雰囲気を作り上げた姿勢は高く評価できる。もちろん次の試合に向けてはピッチに立つための準備とアピールをしていくはずだ。

一般的に日本と世界との差が最も大きいとも言われるGK。その評価が覆ることは簡単ではないが、こうした試合で重要な仕事をしてチームの勝利を支え続けることで流れは変わっていく。その重要性は結果的に誰がゴールマウスに立つことになっても変わらないが、それは試合をイメージした切磋琢磨の先にしかない。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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