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貿易赤字の拡大は原油価格の高騰と円安が主因

小黒一正法政大学経済学部教授

民間エコノミストの予想を上回るペースで、経常黒字が縮小している。財務省の速報値によると、2013年の経常黒字は約3.3兆円で、対前年で31.5%の縮小である。以下の図表1(出所は財務省ホームページ)をみると一目瞭然だが、その原因は貿易赤字の拡大である。

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対前年で、所得収支は約2.2兆円増加したが、貿易赤字は約4.8兆円も拡大した。そして、貿易赤字の拡大は、原油価格の高騰と円安が主因である。メディア等では、原発停止によるLNG(液化天然ガス)の輸入量の増加が主因であるような報道も見られるが、それは誤解である。以下、順に説明する。

まず、「輸出」「輸入」の動きを確認しておこう。以下の図表2は、2010年1月から2013年12月までの「輸出全体の金額」「輸入全体の金額」の推移である。この期間において、輸出金額は概ね横這いであるが、輸入金額は増加傾向にあることが読み取れよう。

最近、円安でも輸出が伸びない理由は定かではないが、製造業を中心とする現地生産拡大や輸出競争力低下のため、いわゆる「Jカーブ効果」が喪失しているためかもしれない。ただ、いずれにせよ、「輸出は横這い」「輸入は増加」の結果、輸出と輸入の差である貿易収支は黒字から赤字に転落したのである。

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では、輸入金額が増加傾向にある理由は何か。それは以下の図表3から読み取れる。この図表には、「輸入全体の金額」「原油及び粗油の輸入数量」「原油及び粗油の円単価」「液化天然ガスの輸入数量」「液化天然ガスの円単価」の推移(左目盛)を描いている。ただし、推移を見易くするため、どの数値も2000年1月時点の値を100に基準化した「指数」としている。また、参考として、為替レート(円ドル:右目盛)も点線で描いている。

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この図表3の青線(原油及び粗油の輸入数量)や水色線(液化天然ガスの輸入数量)の動きをみると、前者は若干減少、後者は若干増加しているが、大きな変化は見られない。むしろ、急激な上昇をしているのは、赤線(原油及び粗油の円単価)やオレンジ線(液化天然ガスの円単価)である。原油価格やLNG価格が円ベースで上昇している理由は、単純であり、それらの価格がドルベースで上昇していることと、円安である。

つまり、貿易赤字の拡大は、原油価格の高騰と円安が主因なのである。なお、原油価格等の上昇は2007年以降が著しい。原油価格やLNG価格がドルベースで上昇しても、貿易赤字に陥らなかった理由は、2012年まで円高が続き、円ベースの原油価格等の上昇が抑制できていたからにほかならない。

法政大学経済学部教授

1974年東京生まれ。法政大学経済学部教授。97年4月大蔵省(現財務省)入省後、財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授等を経て2015年4月から現職。一橋大学博士(経済学)。専門は公共経済学。著書に『日本経済の再構築』(単著/日本経済新聞出版社)、『薬価の経済学』(共著/日本経済新聞出版社)など。

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