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社会保障費の伸びは1兆円ではない

小黒一正法政大学経済学部教授

今年(2014年)4月1日から消費税率は5%から8%に引き上がった。今年12月頃には、消費税率を10%に引き上げる政治判断が控えており、スケジュール通りに税率の引き上げが行われれば、2015年10月から消費税率は10%となる。しかし、日本の財政状況は極めて厳しい。

今回のような消費増税は財政の持続可能性を高め、世代間格差を改善する試みの重要な一歩であるが、増税の効果を発揮するには、膨張する歳出の改革にも精力的に取り組む姿勢が重要である。その際、歳出改革の主なターゲットになるのは「社会保障」であるはずだが、政府が現在検討を進める社会保障改革は「不十分」との批判も多い。

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その理由は、社会保障給付費(年金・医療・介護等)の急速な伸びに対する対応が、今回のような増税のみでは全く追いつかず、もはや一定の抑制が不可避であるからである。以下の図表のとおり、給付費は平成15年度で約84兆円であったが、高齢化の進展により、平成25年度は約110兆円となった。110兆円は、名目GDPの2割超に達する規模である。

平成15年度から平成25年度の10年間では、約1兆円増の年度や約5兆円増の年度もあり、「ばらつき」があるが、年平均の給付費は2.6兆円程度のスピードで膨張してきたのが現状である。引き続き、このようなペースで社会保障給付費が膨張していくと、今回の5%増税で調達可能な財源(約13兆円)は、5年程度で食い潰されてしまう可能性が高い。

平成25年度の社会保障給付費110兆円の財源構成は、社会保険料収入が約60兆円、資産運用収入が約10兆円、残りの約40兆円は公費で賄う格好となっているが、ここ数年、生産年齢人口の減少などによって社会保険料収入は横ばいとなりつつあり、公費負担は急増傾向にある。

その際、公費負担のうち国の負担分を意味する「社会保障関係費」の伸びがこれまで約1兆円であったため、メディアを中心に、「社会保障コストの伸びは約1兆円」というイメージが広がっているが、それは楽観的な見通しと考えられる。

というのは、社会保障給付費が今度も年平均2.6兆円で伸び、社会保険料収入の横ばいが続く場合、社会保障関係費も給付費と同程度の伸びに近づく可能性が否定できないからである。

その上、現下の財政事情では、国の公費負担分は税収では賄いきれず、その過半は財政赤字で将来世代にツケを先送りしている現状にある。つまり、現状の社会保障は「給付>負担」となっており、その均衡には給付抑制か負担増が避けられない。

現在、公的年金の財政見通しに関する5年に1度の「財政検証」が厚労省によって実施されているが、今回の増税が無駄とならないよう、社会保障の抜本改革に切り込む安倍首相のリーダーシップが望まれる。

法政大学経済学部教授

1974年東京生まれ。法政大学経済学部教授。97年4月大蔵省(現財務省)入省後、財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授等を経て2015年4月から現職。一橋大学博士(経済学)。専門は公共経済学。著書に『日本経済の再構築』(単著/日本経済新聞出版社)、『薬価の経済学』(共著/日本経済新聞出版社)など。

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