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財政再建計画を検証する(2018年度PB赤字1%達成には2%程度の追加増税が必要)

小黒一正法政大学経済学部教授

以下の記事の通り、先般(2015年6月30日)の臨時閣議において、政府は財政再建計画等を盛り込んだ「骨太の方針」を決定した。

骨太の方針決定 財政再建、成長重視で 歳出抑制「目安」どまり、18年度赤字幅GDPの1%に(2015年7月1日付、日経新聞)

政府は30日夕の臨時閣議で経済財政運営の基本方針(骨太の方針)と成長戦略、規制改革実施計画をそれぞれ決定した。骨太の方針に盛り込んだ財政健全化計画は2020年度の財政の黒字化目標を堅持したが、歳出額の上限を設定せず、緩やかな「目安」にとどめた。(略)

17年4月の消費税率10%への引き上げを前提にしているが、10%を上回る増税は想定しない。(略)

第1の目安は、18年度の基礎的財政収支の赤字幅を国内総生産(GDP)の1%程度にすることだ。(以下、略)

政府・与党は、2020年度までに国・地方を合わせた基礎的財政収支(以下「PB」という)を黒字化する財政再建目標を掲げているが、今回の財政再建計画では、当初3年間(2016-2018 年度)の集中改革期間における改革努力のメルクマールとして、2018年度のPB赤字を対GDP比で1%程度とする目安が盛り込まれた。

では、なぜ「PB赤字1%程度」なのか。また、安倍首相は消費税率10%を上回る増税を封印しているが、そのような状況で、PB赤字1%程度という目安は2018年度に達成できる可能性は高いのか、簡単に考察してみよう。

まず、前者(PB赤字1%程度の根拠)は単純だ。社会保障・税一体改革で予定されていた消費税率5%の引き上げのうち、1%分は「消費増税に伴う社会保障支出増」(社会保障に関する国・地方の消費税負担増等)であり、ネットのPB改善幅は消費税率4%分となる。

また、消費税率1%の引き上げで期待される税収増は、対GDP比で約0.5%である。このため、2017年4月に消費税率を8%から10%に引き上げると、PB赤字(対GDP)の改善幅は0.8%(=(4÷5)×2×0.5%)となる。

他方、内閣府の「中長期試算」によると、現在(2015年度)のPB赤字(対GDP)は3.3%であり、2017年4月の消費増税による改善幅0.8%を取り除くと、2020年度のPB黒字化のため、5年間で改善が必要なPB赤字幅(対GDP)は2.5%(=3.3%-0.8%)である。

年平均で改善が必要なPB赤字幅は0.5%(=2.5%÷5)であるから、2020年度にPBが均衡するためには、2018年度のPB赤字(対GDP)は1%(=0.5%×(2020-2018))となる。これが「PB赤字1%程度」の根拠だ。

では、消費税率10%以上の増税を封印した状況で、PB赤字1%程度という目安は2018年度に達成できそうか。結論から言うならば、非常に難しい。これも、理由は単純だ。

まず、現在のところ、政府・与党は、中長期試算における「経済再生ケース」(実質GDP成長率2%程度)を念頭に財政再建を行う予定である。経済再生ケースの2018年度におけるPB赤字は対GDPで2.1%、金額では12兆円の赤字であり、2018年度のPB赤字(対GDP)を1%程度に収めるため、(実現できるか否かは明らかでないが、)政権は歳出改革で約6兆円の赤字圧縮を試みるつもりであるはずだ。

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しかし、高度成長が終焉する1970年代前半までの実質GDP成長率は年平均9%超であったが、その後バブル崩壊の直前(1990年)までは年平均3.9%、バブル崩壊以降は年平均1.1%に過ぎない。これは、中長期試算の「ベースラインケース」(実質GDP成長率1%程度)に近い。

この「ベースラインケース」では、消費税率10%引き上げ以外の追加増税や歳出削減は盛り込んでおらず、その場合、2018年度のPB赤字は対GDPで3%、金額では15.7兆円もの赤字が残る。つまり、バブル崩壊以降の日本経済の実力に近いケースでは、2018年度のPB赤字(対GDP)を1%程度に収めるには、約10兆円の赤字圧縮が必要となる。

仮に経済再生ケースの歳出改革で予定する6兆円の赤字圧縮が実現できても、4兆円(=10兆円-6兆円)の赤字(対GDP比0.8%の赤字)が残り、追加の増税や歳出削減が必要となってしまう。追加の歳出削減は社会保障が中心となるが、そのような歳出削減に政治的反発が強い場合、消費税換算で2%程度の追加増税が不可避となることを示唆する。

その場合、骨太方針の25ページでは、「歳出改革、歳入改革それぞれの進捗状況、KPIの達成度等を評価し、必要な場合は、デフレ脱却・経済再生を堅持する中で、歳出、歳入の追加措置等を検討し、2020 年度(平成32 年度)の財政健全化目標を実現する」という表現があることから、2020年度のPB黒字化に向け、2018年度以降の追加増税等を含め、財政再建計画は戦略の見直しを迫られることになるはずだ。

法政大学経済学部教授

1974年東京生まれ。法政大学経済学部教授。97年4月大蔵省(現財務省)入省後、財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授等を経て2015年4月から現職。一橋大学博士(経済学)。専門は公共経済学。著書に『日本経済の再構築』(単著/日本経済新聞出版社)、『薬価の経済学』(共著/日本経済新聞出版社)など。

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