華麗なるモデルの世界には、野心と官能美と悪夢のような運命が潜んでいる…『ネオン・デーモン』

2011年の『ドライヴ』でカンヌ映画祭監督賞を受賞して世界的に注目を集めるようになったデンマーク出身のニコラス・ウィンディング・レフン監督の、『オンリー・ゴッド』(13)に続く新作。前記の2作品ではライアン・ゴスリングと組んでハードな男の世界を描いていましたが、この新作『ネオン・デーモン』では一転して“美”に執着する女性たちの姿を、ロサンジェルスのモデル業界を舞台に描いています。

主人公のジェシーに扮するのは『マレフィセント』ではオーロラ姫だったエル・ファニング。あの『バベル』の女の子がすっかり成長した姿を見せ、純朴な田舎出の16歳の少女がファッション業界の魅惑と魔力にとらわれ、妖艶に変身していく姿を披露しています。

トップモデルになる夢を抱いて田舎町からロサンジェルスに出て来たジェシー。ネットで知り合ったカメラマン志望のディーン(カール・グルスマン)に撮ってもらった写真を手にモデル事務所を訪ねた彼女は、オーナーのロバータ(クリスティナ・ヘンドリックス)から「国際舞台で通用する」と言われて即、契約。数々の一流モデルを手がけてきたメイクアップ・アーティストのルビー(ジェナ・マローン)もジェシーの美しさを称賛し、気難しい有名カメラマンのジャック(デズモンド・ハリントン)も、尊大なデザイナーのロバート(アレッサンドロ・ニヴォラ)も、一目でジェシーに心を奪われます。しかし、売れっ子モデルだったジジ(ベラ・ヒースコート)やサラ(アビー・リー)は、自分たちの地位を奪っていくジェシーにむき出しの憎悪を向けるようになり、注目を浴びることで内に秘めていた自信と野心を解放していくジェシーもまた、ファッション業界の“闇”に飲み込まれていくのです…。

最初は純粋だったジェシーは周囲の注目と称賛を浴び続けることで自己愛に目覚め、毒々しい輝きを放っていきます。「美しさこそすべて。それ以外に価値はない」と言い切る人々。美しさを保つために整形を繰り返すモデル。美しい人に魅せられながらも、それに対して嫉妬心を抱く者。そして、まさに文字通り、美しさのためなら命も捧げようとする者…。そんな“美”に執着し、それに支配されている女性たちの物語です。

衣装提供にはサンローランやアルマーニが名を連ね、元レッド・ホット・チリ・ペッパーズのクリフ・マルティネスによる音楽に乗って、きらびやかな映像が次々と流れます。その絢爛豪華で幻想的な映像は、まるで白昼夢のよう。派手なライティングや最先端のファッションはとても刺激的で、この部分だけで観客を陶酔させてくれるのです。

しかし、ダークなサクセスストーリーに見えた物語は、後半で一気にその姿を変えていきます。そのあたりを詳しく語るとネタばらしになってしまうので、キーワードも具体的に書くことができないのですが(公開前のレビューですから…)、中世のとある逸話と現代の都市伝説がからまったホラー映画的な展開になるとだけ言っておきます。

あまりにも観客の意表をつく終わり方に、カンヌ映画祭では大喝采と盛大なブーイングが同時に起きたといいます。「観客の心に刺さることで、彼らの一部になる目的は達成された」とレフン監督が語ったように、忘れ難い衝撃を与えてくれる映画。それに、つまらない映画だと上映中でもどんどん退席していく海外のマスコミが、たとえブーイングを浴びせたとしても最後まで観ていたのですから、それだけ映像の力がある映画であることは確かです。

基本的に女性たちメインの物語ですが、その中で異彩を放つ男性が、ジェシーが泊まるモーテルの管理人ハンクに扮したキアヌ・リーヴス。思いっきり怪しげでうさんくさい男を、実に雰囲気を出して演じています。キアヌの大ファンだというレフン監督のたっての希望で主演が実現したもので、スターらしからぬ負のオーラを出しまくっているのです。

(『ネオン・デーモン』は1月13日から公開)

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