トランプ大統領誕生の元凶は、この下半身スキャンダル男だった?『ウィーナー/懲りない男の選挙ウォーズ』

ドキュメンタリー映画には二つの方向があって、最初に結論があって作りはじめるものと、最後までどこに着地するのかわからないものに分かれます。たとえばマイケル・ムーアの映画などは前者の方法論で撮られることが多く、あらかじめ訴えたいテーマがあって、それに沿った取材が行なわれていくわけです。そして、この『ウィーナー/懲りない男の選挙ウォーズ』は典型的な後者。元連邦下院議員ウィーナーのニューヨーク市長選挙に密着取材を開始した時、スタッフはこんな結末を予期していたのでしょうか? そしてさらなるとんでもない事態を引き起こしてしまうことを…。

この映画の主役はアンソニー・ウィーナー。2011年当時は連邦下院議員7期連続当選という輝かしいキャリアを誇り、若くてハンサム、明快なトークでも人気を集めていました。妻のフーマは長年ヒラリー・クリントンの右腕を務める才色兼備の女性で、二人はまさにアメリカの理想のカップル。ウィーナーはオバマ大統領に続く民主党の若手として注目の存在だったのです。しかし、そんな彼が誤ってツイッターにアップした投稿が、すべてを狂わせてしまいます。それは“ブリーフ1枚の下半身の写真”。なんと彼には女性と性的なメッセージを送りあう“セクスティング”という性癖があったのでした。これが原因でウィーナーは泣く泣く議員を辞職するハメになります。

映画はそれから2年後、再起を賭けてニューヨーク市長選挙に立候補した彼の選挙戦に密着していきます。これが輝かしいカムバックの記録になるのか、虚しい努力を描くものになるのか、撮影スタッフにもわからない状況でのスタートでした。なにしろ、全米を揺るがせたスキャンダルから、まだ2年しか経っていなかったのですから。

政策について語ろうとしても、スキャンダルについてしか質問してこないマスコミ。しかしウィーナーはストリートで人々の前に立ち、「もう一度私にチャンスを与えてほしい」と訴え続けます。その真摯な姿勢は人々の心を打ち、なんと彼はあっという間に支持率トップに躍り上がっていくのです。そんな矢先、彼には新たな疑惑が持ち上がり…。

絶対不利な状況からの選挙戦の裏側が、まず興味深いところ。戦略を立て、イメージを確立し、対立候補の穴を探る。この一部始終をカメラはとらえていきます。日本なら考えられないことですが、ニューヨーカーたちは下半身スキャンダルにまみれた彼を一度は許そうとします。その市民たちの感情の動きも面白い。しかし彼はまたしてもやらかしてしまいます。議員辞職後も、偽名を使ってセクスティングを行ない続けていたことが暴露されてしまったのです。いやはや、懲りない男です。

製作陣は彼の行動に対して批判的な姿勢は取っていません。といって彼に同情的な視線を送るわけでもなく、淡々とこの状況を追い続けるのです。マスコミの取材合戦で次々と新たな事実が発覚。彼をかばい続けてきた妻のフーマも困惑を隠せず、選挙スタッフは方針の立て直しに迫られます。なんと今度はセクスティングの相手の女性が売名行為を目的に名乗りをあげ、ウィーナーに面会を求めてきたのです。なんとしてもそれは阻止しなければ! そんな悪戦苦闘の日々は、ドラマの喜劇よりも笑えて、同時に悲劇的でもあります。撮影クルーも撮りながら、「どうなっちゃうの? この映画も選挙も?」と思っていたに違いありません。そんなライブ感覚が楽しめるドキュメンタリーなのです。

しかも、後に事態はウィーナーひとりにとどまらず、アメリカの、さらには世界の命運を変えることにまでなろうとは…。ウィーナー事件の調査を続けていたFBIが、妻のフーマとウィーナーの共用の端末を押収。するとそこから、ヒラリー・クリントンの自宅の私用メールサーバーが送受信したメッセージが大量に発見されてしまったのです。そう、昨年のアメリカ大統領選挙において、クリントン候補の最大の敗因となった「私用メール問題」の発端は、まさにこのウィーナーだったのでした。とすれば、もし彼が下半身スキャンダルを起こしていなければ、トランプ大統領が誕生していなかったかもしれず…。そう考えると、この映画がますます興味深く見えてくるのです。

(付記)

ウィーナーはこの映画の全米公開後の2016年にも、今度は15歳の少女とセクスティングを行なったと報道されています。妻とのその後のエピソードにも大爆笑です。

(『ウィーナー/懲りない男の選挙ウォーズ』は2月18日から公開)

(c) 2016 AWD FILM LLC, ALL RIGHTS RESERVED.