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選手たちが見逃さなかったメジャー公式球の“ある変化”

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
昨シーズンからマンフレッド現コミッショナーのサインが刻印されている

いよいよポストシーズンも大詰めを迎えたMLBだが、実はあまり認知されていないものの今年は試合のトレンドを大幅に変えてしまうほどの変化が起こっていたのをご存知だろうか?

シーズン中に聞いた選手たちの評判

シーズン中盤が過ぎたばかりの頃だった。

「選手たちが今年のボールは飛ぶようになったと言っているんですが、どう思いますか?」

声の主は知り合いのある球団関係者だった。その時は何の確証もなく、世間話程度に聞き流していた。いわゆるステロイド時代といわれた1990~2000年代のマグワイア選手やボンズ選手のように人並み外れたペースで本塁打を量産する打者がいるわけでもなく、本塁打競争も例年と大差なかったからだ。だが後になって自分の認識の甘さと選手たちの感覚の正しさを思い知らされることになった。

次々に明らかになるデータの数々

シーズン終盤になると、選手たちの証言を裏づけるデータが次々に登場してきたのだ。まず9月22日にESPNの公式ツイートが発表したものだが、今年20本以上の本塁打を打った打者の総数が1999年の103人、2000年の102人に次いで、100人に到達したというものだった(公式戦終了時には計111人でメジャー新記録を樹立している)。

さらに公式戦終了後にMLBの記録データを専門に扱った公式ツイートが、今シーズンの全2万1744得点のうち40%以上の8743得点が長打によってもたらされたというデータを発表。こういった証拠を目の当たりにしたことでさらに自分でも追跡調査をしてみると、次々に裏づけデータが出てきた。

ステロイド時代と遜色ない飛距離

今シーズンのリーズ全体の長打率は.417を記録しており、長打率が.410を超えたのは2009年(.418)以来のことだった。さらに今シーズンの総本塁打数は5610本になり、5600本を超えたのはステロイド時代全盛期だった2000年(5693本)以来のことだ。ステロイド時代とは違い、選手に対し徹底的な薬物監査と罰則が設けられている現在、選手の肉体が劇的に変化するはずもないし、またバットも今年に入って飛躍的な技術革新をしたという話も聞こえてこない。やはり公式球が変化したという結論を導き出すのが妥当だろう。ではなぜMLBは急に公式球を変えてきたのだろうか?

時代は再び“打高投低”へ?

実は公式球はその飛距離とは別に、昨年から目に見える変化を遂げている。シーズン開幕から刻印がバリグ前コミッショナーからマンフレッド現コミッショナーのサインに変わったのだ。もし現コミッショナーが、ステロイド時代以降長らく続いていた“投高打低”の潮流を打破し、攻撃中心のエキサイティングな野球を取り戻そうと考えたとしたならば…。

もちろん最後の部分は個人的推測でしかない。だが今シーズンは試合のトレンドが一気に“打高投低”へとシフトチェンジしたことだけは間違いない。果たしてこの流れは来年へと繋がっていくのだろうか?

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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