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前田健太に何が起こったのか?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
NLCS第5戦に先発したものの4回途中降板したドジャース・前田(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

満を持しての先発で4回途中降板

シリーズ2勝2敗で迎えた第5戦。両チームともに勝てばシリーズ王手がかかる天王山に、先発した前田投手は気合い十分でマウンドに立ったはずだ。

しかし結果は4回途中降板で、しかも投手との対戦を前にしての交代劇。試合後前田投手が「すっきりしない」と話しているように、交代を決めたロバーツ監督との間に明らかなズレがあった。

監督は信頼感を口にするが…

結局前田投手はポストシーズンに入ってから3度先発し、3回、4回、3.2回とまったく先発投手としての役目を果たすことができなかった。ロバーツ監督は前田投手について聞かれる度に信頼の言葉を口にしてきたものの、その起用法からもポストシーズンに入って大車輪の活躍をしているカーショー投手、ジャンセン投手への信頼感とはまったく違うのは明白だ。

現状を理解するための2つの要素

なぜこうなってしまったのか?そこには2つの要素があるではと考えている。まず1つは、ポストシーズンにおけるロバーツ監督の采配の変化だ。短期決戦ということで試合の流れを少しでも掴みたい、渡したくないという思いが強いのか、選手起用の面でやや前のめりと思えるほど先手を打つようになった。

カーショー投手を中3日で先発させ、さらに試合前には否定していた同投手の中1日での中継ぎ起用を断行。また抑えのジャンセン投手を一度も経験のない7回から起用したのが典型的な例だろう。

前田投手の場合はまさにその反対のケースで、先手を打って早めに交代させられたのは、前田投手に対し「流れを変えられてしまうかも…」という不安を感じていたからに他ならない。

ロバーツ監督がそうした感情を抱くことになった原因になったのではないかと思うのが2つ目の要素だ。それはシーズン終盤での前田投手の投球にある。

今シーズンの前田投手は先発陣の中で唯一離脱することなくローテーションを守りきり、32試合に登板し、16勝11敗、防御率3.48を残した。十分に賞賛に値する成績だった。

クォリティー・スタートの明らかな減少

ただちょっと視点を変えると、終盤の投球に違った側面が見えてくる。8月以降11試合に登板し、勝敗だけなら7勝4敗と決して悪くない成績なのだが、先発投手の活躍度の指標となるクォリティー・スタート(先発して6回以上、3失点以内の登板数)で見ると、わずか3試合しかないのだ。逆に開幕から7月までは21試合に登板し、クォリティー・スタートは半数以上の11を記録しているのだ。

その理由は投球数にある。今シーズンの前田投手は100球以上投げた試合が8試合(しかも最多で107球が2度)しかなかったことからも判断できるように、ロバーツ監督は契約前に見つかっていた前田投手の右ヒジの“イレギュラー”な部分を意識しており、できる限り100球以内で交代させるような起用を心がけていた。

それでも7月までは5割以上の確率でクォリティー・スタートを記録していたのに、8月に入ると失点こそ少ないものの6回まで投げきれなくなってしまった。これこそがポストシーズンに入って指揮官が前田投手に感じた“不安要素”だったのではないだろうか。

来シーズンの課題が浮き彫りに

ちなみに前田投手の先輩である黒田投手の場合、メジャー(ドジャース)1年目は9勝10敗に終わったものの、31試合に登板し18のクォリティー・スタートを記録。首脳陣から先発投手として確固たる信頼を獲得している。

ワールドシリーズ進出がかなり厳しくなり、果たして前田投手にポストシーズンでの再登板があるのかはわからない。ただこのポストシーズンで、来シーズンへの課題が浮き彫りになったのではないだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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