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悲劇の死を遂げたフェルナンデスの隠された過ち

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
メジャー球界に大きな衝撃をもたらしたフェルナンデス投手の悲劇的な死(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

ワールドシリーズで盛り上がるメジャー球界に10月29日、あまりに悲しいニュースがもたらされた。

今年9月にボート事故による悲劇的な死を遂げたホセ・フェルナンデス投手の検死結果が明らかになり、体内から多量のアルコールだけでなくコカインが検出されたというものだ。

少し前に体内からアルコールが検出されたというニュースが流された時は、事故究明のために仕方がないことだと納得している反面、故人の粗探しをしているようで何かいい気分はしなかった、だが麻薬が検出されたとなると、ちょっと話は違ってきてしまう。

すでにMLBはステロイドなどの禁止薬物を球界から撲滅しようと真剣に取り組んでいる。さらに麻薬となれば以ての外なのは言うまでもないことだ。そして選手たちはその一貫として地域社会に向け薬物撲滅を目指す啓蒙活動を積極的に行っていた。もちろんフェルナンデス投手のその1人だったはずだ。その当人が麻薬を使用していたとなれば、彼から直接メッセージを受けた子供たちはどう思うだろうか。

ボートでも飲酒運転は禁止されているし、それ自体を肯定するつもりは毛頭ないが、飲酒という行為自体は違法ではない。だが麻薬を使用することは絶対に許されない。飲酒による正常な判断ができなくなっていた可能性が否めないが、それでも人として絶対に超えてはいけない一線を踏み越えてしまった。米国社会では“ロール・モデル(社会的規範)”としての役割を求められるトップアスリートとして、フェルナンデス投手も間違いなく自覚していたはずなので、やはり残念で仕方がない。

正義感を振りかざそうとは思わない。叩けばホコリが山ほど出てくるし、過ちと反省を繰り返してきた人生だった。だがどんな大きな過ちでも反省、償いができるのは、生きていればこそなのだ。もう今のフェルナンデス投手に叱責の言葉さえ届かない。

今回のニュースによってフェルナンデス投手の人格、人間性が否定されるとは思わないし、球界に残る彼を失った焦燥感が薄らぐこともないだろう。ただフェルナンデス投手の死に麻薬の影響が多少なりともあったとするなら、むしろ更なる無念さに苛まれるばかりだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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