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強化試合初戦で垣間見られた侍ジャパンの不安要素

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
第4回WBCで王座奪還を目指す侍ジャパン小久保監督(写真:中西祐介/アフロスポーツ)

予想外だった?初戦の敗北

来年3月開催の第4回WBCでの王座奪還を目指し、侍ジャパンが最後の調整の場として強化試合に臨んだが、メキシコ代表との初戦で期待通りの試合運びができず敗れ去った。

昨年のプレミア12で連勝した相手とはいえ、あの時のチームは大会直前まで選手を集められず出場辞退まで囁かれた寄せ集め集団だったが、今回は現役MLB選手も加わるなど、チーム力が上がっているのは歴然としていた。

明らかなWBC使用球への準備不足

だが今回の敗戦はメキシコ代表のチーム力云々というよりも、その根本にあるのは侍ジャパンが投打に渡ってWBC使用球(=MLB公式球)への対応が間に合っていなかったことにある。

第1回WBCが開催されたのが2006年のこと。それ以来WBC使用球が日本人選手にとって取り扱いが難しいとされてきた。しかし選手が世代交代を繰り返す中でWBC使用球の経験が浅い選手が加われば、必然的に同じ対応を繰り返さなければならないのは仕方がないことではあるのだが…。

投手以上に打者が抱える不安要素

ただ投手に関しては、WBC使用球に大きな不安はないと思う。強化試合が終わった後もWBC使用球を使って引き続き調整を行えば、制球、変化球の曲がり具合を確認でき、本番までにかなりの違和感を解消できるだろう。

実はWBC使用球への対応で心配されるのはむしろ打者の方だ。もちろん打者も、オフの間にWBC使用球を使って打撃練習はできる。しかしWBC使用球を自在に操る外国人投手が投げる球筋(変化球の軌道や手元で動く球の変化具合)や配球を把握するには、実戦(経験)を重ねるしかないのだ。

WBC使用球による実戦不足

初戦で侍ジャパンは5安打を記録しているが、長打は筒香選手が5回に放ったセンター越えの二塁打のみ。その筒香選手は昨年のオフにドミニカのウィンターリーグで実戦を積み、他の選手以上に外国人投手の球筋を観察できていた。今回の結果が単なる偶然だとは思えない。

本来ならプレミア12でもWBC使用球を採用し、少しでも選手たちが実戦で慣れる場を用意すべきだったのだろうが、今更何を言っても始まらない。果たして今回の強化試合4試合で打者がどこまで対応できるのか?すべては第2戦以降の各打者の打撃を見守るしかない。

メキシコ代表がみせたシフト守備の意味

もう一つ気になることがある。侍ジャパンに対する相手チームの対策強化だ。第1戦では筒香選手や山田選手(偶然かもしれないが2人ともMLBでも注目されている選手)に対し、メキシコ代表チームが極端なシフト守備を採用してきた。

ここ数年MLBではシフト守備がすっかり定着しているが、あれだけ極端な守備位置をとれるのは相手打者のデータをしっかり揃え、打球方向を限定させる配球で攻める自信があるからだ。つまりこの試合でシフト守備を採用できたのも、メキシコ代表が侍ジャパンのデータをある程度入手していたからと考えるべきだろう。

今ではMLB各チームのスカウトがNPBの公式戦でスカウティング活動をしているのは日常茶飯事となっている。MLB関係者も多数加わっているメキシコ代表チームが様々なルートを使って、侍ジャパンのデータをある程度入手することも決して不可能ではないはずだ。しかも今回の強化試合を通じて、対戦相手のメキシコ代表、オランダ代表のみならず、本大会で対戦予定のチームにも更なるデータを渡していることも認識しなければならない。

各国チームの本気度は過去最高

今回のメキシコ代表の戦いぶりからも垣間見られるように、第4回WBCに向けた各国チームの本気度はかなり上がっているとみていい。自分が掴んでいる情報では、ベネズエラ代表は本気で初優勝を目指しており、過去にないドリームチームを編成する計画だという。また連覇を狙うドミニカ代表も、MLBのシーズン中に主力選手たちに参加意志の確認を行うなど、着々と準備を進めている。

例年以上に求められる侍ジャパンの対策強化

まずは采配以前の段階として、選手それぞれがWBC使用球を使用してもNPB公式戦同様のプレーができる状態にするのが求められている。

強化試合といえども勝利は重要だが、何事も成功よりも失敗から多くのことを学ぶことができる。侍ジャパンも強化試合を通じて多くの改善点を露呈することで、このオフにしっかり修正して本番に臨めばいいだけのことだ。

ただここで論じてきたように、例年以上に厳しい戦いを強いられるのは必至の状況だ。侍ジャパン全体でしっかり対策を練っていかないと、決勝ラウンド進出すら逃す危険性があることを肝に銘じるべきだろう。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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