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WBC参加容認発言を繰り返すMLBチーム首脳陣の裏事情

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
ヤンキース・キャッシュマンGMも田中投手の出場を容認するような発言をしているが…(写真:ロイター/アフロ)

11月7~10日の日程で、MLBのGMミーティングがアリゾナ州で開催されていた。

このミーティングは、GMはもとより各チームの編成部門のトップが集結し意見交換を行う場で、米国メディアのみならず日本メディアも多数取材に足を運んでいる。ここ最近日本人メジャー選手のWBC出場に関するチーム側の発言が度々報じられていたのも、このミーティングで関係者から話を聞き出したものだ。

それらの報道からも理解できるように、今年は各チーム首脳陣のほとんどすべてが、WBCに対して前向きな発言を繰り返している。日本人メジャー選手に関しても前田健太投手に関しては懐疑的だったが、イチロー選手、田中将大投手、上原浩治投手に対しては出場を容認するような発言が続いた。

これは日本人選手に限ったことではなく、MLB選手全体に向けられたものだといっていい。それを物語るように、今季公式戦、ポストシーズンを通じて240イニング以上を投げたマックス・シャーザー投手がWBCの参加表明を行ったニュースが流れても、ナショナルズからは何の否定的な発言も出てこない状況だ。

これまで過去3回のWBCでは、多くの首脳陣から選手(特に投手)を派遣するのに懐疑的な発言の方がはるかに多かった。もちろん過去の大会においても最終的には選手の意志が尊重されるのだが、それでもチームからは参加阻止への圧力はかなり強かった。自分たちの管轄外の大会で主力選手が故障をし、シーズンに影響を及ぼすことを考えれば、編成部門のトップとして否定的な立場に立つのは当然だろう。それがなぜ今回は参加容認へとシフトしたのだろうか?

実はその原因の1つだと思われるのが、現在MLBが喫緊の課題として直面している統一労働規約の妥結問題だ。

統一労働規約(Collective Bargaining Agreement:通称CBA)は、MLB機構と選手会で定期的に結ばれる選手契約を含めた規約で、現在の規約は12月1日で失効してしまうため、現在は早期の新規約合意が求められている状況なのだ。過去には新しい規約合意が物別れに終わり、1994年シーズン途中に選手会がストライキを実施したという有名な黒歴史が存在するほど、規約合意はMLBの将来の将来を左右するほどの重要なイベントだ。

その一方でWBCは、現在交渉を行っているMLB機構と選手会の共催で行われており、大会収益は両者で折半している。つまりWBCは選手会にとって大きな収入源の1つであり、選手会からすれば主力選手がWBCに続々参加し、スポンサー、入場者数が増えてくれることに何の異論もないのだ。

各チームもストライキという最悪のシナリオを避け、早期合意を望んでいることに変わりない。そんな交渉真っ直中のこの時期に、自ら選手会の機嫌を損ねるような発言をするのは御法度だ。そう考えれば、今回の各チーム首脳陣のWBC参加容認発言も納得できないだろうか。

いずれにせよ新規約が一刻も早く合意に至らなければ何事も前に進めない。ただ合意した途端、チーム首脳陣の態度が一変しないのか、一抹の不安が残る。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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