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統一球の基本理念は何処へいってしまったのか?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
統一球とMLB公式球の違いはいまだに解消されていない

侍ジャパンが、4試合の強化試合を戦い終えた。

3勝1敗という結果はともかく、来年3月開催の本大会で使用されるWBC公認球(=MLB公式球)を試したところ、投手からは「滑る」「変化が違う」という反応が続き、打者も「芯に当たらないと飛ばない」と口を揃えた。過去のWBC大会前にも繰り返されてきたことだが、改めてNPBが採用する統一球とMLB公式球に大きな違いがあることが浮き彫りとなった。

そこで改めて2011年に統一球が導入された経緯を考えてみよう。加藤良三前コミッショナーの旗振りで導入された統一球は、2つの問題を解決するためのものだった。

まずはチーム間の格差是正だ。導入前は各チームがそれぞれ勝手にメーカーと契約したボールを使用できたが、それにより球場によって成績に差が生じているとの懸念が生じ始めた。その不公平感を解消するためだった。

そしてもう1つが、WBCなどの国際大会基準のボールに近づけることだった。2006、2009年開催のWBC2大会で連覇しながらも、選手たちがMLB公式球の対応に苦労したことを考慮し、選手たちが普段から使用するボールをMLB公式球に近づけることで、国際大会でも公式戦同様のパフォーマンスができることを目指したのだ。

しかし現状は導入から6年経っても、何ら問題が解消されていない。どうしてこうなってしまったのか。

すべては2013年に起こった、統一球変更隠蔽問題ではないだろうか。詳細は省くとするが、この問題は加藤前コミッショナーの引責辞任に繋がっていく一方で、社会現象にもなった問題の収束とともに、本来の目的の一つだった統一球がMLB公式球に近づいているのかについて、人々の関心が薄らいでしまったように思う。

統一球が導入された最初の2年間は、“飛ばないボール”と呼ばれ、野球の魅力を減退させるとまで言われた。中にはメジャー公式球よりも飛ばないとも噂された。

しかし、その飛ばないボールを使用していた選手たちが出場した2013年の第3回WBCで、侍ジャパンの長打率は4割3分3厘に留まり、第1回大会の4割7分8厘(ちなみに第2回大会は3割9分3厘)を超えることはなかった。さらに今回の強化試合でも、選手たちは次々にMLB公式球に戸惑いを露わにする始末。本当にこのままでいいのだろうか…。

そもそも侍ジャパンを常設化した目的も、世代を超えて日本代表チームが国際大会で輝かしい活躍を目指したものであり、シニア代表が出場するWBC優勝はその究極の目的のはず。まさに統一球は、その環境を整えるための重要な要素であるべきなのだ。

さらに付け加えるならば、“国内基準”の統一球を使い続ける限り、投手よりも打者の方でMLBでも活躍できるような長距離打者が現れるのは難しいだろう。ここ近年の日本人メジャー選手の動向をみれば一目瞭然だ。

もう第4回大会は選手たちの適応力に期待するしかない。しかし日本プロ野球界の未来を本当に危惧するのならば、今こそ統一球の基本理念に立ち返るべきではないだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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